TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス

生体内に吸収される医療機器を開発!~高精度なマグネシウム合金部材と独自加工技術~

産総研が開発したマグネシウム合金と独自の部材加工技術を持つメルフロンティア株式会社。マグネシウムの特性である生体吸収性と強度を両立し、高度な加工技術を駆使して、生体吸収性医療機器の開発に取り組んでいます。基礎研究から加工、製造、そして販売まで、ベンチャーにとどまらない視野で医療機器分野の将来を見据えています。

北川全/Akira Kitagawa

北川全/Akira Kitagawa

投資する側と投資される側を経験した理系出身の経営者。バイオ医薬品の研究者を経て研究企画、医薬品・医療機器の開発を経験。ライフサイエンス投資専門のベンチャーキャピタルに転職後は、ハンズオンキャピタリストとして投資先から親しまれてきた。2000年に再生医療ベンチャーを設立し、自ら経営者として参画。内閣官房の特許戦略会議にベンチャー企業代表者として参画するなど、医療系ベンチャーの事業戦略に精通。現、再生医療新法の足がかりを作るなど、再生医療業界を牽引してきた先駆者。厚生労働省、PMDAとの折衝や薬事関連の申請、開発戦略を得意としており、多くの企業の開発アドバイザーを歴任。産総研SA時代に三社設立。うち、一社を大手製薬企業へ売却しEXITに成功。医療系ベンチャー業界のみならず、医師、研究者、製薬企業にも多くの人脈を持つ。2017年7月、メルフロンティア株式会社 代表取締役に就任。

既存の医療機器にない新しい価値をつくりだす

既存の医療機器にない新しい価値をつくりだす

─ メルフロンティア株式会社が設立された経緯を教えてください。

北川全さん(以下、北川):

2014年頃、私はある研究者の方とともに細胞を使った再生医療の製品開発研究をしていて、細胞を増殖させる足場材料を産総研の所内で探していました。その中で、マグネシウムを使った生体内の医療機器を研究していた花田(花田幸太郎さん、サイエンティフィックアドバイザリーボード主席)から、事業化への協力依頼を受けたのがはじまりです。1年ほどの時間をかけて議論と検討を重ね、スタートアップ開発戦略タスクフォースに応募し採択されて支援を受け、2017年7月に設立に至りました。

― 生体内の医療機器という分野で事業展開された狙いはどこにあったのでしょうか?

北川:

生体内の医療機器は大別して3つあります。治療後も生体内に残る金属をベースとしたものと、生体内で分解・吸収されるマグネシウムをベースしたもの、または加水分解できるポリ乳酸ベースのものです。生体内に残るものは市場も技術開発も成熟しており、次の付加価値を考えると生体吸収性を特徴とした医療機器が注目されている印象を持ちました。大学の先生へのヒアリングや調査会社を通して事業規模などを調査し、そして何より意識したのが世界の医療機器市場へ打って出ることができる価値を持った製品がつくれるかを見極めた上、マグネシウム合金を材料とした製品化をスタートさせました。

生体吸収性医療機器は治療後ある一定の期間で体内に分解・吸収される

生体吸収性材料を基材とし、さまざまな特徴を持つ

貿易赤字が増え続けている日本の医療機器市場において、既存の医療機器にない価値として生体吸収性を備えた医療機器を提供し、医療機器開発後進国からの脱出を目指すことが狙いです。既存の機器と置き換えるだけでも世界市場で見れば数千億円の規模になります。さらに、生体吸収性医療機器でないとならない部位も今後の事業展開の視野に入れています。

マグネシウム特有の吸収性×強度と加工技術が強み

マグネシウム特有の吸収性×強度と加工技術が強み

― 御社の強みであるマグネシウム合金と部材加工技術について教えてください。

北川:

マグネシウムは体内必須元素として優れた吸収性を持っています。この弊社独自のマグネシウム合金組成により、生体吸収性と強度の特性をバランスよく調整した合金を開発しました。さまざまな部位や用途に使えることは差別化につながる強みです。

