受賞報告(2022年度)
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篠原宏志招聘研究員が2022年度日本火山学会賞を受賞 |
当部門の篠原宏志招聘研究員が2022年度日本火山学会賞を受賞しました.同賞は,日本の火山学の発展に対し長年において特段の貢献のあった個人または団体に贈られるものです.
受賞対象論文:
マグマ揮発性物質の観測・実験・モデリングに基づく火山現象解明への貢献
マグマのに含まれる揮発性物質は,気泡を形成することによりその挙動が様々な噴火過程の支配要因となるとともに,地表に放出された火山ガスの観測を通じて,地下のマグマ活動を評価する重要な指標となります.篠原氏は高温高圧実験やモデリングに基づくマグマ熱水系の研究から,火山ガスの観測手法の開発・モニタリングへの応用に基づく噴火・火山ガス放出活動の解釈・モデル化を行ってきました.特にKazahaya et al.(1994)で提唱された火道内マグマ対流モデルの幅広い火山現象への適用や,火山ガス組成の機器観測手法であるMulti-GASの開発応用などにより,国内外の火山ガス研究分野を牽引してきました.さらには、日本火山学会会長やIAVCEI(国際火山学および地球内部化学協会)執行役員,複数の国際誌の編集者などを務め,国際的な火山学コミュニティにおける日本の地位向上に寄与してきました.これらの日本の火山学の発展に対する長年の特段の貢献が認められ,2022年度日本火山学会賞授賞者に選定されました.
松本恵子研究員が2022年度日本火山学会研究奨励賞を受賞 |
大規模噴火研究グループの松本恵子研究員が2022年度日本火山学会研究奨励賞を受賞しました.同賞は,火山学に関する優れた論文を発表し,将来,火山学の発展への貢献が期待される35才以下の火山学会会員に贈られるものです.
受賞対象論文:
火山噴出物組織の形成・分解過程に着目した噴火ダイナミクスの再構築
マグマが地表に放出され固化した火山噴出物の組織には,マグマが上昇・噴火する過程で経てきた温度・圧力の変化や,地表近傍での熱水系や大気との相互作用の痕跡が刻まれています.松本氏は噴出物組織の形成・分解過程に着目し,火道浅部―噴煙内のマグマの噴火ダイナミクスや噴火推移を再構築する研究を行ってきました.安山岩マグマを噴出する代表的な火山である桜島,霧島山新燃岳,浅間山,口永良部島などの多様な噴火様式を対象として,その噴出物組織の形成過程から噴火直前~噴火中のマグマの温度―圧力―結晶化履歴を明らかにし,噴火推移との関係を明らかにしました.また,噴出物中にごく少量含まれる硫化鉱物の分解組織に着目し,噴出物の熱履歴や酸化反応履歴を解析することにより,噴煙ダイナミクスの定量化を進めました.これらの業績は火山噴火現象の理解に大きく貢献する成果であるとともに,噴火の現状把握や事後予測に関する情報の提供に資する成果であり,将来も火山学の発展への貢献が期待されることから,2022年度日本火山学会研究奨励賞授賞者に選定されました.
増田幸治(招聘研究員)が2021年度日本地震学会論文賞を受賞 |
当部門の増田幸治(招聘研究員)が2021年度日本地震学会論文賞を受賞しました.
受賞対象論文
題目:Effects of frictional properties of quartz and feldspar in the crust on the depth extent of the seismogenic zone
著者:Koji Masuda, Takashi Arai, and Miki Takahashi)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science(2019)6:50, DOI:10.1186/s40645-019-0299-5
概要:地殻内の地震は,あるところより深い場所では発生していません.地震発生領域の深部境界は,なぜ決まっているのか,そのメカニズムは何か,そのような問題に実験的手段で挑んだ研究です.
この論文では,地殻を構成する代表的な鉱物である石英と長石の摩擦すべり実験を行いました.従来,この種の実験には,地殻を構成する主要岩石である花こう岩が多く使われてきたのに対し,よりミクロで本質的なメカニズムを解明するために,主要構成鉱物である石英と長石を用いて,同じ条件と手法で測定を行い,その結果を比較検討したという点に特徴があります.その結果,水が存在する場合は,石英・長石ともに地震すべりが発生する領域が存在するが,長石の方が石英よりも,その温度範囲が広いことがわかりました.この結果は,長石の摩擦特性が地震発生領域の深部境界を制限するのに主要な役割をはたしている可能性を示唆しているということを主張した内容です.実験後の試料の電子顕微鏡観察では,メカニズムを示唆する結果も得られました.
