3月31日(金)第293回セミナーは都合により中止となりました |
和歌山県那智勝浦町の津波堆積物調査(予察)
Preliminary report of the tsunami deposits survey in eastern Wakayama
講演者:松本 弾(海溝型地震履歴研究グループ)
南海トラフで発生する津波の履歴を解明するために,和歌山県東部で津波堆積物を目的とした掘削調査を実施した.調査では那智勝浦町の沿岸低地においてジオスライサーを用いて13地点で深度約2mまでの試料採取を行ったほか,その近傍の池ではハンドコアラーによる表層地質層序の確認を行った.その結果,この地域に厚い海成砂や,泥炭と互層をなす薄い砂層が面的に広がっていることが確認できた.各種分析は未着手であり,これらの砂層が津波堆積物である可能性はまだ不明であるが,現地調査で観察できたことについて予察的に報告する. |
第292回 3月24日(金) 13:00-15:00 オンライン(Teams) ※13時開催ですのでご注意ください. |
下部地殻地震
Lower crustal earthquakes
講演者:今西 和俊(活断層・火山研究部門)
陸域の地震は上部地殻で発生することが知られており,日本列島においては深さ約15kmよりも浅い場所で発生している.一方,それより深い下部地殻では塑性変形が支配するため,地震波を伴うような破壊は生じないとされている.しかし,地表に露出している過去の下部地殻岩石から地震発生の痕跡であるシュードタキライトの産出が報告されていたり,超稠密アレイ観測により検知能力を大幅に上げることで断層帯直下で微小地震活動が検出されるなど,下部地殻でも脆性破壊が生じていることが明らかになってきた.本研究では,日本列島陸域の下部地殻で発生している地震を抽出し,その特徴について調べた結果を報告する. |
第291回 3月17日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
宮崎県沖で発生した1662年日向灘地震の断層モデル構築
Fault model estimation of the 1662 Hyuga-nada earthquake off Miyazaki Prefecture
講演者:伊尾木 圭衣(海溝型地震履歴研究グループ)
日向灘は,浅部スロー地震活動が活発な地域であり,またM7クラスの海溝型地震が数十年間隔で発生している.
歴史記録上,日向灘で発生した最大規模の地震とされる1662年日向灘地震は,地震の波源域が浅部スロー地震域まで広がったことにより巨大津波が発生したという仮説を設定し,その検証を行った.
断層モデルの仮定,津波堆積物調査,津波の浸水計算より,津波堆積物の分布範囲や歴史記録による津波の高さを説明することができる断層モデルを構築した.
また宮崎市と日南市において,この地震と1707年宝永地震の津波による浸水範囲の比較検討も行った. |
第290回 3月10日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
鉛直ひずみデータの原位置キャリブレーション
In-situ calibration of vertical strain data
講演者:松本 則夫(地震地下水研究グループ)
南海トラフ地下水等総合観測施設の600m井戸に設置されている「デジタル式地殻活動総合観測装置」には,水平のひずみセンサーとともに鉛直のひずみセンサーが含まれている.いままで,短期的ゆっくりすべり(S-SSE)の解析などの地殻活動モニタリングには水平のひずみデータのみが用いられてきた.特に観測点間隔が広い地域では,鉛直ひずみセンサーも活用し,モニタリング精度を向上させる必要がある.
本研究では,その第一歩として鉛直ひずみデータの潮汐による原位置キャリブレーションを実施した.解析を行った12観測点のうち,11観測点で観測データの振幅は潮汐の理論振幅の倍半分の範囲内となった.
位相の差は9観測点で±6度以内,2観測点で±10-20度程度,1観測点では±50度を超えた.これらの結果から,少なくとも9観測点ではキャリブレーション後の鉛直ひずみデータを活用可能であることが分かった.
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3月3日(金)第289回セミナーは都合により中止となりました |
静岡県浜松市西部の米津池跡で見られる1498年明応地震による津波の痕跡
Trace of the 1498CE Meio tsunami recorded in a pond on the Hamamatsu plain, Central Japan.
