受賞報告(2021年度)
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白濱吉起研究員が2021年度日本活断層学会論文賞を受賞 |
当部門活断層評価研究グループの白濱吉起研究員(2021年10月1日から文部科学省へ出向中)が2021年度日本活断層学会論文賞を受賞しました.同賞は,同会の学術誌「活断層研究」の51号~54号(2019年度~2020年度発行)に発表された優れた論文の著者に与えられる賞です.
受賞対象論文
題目:新潟県十日町盆地東部段丘面上に見られる背斜状変形とその成因
著者:白濱吉起(2019)
掲載誌:活断層研究,51,1–11,https://doi.org/10.11462/afr.2019.51_1
概要:この論文では,新潟県,十日町盆地東部の段丘面上に発達する小規模な背斜構造を対象として,地形判読や地理情報システムを用いた数値地形モデルの解析により,複数段の段丘面が累積的に背斜変形を受けていることを明らかにし,またそれらの変位量と火山灰分析による段丘面の形成年代から具体的な隆起速度の見積りに成功しています.さらに,ディスロケーションモデルを用いて地表の変形パターンからこの褶曲を形成する地下の断層形状を推定するとともに,この断層の成因を考察しています.受賞理由は,参考リンクに記した同学会のホームページをご覧ください.
大上隆史主任研究員が2020年度日本地震学会論文賞を受賞 |
地震災害予測研究グループの大上隆史主任研究員が2020年度日本地震学会論文賞を受賞しました.同賞は,雑誌「地震(学術論文部)」,「Earth, Planets and Space」あるいは「Progress in Earth and Planetary Science」に発表されたすぐれた論文により,地震学に重要な貢献をしたと認められる者を対象とした賞です.
受賞対象論文
題目:角田・弥彦断層海域延長部の活動履歴ー完新世における活動性と最新活動ー
著者:大上 隆史・阿部 信太郎・八木 雅俊・森 宏・徳山 英一・向山 建二郎・一井 直宏(2018)
掲載誌:地震第2輯,第71巻,63-85頁.https://doi.org/10.4294/zisin.2017-9
概要:この論文では,長岡平野西縁断層帯の北端を構成する角田・弥彦断層の海域延長部を対象として,その正確な位置・形状を明らかにし,活動性に関するパラメータ(平均上下変位速度,最新活動を含む活動履歴,1回の上下変位量)を精度よく解明しました.地震災害の予測・軽減のために,沿岸海域に分布する活断層の位置形状を正確に把握し,それらの断層から発生する地震の規模や発生の可能性について評価することが求められています.そのため,文部科学省では委託事業「沿岸海域における活断層調査」・「内陸及び沿岸海域における活断層調査」を通じて沿岸海域の活断層調査を推進しており,本論文のデータはその一環で取得されました.IEVGニュースレター2018年8月号でご紹介しましたように,海域では陸域活断層の調査のように地形・地質を直接的に観察できないため,船上から音波探査やコアリング等の調査を実施します.本論文では,調査海域の地質に応じて複数の高分解能音波探査を併用して地質構造を明らかにし,コアリング調査・海上ボーリングデータから堆積環境・堆積年代を求め,これらのデータを対象にバランス断面法を含む総合的な解析を実施することにより, 過去の断層活動により形成された緩やかな崖(撓曲崖)を構成する地層から高い信頼性・精度で活動性に関するパラメータを取得できることを実証しました.本論文の成果について,地震災害予測の精度向上に貢献する重要な知見を得たことに加えて,現状で考え得る調査・解析手法を網羅した研究を展開して今後の沿岸海域活断層調査のスタンダードを示したものと評価されました.
藤原 治 副研究部門長が令和2年度産総研論文賞を受賞 |
当研究部門 藤原 治 副研究部門長が令和2年度産総研論文賞を受賞しました.
受賞対象は下記の論文で,地質情報研究部門平野地質研究グループの佐藤善輝主任研究員との共同受賞です.
受賞対象論文
題目:Tsunami deposits refine great earthquake rupture extent and recurrence over the past 1300 years along the Nankai and Tokai fault segments of the Nankai Trough, Japan.
著者:Fujiwara, O., Aoshima, A., Irizuki, T., Ono, E., Obrochta, S.P., Sampei, Y., Sato, Y. and Takahashi, A
掲載誌:Quaternary Science Reviews, 227, 105999.
概要:この論文は、静岡県西部の河川改修工事の現場で発見した津波堆積物を題材にしています。最大の成果は、大きな津波をともなう東海地震が7世紀末と9世紀末にも起きていたことを津波堆積物から証明したことです。南海地震は684年と887年に発生したことが史料から分かっていましたが、東海地震については確実な記録がありませんでした。この結果、南海トラフ巨大地震の研究において長年の課題であった東海地震と南海地震の発生タイミングを過去1300年間にわたって解明できました。特に、887年仁和地震は、同じ日に東海地域を含む広い範囲で強い揺れを感じたという史料の記述に基づいて、東海地震も同時に発生した可能性が指摘されていましたが、東海地震発生を判断する決め手となる津波の情報がありませんでした。今回、津波の証拠が得られたことで、887年仁和地震は東海・南海地震が同時発生した超巨大地震であったことが証明されました。684年の南海地震と7世紀末の東海地震が同時に起きたかどうかは分かりません。
この成果については新聞、テレビで多くの報道がされ、一般向け科学雑誌や書籍等にも写真入りで掲載されました。産総研においては、研究成果を論文発表でとどまらず、その意義を社会に広く伝え、さらに南海トラフ地震の長期評価という国の施策へも貢献するものであることが受賞の主な理由となりました。
この発見には活断層・火山研究部門News Letter 2020年6月号(https://unit.aist.go.jp/ievg/katsudo/ievg_news/vol.07/vol.07_no.02.pdf)でも紹介したように、地元の高校の地学クラブの活動など様々な偶然が重なっています。科学的成果もさることながら、こうした地域との連携が生んだ研究成果と言う点も評価されたと考えています。