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新しい光通信技術で4K映像をリアルタイムにつなぐ!~非圧縮・ゼロ遅延による光伝送システム~

産総研発の新しい光通信技術を持つ株式会社光パスコミュニケーションズ。光伝送を双方向に行うことで、遠く離れた場所でも高精細な4K映像を遅延なしでシェアできるシステムを実現しました。さまざまな分野への応用も視野に入れ、ますます目が離せない光通信の市場への進出が期待されます。

松浦裕之/Hiroyuki Matsuura

松浦裕之/Hiroyuki Matsuura

株式会社光パスコミュニケーションズ 代表取締役。横河電機株式会社に31年4か月勤務し、電子回路技術を中心とした研究開発から営業・マーケティング及び事業運営を担当。光通信デバイス・40Gbps伝送速度の最先端トランシーバの製品化といった新規事業の立ち上げとその収束作業を経験。同社勤務の間に米国スタンフォード大学駐在はじめ海外業務対応も行う。2011年7月に同社退社後、同年12月より産総研に招聘研究員として勤務し、光通信デバイス及びシステムのための制御技術、4Kテレセッションの技術開発に従事。2017年7月に産総研内外の有志と共に株式会社光パスコミュニケーションズを設立。技術担当及び会社運営全般を行っている。

「光通信をもっと自由に使いやすくしたい」という思いが出発点

「光通信をもっと自由に使いやすくしたい」という思いが出発点

─ 株式会社光パスコミュニケーションズが設立された経緯を教えてください。

松浦裕之さん(以下、松浦):

私はこれまで産総研の研究員として新しい光通信技術の研究開発に携わってきました。産総研には、2018年3月まで10年間にわたって活動してきた文部科学省の先端融合プロジェクトである光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点(VICTORIES:Vertically Integrated Center for Technologies of Optical Routing toward Ideal Energy Savings)があり、そこで開発された技術の一部分を事業化するために、産総研内外の有志とともにこの会社を設立したのです。

新しい光通信技術はダイナミック光パスネットワーク(DOPN:Dynamic Optical Path Network)といい、このDOPNによって4Kの高精細映像を双方向に遅延なく送ってコミュニケーションする、「テレセッション」と呼んでいるシステムを事業の核に据えています。

光通信は今や当たり前となって、光ファイバはいたるところに張りめぐらされています。しかし、光ファイバをもっと自由に使う術はないだろうかと思案し、光通信をもっと使いやすくしたいという思いが起業のきっかけとなっています。

― 光通信・高精細映像伝送における御社の強みとは何でしょうか?

松浦:

光通信の市場は今後ますます拡大し、家庭のテレビも高精細な4K映像に対応するものが登場しています。しかし、コンテンツもインフラもまだまだ十分ではありません。当然4K映像を流すわけですから、放送局は大規模な設備を揃えることになります。

私たちが社会実装を目指しているテレセッションには、そのような大規模な設備は必要ありません。もっとシンプルな端末として使い、ユーザーの方にとって使い勝手がよくニーズに合わせることを志向しています。放送局のようなグレードの全国ネットワークではなく、技術は波長多重など複雑な手法を用いつつも、必要な設備だけを使ってシンプルにつくりあげる。お客様目線に合わせることを第一義に考えています。

高精細な4K映像を遅延なしのリアルタイムでシェア

高精細な4K映像を遅延なしのリアルタイムでシェア

― 「ゼロ遅延」の伝送を実現するテレセッションの仕組みについて教えてください。

松浦:

テレセッションのキーワードとして、DOPNの一部を使った光通信による「ゼロ遅延」が挙げられます。従来のインターネットを使った映像の通信といえばIPです。たとえば、Skypeをはじめとした自由に通信できるサービスがあります。その仕組みは、まず送り手側で映像を圧縮して、IPパケットとして細切れにして送り出します。途中でIPルータを通過するときに行き先を判断し、さらに受け手側で映像を復元して通信しています。この圧縮・伝送・復元をするたびに時間がかかり、どこでも遅れが生じてしまうのです。

DOPNの一部を使ったテレセッションは、映像を圧縮しない「非圧縮」方式を用いています。映像を圧縮するのではなく光に変換して、光を光のまま伝送しているので途中のIPルータもなく、そこでの遅れが生じません。受け手側での復元もないため、全体を通して遅延がないのです。光の速さは1秒で地球を約7周半するスピードです。正確には光ファイバだとその3分の2となりますが、トータル数十ミリ秒という単位の遅れしかなく、その遅れのほとんどは伝送ではなくカメラやディスプレイ等の映像機器で生じているわけでして、これを「ゼロ遅延」の伝送と呼んでいます。

IPを使った通信はメインではあり続け、電子メールやウェブ閲覧などはパケット通信が適していると言えるでしょう。しかし4Kの高精細映像をA点からB点へ送り続けるといったときに、細切れにしたパケットで伝送する必要はありません。用途に合わせた通信があり、高精細映像のゼロ遅延伝送はこのアプリケーションだからこそできることなのです。

