TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス
メスキュージェナシス株式会社が強みにするのは、ピューロマイシンリンカーという特許物質を用いた独自のペプチド探索技術。医薬品候補のペプチドの開発と、新たなペプチド製品の開発を手がけています。今後ますますニーズが高まる医薬品分野において、会社の変遷とともに進化させてきた技術とペプチドを駆使し、健康長寿に貢献していきます。
メスキュージェナシス株式会社代表取締役社長。博士(学術)。1999年埼玉大学において伏見譲氏(現埼玉大学名誉教授)、西垣功一氏(現埼玉大学名誉教授)のもと、ペプチド探索技術の基盤となる「進化分子工学」研究を推進。2004年より埼玉県中小企業振興公社「埼玉バイオプロジェクト」に従事、2007年ジェナシス株式会社入社、2008年取締役就任。2012年より久留米リサーチパーク(福岡県)、山本健二氏(現九州大学名誉教授、科学顧問)とプロテアーゼ阻害ペプチドの共同研究を行う。2017年メスキュー株式会社と合併し取締役に就任、2018年より現職。日本病態プロテアーゼ学会員。
メスキュージェナシス株式会社代表取締役副社長。博士(理学)。1987年より株式会社アイシンにおいてバイオ分野の新規事業企画に従事。2003年産総研ベンチャー開発戦略研究センターへ転職、スタートアップアドバイザー補佐(バイオ担当)に就任。2004年細胞解析技術の株式会社サイトパスファインダー創業に参画、2012年まで取締役を務める。2015年細胞医薬開発のメスキュー株式会社創業、代表取締役社長に就任。2017年にペプチド創薬技術のジェナシス株式会社と合併し、社名をメスキュージェナシス株式会社に変更、2018年より現職。2020年より東海国立大学機構名古屋大学未来社会創造機構特任教授を兼務。日本分子生物学会員。
ペプチドは低分子と抗体のメリットを兼備し、新しい薬の種として注目される
─ 御社はジェナシス株式会社とメスキュー株式会社の合併により2017年に新たなスタートを切られました。どのような経緯があったのでしょうか?
もともと私は産総研で小林利克スタートアップアドバイザーの補佐としてバイオ案件を担当していました。ジェナシスは小林さんが2003年に創業し、私は細胞内ネットワークの解析に関する別会社を立ち上げます。その会社を退社後、細胞の製造や加工技術を事業化する話をいただき、改めて産総研の技術移転ベンチャー創業タスクフォースにより2015年にメスキューを設立しました。
事業を進める中で、ある研究に必要な特定の細胞を探索する技術がジェナシスの特許技術だとわかります。小林さんとはそれまでも頻繁に連絡を取り合っていて、これを機に合併して一緒にやろうというお話をいただきました。
北村幸一郎さん(以下、北村):私は埼玉大学卒業後にポスドクとして埼玉バイオプロジェクトに携わりました。そのプロジェクトにジェナシスも関わっていたことがきっかけで入社したのが2007年です。医薬品につながるペプチド探索技術の開発などを手がけながら、小林前社長から会社を引き継ぎ、2017年にメスキューと合併し現在に至ります。
─ ペプチドに特化して事業展開された背景を教えてください。
合併当初はメスキュー時代の細胞加工の事業も進めていましたが、新型コロナウイルスの影響でメインの研究者が母国の台湾へ帰国したこともあり、2020年頃から縮小していきました。細胞に関しては研究に力を入れている他の企業と協業するなどの形が良いと判断し、技術的に弊社の最も強い領域であるペプチドの開発に集中することとしました。
北村:世の中に出ている薬の大半を占めているのが低分子医薬品と抗体医薬品ですが、前者は化合物の分子量が小さいため標的以外にも影響するなど副作用のリスクがあり、反対に特異性が高い後者は製造工程が複雑で開発コストが高くなります。ジェナシス創業時から開発してきたペプチドは、分子量が小さいながらも標的に強く結合し、体内で分解されるため副作用が少なく、化学合成で安価につくることが可能です。低分子と抗体それぞれのメリットを生かした新しい薬の種として注目され、創薬の道を切り拓くポテンシャルがあります。
歯周病菌を標的としたペプチドの獲得と検出キットを開発
─ ペプチドを探索する技術ついて教えてください。
弊社の技術は、埼玉大学の伏見譲名誉教授が提唱された進化分子工学が基盤になっています。端的に言えば、進化のメカニズムを使って高機能な分子を工学的につくり出す技術です。
ペプチドはアミノ酸が数個から数十個つながったものです。膨大な種類となるペプチドのライブラリから標的に結合し作用するものを選び、それを増幅させてより厳しい条件のもと選別を繰り返していくと性能の高いものが残ります。このような生物の進化の過程で起こったであろうプロセスを試験管内で再現して医薬品候補となるペプチドをつくります。
─ 独自性や強みはどういったところにあるのでしょうか?
