TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス
株式会社SteraVisionは、他にはない光センサーとシステムの設計・開発・販売に取り組む産総研発のベンチャー企業。人間らしい眼を実現する視覚システムにより、自動車のLidarやFA産業用ロボットの目として新たな市場価値を生み出します。光スイッチングや光通信を活用した独自の技術を携えて、今後ますます拡大が見込まれる市場を切り拓きます。
株式会社SteraVision 代表取締役社長。工学博士。専門領域は光デバイス技術。日立電線で光通信デバイスビジネスを立ち上げ、社内ベンチャーのヘッドとして約100億円規模の部門に成長させた経験と幅広い技術力と各光分野における広い人的ネットワーク、優れたコミュニケーション能力を持つ。その後、産業技術総合研究所に入所。シリコン導波路や光スイッチの研究開発に従事、光デバイスと光センサーによるベンチャー企業の創業を決断。2016年12月株式会社SteraVision設立。
見えないものを見えるようにする2つの技術
― 株式会社SteraVisionが設立された経緯を教えてください。
私はもともと日立電線株式会社(現 日立金属株式会社)で、産総研の前身にあたる電総研(電子技術総合研究所)と光通信デバイスの共同研究をしていました。その成果をビジネスとして約100億円規模に成長させた経験をもとに、産総研に入所して通信用デバイスの開発していたんです。
取り組んだのは波長選択スイッチといわれるスイッチングエンジン。大都市の通信局から光ファイバーで送られる信号にはさまざまな波長があり、通信局では波長ごとに光を切り替える非常にフレキシブルな通信システムを用いています。現状の性能では光が横切るたびに混線してしまうため、スイッチする光が現在通信している光をジャンプするようにして、他の通信を邪魔せず、多チャンネルかつ高速で切り替えていくスイッチングエンジンを目指しました。完成したデバイスは通信だけでなく自動車のLidarのスキャナにも大きな市場があると気づきます。Lidarはレーザー光を対象物に照射して距離を測定する装置のことで、製品化を見据えて2016年に株式会社SteraVisionを設立。産総研発ベンチャー企業として光センサーとシステムの製造販売を事業の核に、2018年に製品化のための資金を民間より投資いただいて本格始動となりました。
― 光学や光通信、視覚システムを事業の核に据えたのは何かきっかけがあったのでしょうか?
何事にも原因から結果が生じる決定論という考えがあります。アインシュタインも「神はサイコロをふらない」と言ったように。しかし光学は根源を辿っていくとそれだけでは解決しない、不可思議なことがベースになっています。その確率論的な面白さに興味を惹かれたのが出発点ですね。
我々の合言葉は「Making the invisible visible!」。見えないものを見えるようにすることがテーマです。それを実現するためのコアテクノロジーは2つあります。1つは人間らしい眼を実現するスイッチングエンジン。対象を横切らないよう空間的に座標を設けてスイッチングして切り替えていくLidar走査デバイスです。もう1つは、従来のLidarでは見えない雨や霧の先を見るための新たな変調方式のLidar。それぞれ「MultiPol」と「Digital Coherent Lidar」と名付けたこの2つの製品で勝負していきます。
人間の眼のようなスキャナと煙の先も見通すLidar
― 人間らしい視覚システム「MultiPol」の仕組みについて教えてください。
人間の眼の動きはエレクトロニクスに比べると非常に遅いんです。にも関わらず車の運転ができるのは、重要なところを選んで見ているから。その高効率化と高速化を図るのが「MultiPol」です。
従来のMEMS(Micro Electro Mechanical System)のスキャナは、視界の端から端まで光を照射するラスタースキャンのため時間がかかる。対してMultiPolはビームを振るのではなく任意のところに光を灯すことができる。我々はワープスキャンと呼んでいます。
たとえば自動運転で考えると、数100メートル先に交差点があるという情報を事前に得れば、その付近を重点的にスキャンすればいい。全てをスキャンするラスタースキャンでは対応できませんが、ワープスキャンは重要部分を高頻度・高密度に、関係ない空などは低頻度という人間の眼と同じフレキシブルなスキャンが可能です。従来の10倍以上のフレームレートを実現できる強みがあります。
重要部分を高頻度・高密度に見る人間の眼のようなワープスキャン
メカニズムとしては、厚さ500マイクロメートルのスイッチを多段に接続したもので、1×2のスイッチとして動作します。たとえば1111は一番上、0000は一番下、1011はその間の光が灯るというように、デジタル信号によってスイッチングします。
現在のスキャナにはさまざまな種類があります。まず光フェーズドアレー(Optical Phased Array)は電波と同じ原理で、光の波の傾きを変えてスキャンしますが、制御が困難なことと導波路に用いられるシリコンが光のパワーが大きくなると吸収してしまう欠点があります。モーターで回転させてスキャンをするガルバノスキャナーは、いつ動かなくなるかわからない=信頼性がないとして、人の命を預かる自動車のシステムからはリジェクトされ光通信でも使われません。