講演者: 藤原 治(地震災害予測研究グループ)
静岡県浜松市西部に江戸時代まで存在した米津池の跡地で行った掘削調査によって,1498年明応地震による津波の痕跡を検出した.この津波の堆積物は厚さ10~15 cmの中粒砂~細粒砂からなり,津波の遡上と戻り流れを記録している.放射性炭素年代測定結果から,この砂層の堆積時期は1440年から1600年頃の間に限定される.津波発生当時,米津池は海岸や河川から1.2 km以上離れた内陸にあった.明応津波の前には泥炭が堆積していたが,津波後は粘土層が堆積するようになった.また花粉組成の変化から,津波によって池周辺の植生,特に草本植生が大きく変化したことが示唆された.プラント・オパール分析からは,この津波で水田が荒廃したことが推定された. |
第288回 2月24日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
三重県南部の沿岸湖沼における過去3000年間の海水侵入の履歴
Marine inundation history during the last 3000 years at a coastal lake in southwestern Japan
講演者:嶋田 侑眞(海溝型地震履歴研究グループ)
三重県南伊勢町における過去数千年間の海水の侵入履歴を明らかにする目的で,同町にある「こがれ池」で湖底堆積物を採取した.こがれ池の堆積物は主に有機質シルト層で構成され,その中に18枚のイベント堆積物が確認された.堆積学的特徴,及び大型植物化石と濃縮花粉化石による14C年代測定の結果に基づき,イベント堆積物の側方対比を行ったところ,18枚のうち13枚については湖沼の海側部分のみに分布することから,津波または非常に大きな高潮・高波による海水の侵入で形成されたと考えられた.年代測定の結果を基に作成した年代-深度モデルから,こがれ池のイベント堆積物は過去約3000年間に堆積したことが分かった.そのうち,6枚が南海トラフで発生した歴史地震による津波堆積物の可能性がある.
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第287回 2月17日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
花崗岩の高温高圧変形実験に見る,粉砕長石粒子の焼結による破壊のゆっくりとした進行
Gentle failure due to sintering of crushed particles of feldspar in granitoids during faulting under hydrothermal condition
講演者:高橋 美紀(地震テクトニクス研究グループ)
We conducted axial compression experiments on granite specimens under high-temperature conditions (400-750 deg. C) with a set of constant confining and pore water pressure of 104 MPa and 39 MPa, respectively, to evaluate potential of induced earthquakes during the construction of a fracture reservoir in granitoids for the development of ultra-high enthalpy geothermal system. This research based on results obtained from a project, JPNP18008, subsidized by the New Energy and Industrial Technology Development Organization (NEDO).
Highlights of this research are as follows.
• Slower stress-drop during faulting in granite rock specimen at higher temperature.
• Healing of fractures due to sintering of sub-micrometer sized feldspar fragments
• Healing in feldspars may suppress dynamic failure.
• Healing in feldspars and porosity in quartz constructs the porous media framework. |
第286回 2月10日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
身延断層の変位地形の再検討
Reexamination of faulted landforms along the Minobu fault, central Japan
講演者:丸山 正(活断層評価研究グループ)
身延断層は,富士川谷の新第三系を大きく変位させる南北走向で西傾斜の逆断層として知られているが,第四紀後期の活動の詳細については長らく明らかにされていなかった.そのため,富士川河口断層帯と糸魚川−静岡構造線断層帯との間には活断層の分布にギャップが生じていた.水本ほか(2016)は,地質学的に確認されている身延断層沿いで新期の地形面に変形を認め,活断層としての身延断層が左横ずれを主としていることを報告した.今回身延断層の活動性を解明するための調査の一環として,新旧の地形情報の判読や現地調査により同断層とその周辺の変位地形を再検討したところ,新たに新期の活動を示す可能性のある地形が認められた.セミナーでは断層変位地形の特徴について紹介する.