― 御社が提供している製品とその価値について教えてください。

松浦:

テレセッションのシステムとしては、映像データを光に変換し送受信するセットトップボックス、ディスプレイ、カメラの3点セットとなります。セットトップボックスは電源を入れるだけの簡単な操作でシンプルな端末として開発しています。ディスプレイは推奨条件があるものの、量販店で売っている一般的なもので構いません。カメラもテレビ局用の特殊なものではなく、民生用のグレードのもので十分。決して大掛かりな設備投資を強いるものでなく、シンプルかつコンパクトなシステムとなっています。

自社製セットトップボックス

民生用カメラでテレセッションが可能

導入事例としては、まずは産総研のつくばの実験室や臨海副都心センターなどでネットワークができています。都内の大学、研究機関、日本科学未来館の一室ともつながっていて、実際に遠く離れた場所同士での打ち合わせなどに活用いただいています。もう一つは、社内インフラでは瞬時に送れないような容量のデータをテレセッションと同時に送るという使い方。打ち合わせをしながらデータを送りたいという企業様の要望に応えた事例として、そういう付加価値をご提供しています。

DOPNによる東京都内4Kテレセッションのテストベッド

― テレセッションの応用先はどのような分野が考えられますか?

松浦:

コンシューマー向けのサービスは規模がマッチしませんので、まずは特定用途への応用を想定しています。たとえば高い品質が求められる医療の現場。東京にいる名医と地方にいる執刀医を中継で結んで、アドバイスを受けながら手術をするという場を提供する。その映像の伝送には、高品質かつ低遅延が求められると思います。まだ医者のたまごが名医の執刀を映像で見て、そこにインタラクションが生まれるなど、さまざまな場面が考えられます。そういう医療の現場で使っていただけるチャンスがあると捉え、現在アプローチを進めています。僻地医療や介護も視野に入っていますが、そこは次のステップですね。

音楽シーンにも活用いただける場があると考えています。観客の反応がダイレクトに返ってくると演者は盛り上がりますよね。一方向に中継するだけなら1秒遅れて少しズレが生じてもよく、従来のインフラでも事足りると思います。でも、遠く離れた場所で演者と観客が手拍子をして一緒にリズムを取ったり、一緒に歌ったりするには、キレイな映像で遅延なくつながるテレセッションが活きるかなと思います。これはテレビのようなメジャーなつながりではなく、もっと草の根的なライブハウスを結ぶスケールでの展開になるかと思います。そういったサービスはこれまでなかったですし、おそらく今もできないと思っている人の方が多いでしょう。今までできなかったことを実現したい、その想いが事業の根底にある私たちのサービスをぜひ活用いただきたいと考えています。

ローカル5Gへの市場参入を目指した取り組みを推進

ローカル5Gへの市場参入を目指した取り組みを推進

― 今後の事業展開における展望を教えてください。

松浦:

現代社会において、「低遅延」は時代が求めるキーワードです。光通信や高精細映像の市場だけでなく、ARやVRなどの多分野において、リアルタイム性を確保するということはコミュニケーションを円滑にするための重要な要素となってきます。DOPNの技術は、それを実現する一つの手法。その必要性に絡んだフィールドで、事業を展開していきたいと考えています。

5Gといっても、その言葉の中にはさまざまな要素が含まれています。いつか皆が持っているスマートフォンも5Gに対応すると思いますが、そこに対して私たちが事業展開できるかというと方向性が違うでしょう。たとえば遠隔制御をするために、大量のデータをやり取りするために、そういう特殊な目的のために5Gの高速・大容量と低遅延を使う。そういうコンシューマー向けではない用途で貢献できる部分があるのかなと思います。コンシューマー向けのサービスは今にもはじまる勢いで、最初はスポーツ中継など派手な打ち上げ花火が上がると思いますが、もっと地に足の付いた産業応用のサービスも少し遅れてやってくる。このローカル5Gと呼ばれる市場への参入を考えています。

― そのためには柔軟な視野と考え方が大事になりそうですね。

松浦:

もちろん私たち1社だけでできる話ではありません。さまざまなプレイヤーと連携する形になるかもしれませんし、単に光ファイバで5Gとつなぐだけではなく、どんな分野のどんな要素を結んで活用するのかを検討していくことが重要です。

一歩一歩地道な事業を立ち上げて実績を増やしていくことが喫緊の課題になるでしょう。決して大きな技術開発ではなく、お客様のニーズに合わせた製品開発作業に取り組んで、少しずつ事業スケールの拡大を図り、5GやAR/VRの分野へ踏み込んでいきたいと考えています。そのためにも引き続き産総研と協調しながら、事業に取り組んでいく所存です。

※本記事内容は令和2年1月8日現在のものです。

株式会社 光パスコミュニケーションズ
〒101-0041  東京都千代田区神田須田町2-4安部徳ビル6F

HikariPath Communications Co., Ltd.

http://h-path.co.jp/

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