その流れからLidar業界でキーワードとなっているのが「Solid State」。可動部がない固体デバイスのことで、光フェーズドアレー、MEMS、そして我々のMultiPolもSolid Stateです。一部可動部があるMEMSは、材料であるシリコンが金属疲労を本当に起こさないかという証明と、可動部のステアリング角度のドリフトに疑問が残っています。MultiPolはそれらの問題もなく、材料費・加工費が抑えられ、新しい方式として伸びしろもある。それを強みに「Truly Solid State」、真の意味での固体デバイスとして世界のデファクトスタンダードを目指し取り組んでいます。
― もうひとつのコアテクノロジー「Digital Coherent Lidar」について教えてください。
現状のLidarはToF(Time of Flight)方式で、レーザで送った光と、戻ってくる光をミラーに反射してディテクタで受けるまでの経路が同じ同軸系があります。もうひとつの非同軸系は、光を送る側とは別の位置にレンズとディテクタを置きます。反射光のエネルギーは非常に微弱のため、同軸系は光は小さいが太陽光の影響も小さく、非同軸系は光は大きいが太陽光の影響も大きくなります。つまりどちらもオールマイティではありません。
我々のソリューションは光通信の技術を応用したもので、レーザの光を時間的に少し変えて、波長をほんのわずかに変化させます。そして戻ってきた光を今送った光と足し合わせます。すると「うなり」を起こす。ビート信号と呼んでいて、打ち消し合うとゼロになりますが、足し合って大きくなるものは包絡線を描きます。これを観測するのが「Digital Coherent Lidar」の方式です。
ToF方式は戻ってくる光のエネルギーを計測しますが、それは送った光の100分の1にとどまります。しかし我々の方式ではビート信号のうなりの幅が足し合わせることで10分の1になり、さらに送った光と掛け算することで非常に大きな光として検出できる性能を誇ります。
課題としては、半導体レーザを直線に変えるのが難しいということ。さらにレーザは190THz/sという、1秒間に190×10の12乗も振動しているものを動かします。この波長を変えるには小数点第5位という桁の制御が大事になります。しかし、実際のレーザはもっと大きく変動している。そこで我々がとった方法としては、この微細な動きを受け入れ、その上でデジタル的に補正をするという光通信の考え方を取り入れることで、煙が立ちこめている50m先でも見えるDigital Coherent Lidarを実現しました。
光ビームステアリングデバイス「MultiPol」
車載とFAロボットの市場において事業を拡大
― 未来を見据えて、どんな会社でありたいとお考えですか?
2016年にSteraVisionを設立したときは私1人でしたが、14人となった現在も増員中です。設立前に立ち上げたデバイスビジネスで楽しみも苦しみも知れたことがいい経験になっていて、社内には当時の私のグループだったメンバーもいます。仕事が嫌になる雰囲気はつくりたくないですね。夢を持って果敢に挑戦して技術に燃えるような会社でありたいと思っています。
世界的に見るとLidarメーカーは40~50社ほど。我々のコンペティターであり、その中でも有力候補の会社はMEMSやToF方式が多い。そこに勝機があります。また、日本はたとえばアメリカなどに比べてベンチャーキャピタルからの資金が集まりにくい風土があります。リソースなどすべてにおける流動性が噛み合わないと上手くいかない。ですから人材確保も非常に難しいですが、リスクを抱えてチャレンジするのではなく、安定を求める日本の風土ではうまく馴染んでいない現状に我々は風穴を開けてやろうと考えています。
― 今後の事業展開における展望を教えてください。
矢野経済研究所のレポートによると自動運転の車載センサの市場動向は、ADASと自動運転が伸びていき、FAロボットも拡大の一途。視覚システム、自動運転、セキュリティなどあらゆるニーズが顕在化してきています。
車載カメラは測距や認識に優れていますが悪天候時は見えません。レーダーのミリ波は像が荒いかわりに濃霧でもよく見えます。それぞれ特徴があり、Lidarのポジションはどっちつかずの中途半端。この市場で、人間らしいスキャナと煙の先を見るという2つの技術で領域拡大する戦略を進めます。 現在は量産化の準備と信頼性の試験を行っており、2023年から立ち上がってくる自動運転の市場に合わせて2020年に製品を出荷するべく取り組んでいます。ロードマップとしては、パートナー企業様とともに車載市場への参入を目指し、自社単独でもFAロボット分野へ参入し、それらを事業の両輪にしたいと考えています。
車載においてはファッショナブルであることが求められます。これからの時代の乗用車には、居住性やファッション性を崩さず、小さいながらも高性能なスペックが必要となるからです。製品の小型化は今後も重要視して取り組んでいきます。
※本記事内容は平成31年3月31日現在のものです。
株式会社SteraVision
本社:〒305-0047 つくば市千現二丁目1番地6
つくば開発センター:〒305-8560 つくば市梅園1-1-1 産業技術総合研究所 つくば中央 第二事業所 2-1-D棟5F
SteraVision Co.,Ltd.
Headquarters: 2-1-6 Sengen, Tsukuba City, Ibaraki Prefecture, Japan 305-0047
Tsukuba Development Center: 5F Building 2-1-D, Tsukuba Central 2, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 1-1-1 Umezono, Tsukuba City, Ibaraki Prefecture, Japan 305-8560
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