本調査は,令和4年度科学技術基礎調査等委託事業「活断層調査の高度化・効率化のための手法の調査手法の検証」の一環として実施したものです.
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第285回 2月3日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
活動性が低い活断層の調査研究とその展望~フランスにおける研究事例から~
Studies on active faults with low activity, learned from paleoseismological studies in France
吾妻 崇(活断層評価研究グループ)
一般に,活動性が高い活断層ほど,大地震を発生させる可能性が高いと考えられるが,存在する数を考慮すると活動性が低い活断層から発生する地震も無視できない.活動性が低い活断層は,断層変位地形が不明瞭で地形判読によってその存在を認定することが困難なことが多い.また,活動の繰り返し間隔が長いことが多く,トレンチ調査などの地質調査を実施しても複数回の断層活動イベントを解読することは困難である.こういった研究上の困難さから,日本国内では活断層の調査・研究の対象から敬遠されがちである.日本と比べて地殻変動の速度が遅いヨーロッパにおいて,近年,活断層の古地震調査が進められている.2022年9-10月にフランスで開催された古地震研究のワークショップに参加する機会があったので,その会議と巡検の内容とそれらの事例を見て感じたことを交えて,活動性が低い活断層の調査研究とその展望について考察する. |
第284回 1月27日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
産総研地下水等総合観測井における透水性評価のための孔井内測定手法の適用事例:主に測定時の制約に対応するために
Application examples of hydraulic conductivity evaluation methods at AIST integrated groundwater observation boreholes: For managing insufficient measurement conditions
講演者:木口 努(地震地下水研究グループ)
産総研が整備を進めている地下水等総合観測点では,掘削孔井の透水性を評価するために孔井内測定を実施している.各観測点の地質などの条件によって,標準的な測定手順を変更する場合があり,電気伝導度検層については,多くの観測点で孔内水の置換や水頭の低下などの測定手順が変更される制約があった.このような制約下で測定した場合のデータへの影響や,解析可能な品質のデータを取得するための対応策などに関する測定事例を整理し,将来の同様な測定時に参考となるような観点から取りまとめた.また,2021年度に実施した核磁気共鳴検層による透水性評価の結果も紹介する. |
第283回 1月20日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
北海道東部の浜堤列平野に見られる巨大津波による侵食痕跡
Scour ponds generated with unusually large tsunamis on a beach-ridge plain in eastern Hokkaido, Japan
講演者:澤井 祐紀(海溝型地震履歴研究グループ)
北海道東部浜中町において地形・地質調査を行った.ドローンによる地形判読の結果,現在の海岸線より300m程度内陸に明瞭な凹凸地形が見られた.この結果を踏まえて地中レーダー探査と掘削調査を行ったところ,凹凸地形は当時の海岸を侵食した痕跡であると考えられた.放射性炭素年代から,海岸の侵食は13-14世紀に発生した巨大津波によるものと推定された. |
第282回 1月13日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
動力学的震源モデルに基づく中央構造線断層帯の連動性の検討(その2)
Investigation of multi-segment earthquake on the Median Tectonic Line active fault zone based on dynamic rupture simulation (Part 2)
講演者:加瀬 祐子(地震災害予測研究グループ)
昨年度に引き続き,中央構造線断層帯の連動可能性とその条件を検討するため,讃岐山脈南縁東部区間,同西部区間,石鎚山脈北縁区間,同西部区間を対象として,動的破壊シミュレーションをおこなった.今回は,断層モデルと媒質モデルを見直すとともに,より現実的な応力場モデルとして,応力降下量の深さプロファイルとして2通り(深さ10 kmまで増加;深さ5~10 kmで一定値),最大水平主圧縮応力軸の向きとして3通り(EW,;N60˚W;走向に沿って変化)を考慮した震源モデルを用いた結果を報告する. |
第281回 12月23日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
露頭解析に基づく岐阜県恵那山断層の形状と運動方向
Fault geometry and slip direction of the Enasan Fault revealed by an outcrop study
重松 紀生(地震テクトニクス研究グループ)
岐阜県恵那山断層は岐阜県中津川市から土岐市南部に至る活断層である.このたび文部科学省の委託研究「屏風山・恵那山断層帯及び猿投山断層帯(恵那山-猿投山北断層帯)における重点的な調査観測」の中で,基盤岩中での形状とすべり方向の検討を行った.調査では恵那山断層に沿う100 m 程度の範囲において断層を横切る複数ピットを掘削し,ピット内において断層観察を行った.またフォトグラメトリによるデジタル露頭モデル(DOM)を構築することで,露頭の全体像とピット内の詳細構造把握した.