自然界で起きている現象は複雑ですが,そのプロセスのメカニズムを支配している要因は何かを見極めて,モデルを構築し,検証するのが,地震学における岩石実験の重要な役割のひとつです.
宍倉正展(現在,連携推進室国内連携グループ長)が2021年度日本地震学会論文賞を受賞 |
海溝型地震履歴研究グループの宍倉正展(現在,連携推進室国内連携グループ長)と行谷佑一(主任研究員),前杢英明(外来研究員:法政大学),越後智雄(外来研究員:株式会社環境地質)が2022年度日本地震学会論文賞を受賞しました.同賞は,雑誌「地震(学術論文部)」,「Earth, Planets and Space」あるいは「Progress in Earth and Planetary Science」に発表されたすぐれた論文により,地震学に重要な貢献をしたと認められる者を対象とした賞です.
受賞対象論文
題目:1872年浜田地震による石見畳ヶ浦の隆起
著者:宍倉 正展・行谷 佑一・前杢 英明・越後 智雄(2020)
掲載誌:地震第2輯,第73巻,159-177頁
概要:本論文は,1872年浜田地震(M7.1)によって隆起,離水したと考えられてきた石見畳ヶ浦(いわみたたみがうら)を対象に,地形,生物遺骸,歴史記録を総合的に解析することで,隆起の実態を検証したものです.島根県浜田市にある石見畳ヶ浦は,その名の通り畳の目のような模様をなす波食棚が広がる景勝地で,昭和7年に国の天然記念物に指定されています.しかし地元の郷土誌には,石見畳ヶ浦が浜田地震の隆起で出現したことを否定する見解も示され,実際に江戸時代後期の絵図には,地震前から波食棚がすでに現在とほぼ同じ様子で描かれていることが指摘されています.そこで本論文では,まず従来から同地域北東部の海食洞で存在が知られていた隆起生物遺骸群集について,改めて詳しく調査,分析をしました.その結果,浜田地震で0.8~1.0 m隆起したことがわかり,古絵図の描写との間で矛盾が生じていることが明確になりました.この矛盾を解決するため,本論文ではさらにドローンを使った写真測量で石見畳ヶ浦の高解像度のDEMデータを作成して,地盤の変動と海面との関係から波食棚の離水範囲の変化と古絵図の景観の再現を試みました.そして浜田地震において石見畳ヶ浦が南西へ傾動運動をしたと考えれば,矛盾が解消できるという結論に至りました.1872年浜田地震は地盤の上下動のほか,津波や前兆現象の報告もあるものの,器械観測が始まる前の時代に発生したため,情報が限られており,解明すべき点が多い地震です.本研究の成果はその実態解明の一助となるもので,当該地域の地震防災への貢献も期待されます.
矢部 優研究員が2021年度地震学会若手学術奨励賞を受賞 |
地震地下水研究グループの矢部優研究員が2021年度地震学会若手学術奨励賞を受賞しました.
受賞対象論文:
多角的アプローチによるスロー地震を中心とした沈み込み帯地震学研究
スロー地震とは,2000年頃という比較的最近に発見された新しい地震現象です.南海トラフでは将来巨大地震が発生すると予想されている領域の周辺で頻繁に発生しており,巨大地震発生との関連性も指摘されていることから世界中で研究が行われています.矢部研究員の所属する地震地下水研究グループでは,西南日本に地殻変動観測網を展開してスロー地震の発生状況を監視し,南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会や地震調査委員会などに毎月報告を行っています.
矢部研究員はこれまで,地震観測データを用いてスロー地震の中でも微動と呼ばれる現象の解析を行い,スロー地震の地域特性を明らかにしてきました.震源パラメータを定量的に評価したことで,全く異なる場所で発生するスロー地震間の比較や発生する地質環境との対比が可能となりました.例えば,南海トラフではスロー地震の特性が深さ方向に系統的に変化する様子が観察され,温度や圧力といったプレート境界断層環境の深さ変化に応じてスロー地震の特性が変化することが考えられます.さらに矢部研究員は,数値モデルを用いた地震発生シミュレーションや科学掘削で得られたデータを用いた付加体の物性・岩相推定など,様々な観点からスロー地震の発生メカニズムを理解するための研究を行ってきました.2019年度日本地震学会論文賞を受賞した地震発生シミュレーション研究では,断層上の摩擦不均質によって本震前に様々なタイプの前駆的地震活動が生じることを明らかにし,本震の大きさよりも小さなスケールの不均質を考慮することの重要性を示しました.このように,多角的なアプローチによってスロー地震の発生メカニズムの理解に貢献してきたことが評価されました.