TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス
7G aa株式会社は、世界が注目する5Gの通信システムやIoTに対応するアンテナ測定技術と、光伝送システムをコア技術としています。これまでに培ってきた測定ノウハウやソフトウェアの提供により、次世代を牽引する市場において確かな存在感を示します。
7G aa(セブンジーツーエー)株式会社 代表取締役社長(2021年3月インタビュー当時)。工学博士。民間企業三社を経て2000年に電子技術総合研究所の光技術部に入所(翌年に産業技術総合研究所に改組)。入所以来1 GHz以上の標準ホーンアンテナの標準供給を担当。研究分野では一貫して近傍界測定における新しい測定法の研究開発を行う。2020年3月に産業技術総合研究所を退職し、7G aa株式会社に専任。近傍界測定法の研究は継続し、最近も新しい測定法を考案。
7G aa(セブンジーツーエー)株式会社 技術顧問。博士(情報学)。京都府職員を経て2003年に産業技術総合研究所に入所。以後EMC用アンテナの校正サービスと測定技術の研究開発、および光技術によるアンテナ測定装置の研究開発を行う。2017年にIEEE CAMA(Conference on Antenna Measurements and Applications)の共同議長を務める。物理計測標準研究部門・電磁界標準グループ・前グループ長。現在IEC TC103(無線通信用送信装置)国際幹事。
日本の中小企業が5GやIoTの開発に参入できるよう支援
─ 7G aa株式会社が設立された経緯を教えてください。
もともと私と廣瀬は、産総研の電磁界標準研究グループに所属していました。そして2年間のスタートアップ開発戦略タスクフォースのプロジェクトにより、研究開発成果を事業化することになったのが会社設立のきっかけです。
廣瀬雅信さん(以下、廣瀬):私と黒川のほかに、財務担当として永井(永井武さん、取締役兼COO)がスタートアップアドバイザーとなり、2019年9月まで資金に関するアドバイスを受けていました。5Gの時代から6G、7Gの時代まで存続するという意味を込めて社名に7Gと付けたのは永井です。その後に私が自動化(automation)とアンテナ測定(antenna measurements)という当社の強みを表す頭文字を加えました。
― アンテナ測定の分野で事業展開された背景を教えてください。
アンテナや基地局といった携帯電話のビジネスは、3Gや4Gの時代は基本的に国内の技術で成り立っていました。国内の企業が開発したアンテナを通信キャリアに納めることでサービスが受けられました。ところが5Gの時代に移行した途端、国内製のアンテナが姿を消したのです。
通信キャリアはコストをかけて海外からアンテナを調達してきて活用することになります。それでは5Gのビジネスに国内の中小企業が入れなくなってしまう。その状況を打破するために、これまで産総研で開発してきた技術を使って、アンテナの開発や評価などをサポートできるのではないかと考えました。コストダウンや時間短縮を実現したアンテナ測定により、日本の中小企業が5GやIoTの開発に参入できる支援をすることが私たちの事業になります。
廣瀬:ターゲットは5G、6G、IoT。あらゆる機器が無線通信を備え、リモートの機運が高まっている今の時代にマッチしたタイミングでした。もともと海外で光を使ったアンテナ測定装置を展示していて好評を得ていました。その経験から確信を持って、この5Gの時代に会社を立ち上げたのです。
黒川:海外がメインの事業領域は、重厚長大なアンテナ測定装置からの引き合いがほとんどでした。サブ6の5Gと呼ばれる低い周波数では、代替技術でなんとかできていましたが、本格的なミリ波5Gの時代はそうはいきません。我々の優位性は飛躍的に高まりました。
廣瀬:今は我々にアドバンテージがあり、ノウハウにおいて一歩先んじることができる。ベンチャーとして大きな強みだと考えています。
精密で、高速で、フレキシビリティの高い測定を実現
― アンテナ測定技術について教えてください。
アンテナの測定にはすでに確立されたアンテナ近傍界測定法というものがあります。本来は何kmも離して置いて測定しないとデータが取れない場合でも、1mほどの距離に置いて測ることができる技術です。これを用いて、自動車なら全体の測定に1日かかる時間を、たとえば100分の1ほどに短縮する技術を廣瀬が開発しました。
廣瀬:理論的に新しい近傍界遠方界変換式を導出することで、高速で正確な想定方法を開発しました。たとえば携帯の基地局を測定するのに既存の技術で1時間かかるところが、必要となる測定が1分で終わります。近傍界、つまり狭い空間で正確な測定を行うというのが世界的トレンドな中で、必要なものを高速で測る技術は5Gにもそれ以外のアンテナにも活用することができます。そしてこのアンテナ測定と、もうひとつのコア技術である光伝送システムの組み合わせが我々の最大の独自性を生み出します。
― アンテナ測定と光伝送の組み合わせでどのような独自性が生まれるのでしょうか?
日本が優位性を誇る技術のひとつに、工場のロボットがあります。3次元的に自由に高速に動くこのロボットをアンテナ測定に使おうと思ったときに、金属製の硬い同軸ケーブルではロボットの動きについていくことができず、変形して特性が変化してしまい1日経てば取り替えないといけなくなります。しかし光伝送に用いる光ファイバーは変動変形に強く、我々がデバイスとして開発した光ファイバーを使えば変形や取り替えの心配はなく、ロボットにおける弱点がなくなるのです。
廣瀬:そしてロボットによるアンテナ測定で、世界で初めて高い周波数まで対応できるようにしたのが黒川のアイディアであり成果です。アンテナ測定技術とロボットによる自動化を組み合わせることで、精密で正確で高速でフレキシビリティの高い測定が実現できる。これが当社の一番の強みと言えます。
黒川:これをソフトウェアとしてノウハウとともに提供しているほか、導入におけるコンサルティングも行っています。産総研にも技術開発コンサルティングというサービスがありますが、より中小企業の細やかなニーズに対応するサービスとして力を入れております。
アンテナ測定技術とロボットによる自動化の組み合わせ
30 GHzまでのRF信号を光ファイバーで伝送するE/Oデバイス・O/Eデバイス(片方向伝送)。40 GHz超のデバイスも開発中。
製造ラインに組み込み、ロボットによるアンテナ測定を実現させる
― 今後の事業展開における展望を教えてください。
中小企業に向けてアンテナ測定ソフトウェアを納入していくことが目標になります。その上で最も重要視しているのは製造ラインに組み込むことです。たとえば中国では大量生産するために全数検査を行い、測定も自動化されています。対して日本は製造技術が高いために全数検査はしなくてもよく、測定技術の効率化はそもそも議論されていません。いつまでそうであるかはわかりませんが、いつか全数検査に切り替わるときがくるかもしれません。そのときアンテナ測定に時間がかかって製造力が落ちることのないよう、製造ラインに組み込んでロボットでアンテナ測定をするというところまでいくのが今後の展望になります。
廣瀬:日本の企業が置いていかれないよう、最初の基礎技術から裾野を広げて普及していくように活動していきます。また、産総研の精密測定技術を盛り込み、測定が早く、現場で検査でき、精度も高いという信頼性のある評価方法の構築も目指します。今後も5Gの市場において、最初の開発部分と最後の評価部分の双方を支援していきたいと考えています。
※本記事内容は令和3年3月31日現在のものです。
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