調査により次のような点が明らかになった.(i)調査範囲において,恵那山断層は北東–南東走向60°~70°南東傾斜の複数の断層面から構成される.(ii)最新すべり面上では,北東方向から 20°から 80°のレーク角,上盤側が上昇,もしくは右横ずれを示す条線が観察される.(iii)最新すべり面上の異なるレーク角は,断層運動方向の変化によるもので,最終すべり方向がレーク角20°の方位.(iv)地震の破壊数値計算との比較から,恵那山断層の全体のすべり方向はレーク角 20°の方向,破壊開始点は今回の調査箇所よりも北東,北東から南西への破壊伝播が考えられる.
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第280回 12月16日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
統合解析による南海トラフ沿いSSEの10年間
Short-term SSEs along the Nankai Trough by joint analysis in the last 10 years
講演者:板場 智史(地震地下水研究グループ)
地震地下水RGでは2007年に紀伊半島におけるボアホール歪計などの観測を開始し,その後順次東海や四国地方へ観測網を拡大している.ボアホール歪計だけでは観測密度が十分ではないため,2010年度からは防災科研Hi-netの傾斜データ,2012年度からは気象庁の歪データ,更に産総研の地下水データ(自噴井を密閉して間隙水圧→体積歪データに変換)を加えて統合解析を開始し,SSEの検知能力を大幅に向上させ,国の南海トラフ沿いの高精度モニタリングに貢献している.2022年で3機関・3種の統合解析を開始して10年となるので,この間のSSE発生状況や今後の展開などについて紹介する.
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第279回 12月9日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
finite mixture modelを用いた断層の幾何と配置の推定
Inference of fault geometry and configuration with a finite mixture model
講演者:堀川 晴央(地震テクトニクス研究グループ)
震源の位置と発震機構解をデータとして,長さのスケールが数kmから10 kmオーダーの断層面の幾何や配置をできるだけ客観的に推測することを目的に,finite mixture modelをベースとした推定手法の開発を現在進めている.本講演では,この手法を2016年熊本地震に適用した暫定的な結果を報告する.
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第278回 12月2日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
土佐清水松尾観測点の地殻歪変化を引き起こす歪地震動の閾値の検討
Investigation of threshold of strain seismogram triggering crustal strain changes at TSS observation site
講演者:北川 有一(地震地下水研究グループ)
南海トラフ沿いで地殻変動・地下水観測によるプレート境界モニタリングに取り組んでいる.土佐清水松尾観測点では周辺での地震後にゆっくりとした地殻歪変化が繰り返し観測され,過去事例の調査を踏まえて,観測点周辺で生じた変化の可能性が高いと判断した.今回,このような変化を引き起こす要因として,地震の震源距離とマグニチュードの関係や歪地震動の大きさを調査した.歪地震動の面積歪成分で判断すると,そのpeak-to-peakの振幅が2x10^-7を超えた場合に地震後のゆっくりとした地殻歪変化が発生していることが分かったので報告する.
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第277回 11月25日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
京都盆地南部~奈良盆地の稠密微動探査と3次元速度構造モデルの作成
Microtremor survey of Kyoto-Nara basin and modeling of 3D velocity structure using various geophysical data
講演者:吉見 雅行(地震災害予測研究グループ)
京都盆地南部から奈良盆地にかけての約1400地点にて単点微動観測を実施し,水平上下スペクトル比(H/V)のピーク周期を基に基盤深度分布の空間的特徴を検討した.その結果,盆地構造の概略に加え,主に南北走向のH/Vピーク周期の急変帯として撓曲・断層を把握することができた.さらに,主にこのデータを用いて,重力異常と地質データに基づく京都ー奈良盆地の3次元速度構造モデルを調整したところ,既往モデルよりも小地震の観測波形をよく説明するモデルになった.