中心となるのは独自のcDNAディスプレイ技術です。ペプチドは核酸から転写・翻訳されてできます。このときペプチドは核酸からリリースされますが、ピューロマイシンリンカーという特許取得済の物質によってペプチドと核酸を一体化した状態でつくることができるのが一番のポイントです。
ペプチドは単体では増やせないため、ライブラリから標的に結合するペプチドを取得しても繰り返しの選別や解析ができません。しかし核酸は昨今のコロナ禍で周知のPCRにより増幅が可能です。ペプチドと一体化した核酸を増幅させることで標的に結合するペプチド由来の核酸を回収することが可能となります。そして、転写・翻訳、選別のサイクルを繰り返していくことで最終的に標的に強く結合するペプチドを獲得できるのがこのcDNAディスプレイ技術です。
鍵山:ピューロマイシンリンカーを用いた弊社の技術がペプチド獲得に最も効率が良いということは強みです。同様のアイデアを駆使したディスプレイ技術は他にもありますが、効率としては1/100や1/10000程度になってしまいます。
1~10兆種類のペプチドが一度に調べられるライブラリサイズで、ピューロマイシンリンカーにより核酸とペプチドが一体化していることで安定性があり、他の技術と比べてアドバンテージがあると考えています。
他のディスプレイ技術との比較
─ この独自技術をもとに、どのような事業を展開されているのでしょうか?
ひとつはコスモ・バイオ株式会社との資本業務提携による創薬リード探索事業。独自の技術で開発したペプチドを製薬企業様に導出し、一時金や共同研究費などを得るビジネスで、創薬につながる化合物枯渇の解決に寄与します。もうひとつはペプチドをベースとした独自の薬のライセンスを目指すペプチド製品事業で、歯周病に関わる細菌を標的として研究を進めています。2019年には「歯周病菌が出す酵素がアルツハイマーの原因」とまで論じる論文が出ました。世界的な社会問題である認知症に貢献できるのは非常に意義があると考えています。
鍵山:多種類の歯周病菌の中でジンジバリス菌が最も悪性度の高い菌とされ、菌の動きが活発になるとジンジパインという酵素を出します。この酵素が歯肉を分解したり血管から体内をめぐったりして口腔以外でも悪さをするのです。これは弊社科学顧問の九州大学の山本健二名誉教授とジェナシス時代から手がけてきた共同研究成果で、ジンジパインを阻害・検出する薬の製品化を目指しています。
山本先生によりジンジパインの活性を抑える低分子化合物が開発され、ビーグル犬で効果が実証されました。この低分子化合物に置き換わる、ペプチドのメリットを生かしたジンジパイン阻害剤がつくれないかと考え、弊社技術によりジンジパイン阻害ペプチドの獲得に成功しました。薬としての開発は進めながら、現在はジンジパイン検出キットを関東化学株式会社と共同開発して昨年末に試作品が完成し、順調にいけば4月頃にサービス開始できる予定です。
鍵山:米国のコルテキシーム社が行った臨床試験では、ジンジバリス菌を持ったアルツハイマー患者の約50%にジンジパイン阻害低分子化合物の薬剤の治療効果が確認されました。このデータは、治療効果が期待できる患者の層別にジンジパイン検出キットが活用できることの証左になります。
ジンジバリス菌が産出するジンジパインについては、最近まで歯科衛生士にもあまり知られていませんでした。しかし実際は、早産、誤嚥性肺炎、糖尿病などさまざまな疾患にジンジパインが関わっているデータが得られてきており、ジンジパイン検出キットは人々の生活を取り巻く非常に重要な課題に対してアプローチできるものと考えています。口腔内にとどまらず全身性疾患に関わるということがわかってきた現況を追い風に、弊社の技術を打ち出していきます。
全身性疾患の予防・治療やコロナ禍のニーズにペプチドで応える
─ 事業の将来性についてどうお考えでしょうか?
喫緊の課題である新型コロナウイルスの検査に関して、現在弊社ではウイルスの外殻タンパク質に結合するペプチドが取得できています。これを他機関の技術と組み合わせて、PCR検査よりも迅速に診断できる検出試薬を開発し、社会のニーズに弊社のペプチドで貢献できればと考えています。
また、ペプチドは分子量が小さいためコンピュータシミュレーションによる解析が容易にできることもメリットのひとつ。新型コロナウイルスの変異株にも迅速に対応できます。たとえば環状ペプチドをAI解析で高機能化する研究に力を入れている製薬企業様もあり、将来的には製薬企業様と共同で事業化していくことも視野に入れています。
─ 今後の事業展開における課題と展望を教えてください。
資金調達においてベンチャーキャピタルの方にご説明する際、技術は評価いただけるものの、やはり実際の効果やデータが求められます。そこをどうクリアするか、ジンジパイン検出キットを突破口としたアプローチが課題です。昨年はジンジパイン阻害剤の基礎実験と検出キットの試作品化のためにクラウドファンディングで資金を集めましたが、次のステップに進むためにはさらなる費用が必要になることが生みの苦しみとなっていますね。
低分子化合物による臨床試験をコルテキシーム社が終えていますので、その流れに上手く追従できれば道は拓けると考えています。たとえばジンジパイン検出キットの製品化で売上を確保して上場により資金を集め、製薬企業様との共同開発ではなく阻害剤を自社開発するという戦略も想定して今後も事業を展開してまいります。
北村:歯周病はあくまで通過点のひとつ。そこからつながるアルツハイマーや動脈硬化などの患者の口腔内ジンジパイン量の相関データが取れれば、さらに話は発展していきます。早い段階から研究を進めて、歯周病菌が関与する全身性疾患の予防・治療に結びつけて、人々の健康長寿に貢献するという弊社の理念を実現してまいります。
※本記事内容は令和4年3月31日現在のものです。
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