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第276回 11月18日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
1703年元禄関東地震による伊豆半島東岸の津波
Tsunami inundation along the east coast of Izu Peninsula from the 1703 Genroku Kanto earthquake
講演者:行谷 佑一(海溝型地震履歴研究グループ)
西暦1703年に南関東で発生した元禄関東地震は相模湾や房総半島の沿岸などで大きな津波をもたらした.とくに伊豆半島東岸の静岡県熱海市や伊東市では歴史記録等から10 mを超す津波が来襲したとする報告が存在する.これらの地域は相模トラフよりも南西側に位置しており,こういった津波の高さは元禄地震の断層モデルを検討する上で重要な情報を持っている可能性がある.本発表ではその歴史記録の紹介を行うとともに津波の数値計算結果を示すことで,元禄関東地震の地震像について検討する.
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第275回 10月14日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
浜堤の発達が沿岸低地への津波浸水に与える影響:高知県南国市における検討
Frequency of marine inundations affected by the beach ridge evolution in Nankoku, Kochi Prefecture, southern Japan
講演者:谷川 晃一朗(海溝型地震履歴研究グループ)
南海トラフに面する高知県南国市十市の沿岸低地では,イベント堆積物の分布から過去約6千年間の浸水履歴が検討され,約6000~2500年前に津波の可能性が高い4つの浸水イベントが報告されている.しかし,最近約2500年間の地層には明瞭なイベント堆積物は確認されていない.その浸水頻度の減少の原因としては,当地域の海岸に分布する浜堤(標高十数メートル)の成長が考えられる.本発表では,浜堤の発達過程を明らかにするため昨年度から実施している浜堤のGPR探査やボーリング,OSL年代測定などの結果を報告する.
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第274回 10月7日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
エネルギー収支に基づく地震シナリオ構築手法の妥当性の検討:中央構造線断層帯の動的破壊シミュレーション結果との比較
Comparison of earthquake scenarios constructed by energy-based method and dynamic rupture simulation: Multi-segment earthquake on the Median Tectonic Line active fault zone
講演者:浦田 優美(地震テクトニクス研究グループ)
地震シナリオの構築方法には,kinematic modeling,dynamic modelingなどがある.前者はモデル化が簡単だが,すべりモデルが必ずしも断層破壊の力学的プロセスと整合しない.後者では動的破壊シミュレーションにより破壊力学との整合性が保証されるが,計算負荷が高い.両者の中間的なエネルギー収支法(Noda et al. 2021, JGR)では,震源モデルを静的すべり分布として与え,破壊力学との整合性をせん断破壊に伴うエネルギー収支によって評価する.
本発表では,中央構造線断層帯を対象に,エネルギー収支法による評価と動的破壊シミュレーション結果の整合性を調べ,エネルギー収支法の有効性を検討する. |
第273回 9月16日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
複数モードの表面波を用いた関東盆地の3次元S波速度構造の推定
Multimodal Rayleigh and Love wave joint inversion for S-wave velocity structures in Kanto Basin
講演者:二宮 啓(地震災害予測研究グループ)
S波速度構造は地震被害の予測や地質解釈,資源探査など幅広い分野で必要とされており,より高精度なモデルが求められている.雑微動の相互相関から観測点間を伝播する表面波の分散曲線を推定し,分散曲線を用いた逆解析によってS波速度構造モデルを推定することができる.また,表面波の高次モードは基本モードよりも深い構造を反映するため,インバージョンに高次モードを含めることで,鉛直方向の分解能を高めることができる.本講演では,高次モードを含むレイリー波・ラブ波の推定とジョイントインバージョンによる高精度な速度構造の推定について議論する. |
第272回 9月9日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
斜面安定解析を対象とした機械学習アルゴリズムによるサロゲートモデル生成
Generating surrogate model for slope stability analysis using machine learning algorithms
講演者:竿本 英貴(地震災害予測研究グループ)
機械学習は多くの分野で様々な用途で活用されている.例えば,数値シミュレーションとの連携事例では,計算コストの大きい問題のサロゲートモデル(代替モデル)生成に利用され,結果として計算時間が大幅に短縮されている.本研究では現場での高速な斜面安定解析を目的として,機械学習による斜面安定解析の代替モデル生成に取り組んだ.今回の発表では,生成した代替モデルが一定レベル以上の精度を有することを報告するとともに,簡易GUIと代替モデルを組み合わせて開発した斜面安定解析ツールを紹介する.
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第271回 9月2日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
機械学習を活用した微小地震データ処理による地下断層の物理特性の解明
Investigation of physical properties of subsurface faults by processing microearthquake data using machine learning
講演者:内出 崇彦(地震テクトニクス研究グループ)
近年,地震波形データ解析への機械学習の導入が進んでおり,ますます大量のデータを精度よく解析できるようになることが期待されている.最近発表した日本内陸部のストレスマップができたのも,機械学習によるところが大きい.このほか産総研では,震源分布から地下の断層構造を客観的,自動的に行うための手法開発にも取り組んでいる.これらの研究を中心に,機械学習を活用した地震研究についての考えを述べる. |
第270回 8月26日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
すべり量と断層面積のトレードオフに関する考察
Study on trade-off between slip amount and fault area
講演者:落 唯史(地震地下水研究グループ)
地震やスロースリップにともなう地殻変動を説明する断層運動を推定する際,矩形断層を仮定してその断層面上でのすべり量を推定することはしばしば行われる.このとき,断層面積とすべり量の間にはトレードオフが生じることがある.発表ではトレードオフの具体例と原因を説明するとともに,数値実験を通してトレードオフを生じる場合と生じない場合の違いについて,観測点配置や解析に使用するデータの性質の観点から説明を試みる.
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第269回 7月29日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
並進と歪の統合CMT解析に向けた検討
Synthetic tests of joint CMT analysis with translation and strain data
講演者:矢部 優(地震地下水研究グループ)
Centroid Moment Tensor(CMT)は地震の震源でどのような変形が起きたかを表す重要な情報である.近年,スロー地震などの分野では,地震の発生に流体が大きく関与していることが指摘されている.そのような場で発生した地震のCMTには非Double Couple(DC)成分が含まれる可能性がある.しかし,CMTの非DC成分の推定は不確定性が大きく議論が難しかった.本研究では,CMT解析に通常用いられる並進成分に加えて,地震地下水RGの整備する歪観測網で得られた歪成分の地震動データを用いてCMT解析を行うことで,非DC成分の推定精度の向上が見込まれるかどうかを理論テストを用いて検討する. |
第268回 7月22日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
雲仙断層群南東部(海域部)における新たな海底活断層調査
Revisited active fault survey of the Unzen Fault Group (Southeast part) in Shimabara Bay, Kyusyu, Japan
講演者:大上 隆史(地震災害予測研究グループ)
文部科学省委託事業「活断層評価の高度化・効率化のための調査」の一環として,島原湾に分布する海底活断層(雲仙断層群南東部)を対象に,海上ボーリング調査およびH21年度の海底活断層調査で取得された音波探査記録の再解析を実施し,断層近傍の層序と地下構造を検討した.本発表では,調査対象断層を挟む2地点で新たに実施した海上ボーリング調査(海底面下30〜40mまで)によって明らかになった上部更新統〜完新統の分布・堆積環境・堆積年代と,再解析によりS/N比を向上させた探査記録断面にもとづいた断層近傍の地下構造について報告し,雲仙断層群南東部で発生した過去の地震活動について議論する. |
第267回 7月15日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
地球化学的アプローチによる津波痕跡の識別と浸水限界の再評価
Identification of tsunami traces and reestimation of inundation limit based on geochemical approach
講演者:篠崎 鉄哉(海溝型地震履歴研究グループ)
地層中の津波堆積物の分布を調べることで,過去に発生した津波の浸水範囲を見積もることができる.一方で,肉眼で認識しやすい砂質の津波堆積物は津波の浸水限界付近まで到達しない場合があることがわかっており,過小評価となってしまうことがある.本発表では,砂質津波堆積物の堆積限界より内陸で津波流入の痕跡を識別することが可能か,2011年東北沖津波を対象に地球化学的観点から検討した結果について報告を行う. |
第266回 7月8日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
後続波を用いた茨城県北部地域における地殻内反射面の推定
An estimation of the crustal reflector at the northern Ibaraki area using seismic later phases
講演者:椎名 高裕(地震テクトニクス研究グループ)
茨城県北部地域および福島県浜通り地域で発生する地殻内地震には後続波(P波やS波以外の波群の総称)がしばしば観測される.後続波の観測は地下に顕著な不均質構造(物質的な境界や流体)が存在することを示唆する.これらの地域では深さ10 km以浅の地震活動に加えて,地殻内の地震としてはやや深い深さ15-20 kmにおける地震活動が知られている.本発表では,茨城県北部地域で観測される後続波のうちS波反射波に注目し,その探索および反射波の観測データから推定される地殻反射面の推定に関する現状の結果を報告する. |
第265回 7月1日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
四国陸域の中央構造線断層帯における変位履歴調査
Reconstruction of discrete slip per event along the MTL active fault zone in Shikoku region, southwest Japan
講演者:近藤 久雄(活断層評価研究グループ)
文科省委託事業「連動型地震の発生予測のための活断層調査研究」の一環として,R2-3年度は讃岐山脈南縁東部区間と西部区間等で正確な活動時期と地震時変位量を復元する変位履歴調査を実施してきた.讃岐山脈南縁東部区間・鳴門南断層の阿波大谷地区で3Dトレンチ・GPR探査を実施した結果,連続的に堆積する沼池性堆積物やチャンネル堆積物等,それらを切断する高角北傾斜の断層や撓曲変形が認められ,過去4回の活動時期と地震時変位量が推定された.本発表ではそれらの調査結果を中心に,これまでの調査研究成果を整理した予察的な連動型古地震について紹介する. |
第264回 6月24日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
東北地方における地殻変動履歴復元に向けたエゾカサネカンザシゴカイの適用可能性の検討
A critical evaluation for High-Precision Dating method on Hydroides Ezoensis to understand Crustal Deformation History in Tohoku Region, Japan.
講演者:レゲット 佳 (活断層評価研究グループ)
Uplift and subsidence due to crustal movement occur in the coastal areas of the Tohoku region, especially along the Pacific Ocean region where uplift and subsidence occur in cycles of several thousand years (Ikeda et al., 2012). However, there are limited methods available to reconstruct the crustal movement history with high resolution in the Tohoku coastal area. The paleo shoreline indicator, Pomatoleios Kraussii, has not been used in the Tohoku region because its habitat is limited to south of the Kanto region, and it is unclear whether it is suitable for radiocarbon (14C) dating due to the complex marine environment. In the Tohoku region, where the Oyashio and Kuroshio currents mix in winter on the Pacific side, and these currents hold different radiocarbon concentration (Δ14C). This mixture of different Δ14C creates large uncertainty in carbon age. In this study, we developed a 14C dating method for Hydroides Ezoensis, an intertidal annelid that inhabits in Tohoku coastal region, to evaluate its use in reconstructing crustal movement history in Tohoku region. Although previous studies have demonstrated that the Hydroides Ezoensis can accurately determine the elevation of paleo shorelines (Miura & Kajiwara, 1983), its suitability as a dating method remains unclear.
Here, we evaluated the Δ14C of Hydroides Ezoensis on the Pacific and Japan Sea sides of the Tohoku region with values reported in previous studies. First, samples were identified by stereomicroscope. Secondly, we evaluated the suitability of calcareous tubes for 14C dating by comparing them with Δ14C of shellfish and seawater reported in previous studies. SEM and XRD analysis were conducted to identify and remove samples with mineral alteration affecting the 14C age. In addition, we conducted radiocarbon dating of fossil Hydroides Ezoensis calcareous tubes collected from uplifted coastal landforms in the Tohoku region and compared them with historical earthquake records based on their high precision elevation and age. Our results show that (1) the samples obtained in this study, which still have external characteristics, are the calcareous tubes of Hydroides Ezoensis. This suggests that stereomicroscope analysis of calcareous tubes can be reliably used in identifying the species. (2) The Δ14C recorded by Hydroides Ezoensis only reflects the Kuroshio Current Δ14C and is useful as a dating sample. (3) The fossilized calcareous tube of the Hydroides Ezoensis have not been altered enough to influence the 14C dating. (4) The 14C age and elevation of the Hydroides Ezoensis are consistent with recorded elevation changes from historical seismic records.
Overall, this study suggests that Hydroides Ezoensis can be used to reconstruct the crustal movement history of the Tohoku region with as much precision as Pomatoleios Kraussii. |
第263回 6月17日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
紀伊半島下の深部テクトニック微動の時空間発展
Space-time evolution of deep tectonic tremor beneath the Kii Peninsula
講演者:寒河江 皓大(地震テクトニクス研究グループ)
プレート沈み込み帯の巨大地震発生域の深部延長では, 深部テクトニック微動(以降, 微動)という現象が観測されている. 微動は低周波地震(LFE)の連続発生であると考えられ, 継続時間が長い現象からスロースリップイベント(SSE), 超低周波地震(VLFE), そしてLFEとともにスロー地震というゆっくりとした断層すべり現象を構成する(Obara and Kato, 2016). しかし, スロー地震には継続時間が100秒から1日の間にノイズの影響で検出が困難なギャップ域が存在し, その帯域における断層の成長過程は十分にわかっていない.
微動には, 数分から数日の継続時間をもち, 1000 km/dayから10 km/dayの速度で震源が移動する現象(微動マイグレーション)が存在する. そこで, 微動マイグレーションを詳細に調べることでその背後で起きている断層すべり現象を推測し, スロー地震のギャップ域を埋めることができる可能性がある. 本研究では, 紀伊半島下の微動を対象にその詳細な時空間発展を調べることを目的する. さらに, 微動マイグレーションの背後にある物理過程について考察する. |
第262回 6月10日(金) 14:00-15:00 オンライン(Teams) |
群発地震の継続時間特性と震源分布の時空間発展
Characteristics in duration and hypocenter migration of earthquake swarms
講演者:雨澤 勇太(地震テクトニクス研究グループ)
群発地震は,明確に最大地震(本震)と呼べる地震を持たず,地震数が時間的に不規則に変化するタイプの地震活動である.群発地震の継続時間は数時間から数年と多様であるが,それが何に規定されているのかはこれまで全く不明であった.本研究では,群発地震の継続時間の規定要因の解明を目的として,拡散的に震源分布が時空間発展(震源マイグレーション)し,発生に流体が関与していると考えられる群発地震について,その拡散係数を推定し,継続時間との関係を調べた.また,その中で特に長期化するものの震源分布の時空間発展を詳細に調べ,継続時間の規定要因を追求した.
東北日本内陸における複数の群発地震について,拡散係数を一貫した方法で推定し,活動継続時間と比較した.その結果,両者が逆相関することが判明した.また,特に長期的な群発地震についての詳細な解析から,その震源分布は,複数のクラスタを形成しつつ複雑に発展したことが判明した.本研究により,群発地震の継続時間は拡散係数ひいては地殻の浸透率の空間不均質性の影響を大きく受けていることが示唆された. |