さらに、もうひとつの強みが加工技術です。難加工材であるマグネシウムの結晶構造を理解して金型構造や製造条件を考えるとともに、用途により適した組織構造となるよう配慮していることが他社とは異なる点です。同じ材料でも組織が違えば吸収速度は異なります。体内で均一に分解するなど、使用用途に応じて生体内の医療機器に最も適した材料をつくり込めるのが私たちの技術。加えて、加工プロセスを均一化することで精度や製品の品質を高めています。

従来にはなかった思考の積み重ねが、最終的な医療機器の性能に大きな差をつけ、他社製品と比べて精度や特性が優れた製品を開発できているのです。

― 独自技術を用いた自社製品について教えてください。

北川:

まず最初に製造販売承認を取得しようと考えているのはスクリューです。折れた骨を固定するための小さいネジで、骨折の完治後は生体内に金属が残ることなく、除去手術も不要になります。生体内に吸収されるものはまだなく、自社での製造、販売を目指しています。また、主に大腸など臓器の吻合用機器として吸収性のステープルについても開発を進めており、これ以外にも独自、または他企業との共同などにより順次新製品を開発していきたいと考えております。

そして、試作段階ではありますが、薄肉管材からレーザーで切り出したステントの試作に成功しています。ステントの開発はベースとなるステントの表面に薬剤等をコーティングするなどの加工技術開発が必要でベンチャーである私たちが行うにはリスクが大きく、現在マグネシウム合金をベースとしたステントを開発している海外の大手医療機器企業の開発進捗状況を見ながら共同開発先を探していきたいと思っています。

先行開発中の骨固定用スクリュー

開発試作品の一例(上段:プレート、ステント、ステープル、下段:スクリュー)

新しい製品の開発は、ニーズがあり開発しやすいものからスタートし、順次製品を投入していく、この開発戦略は、これまで私が一貫してきたやり方です。骨固定スクリューの製品化を皮切りに、世の中に吸収性マグネシウム合金の材料をつかった医療機器があることを世界中に広め、土壌づくりや安全性、認知度の向上を図ることで自信を持って次へ進むことができます。より確実にマグネシウム合金製の吸収性医療材料を開発するためのストラテジーとしてまずスクリュー開発に注力し、順次ステープル、その他の医療機器の開発に取り組んでいきたいと考えております。

基礎研究から製品化までワンストップで対応できる医療機器メーカーを目指す

基礎研究から製品化までワンストップで対応できる医療機器メーカーを目指す

― 事業を推進していく上での課題は何でしょうか?

北川:

研究開発型のベンチャーは、いかに資金を調達して研究を進めるかという問題がやはり大きいです。そもそも医療機器分野のベンチャーが少なく、昨今では再生医療やがんといった領域の治療製品を開発するベンチャーが多い中で、弊社は希少な医療機器開発ベンチャーです。一見、オーソドックスな医療機器の開発ですが独自の強みを有しており、私の頭の中には近い将来、再生医療などさまざまな分野へ展開するアイディアと夢があります。

なお、2020年10月に株式会社エスアールディホールディングスと将来の臨床開発業務の協力に関する業務提携契約を締結し、併せて総額約1.4億円の資金調達を完了しました。今後も革新的な医療機器の開発に取り組んでいく所存です。

― 今後の事業展開における展望を教えてください。

北川:

今後の展望として、まずはスクリューとステープルの2つの製品の承認を取得して、販売ラインに載せていきたい。これから臨床試験や製造工場の建設などの課題はありますが、2024年か2025年には一般の病院で使っていただけるようにしたいと考えています。

最終的な目標は医療機器メーカーになることです。基礎研究ができて、製品化するノウハウがあり、インフラとして工場があり、薬機法対応にも精通している、そして海外へも進出する、このすべてを揃えたいと考えています。それはなぜか。製造を外注にまかせると品質の担保が疎かになるからです。ましてや、これまでにない新しいものを生み出すのですからなおさらです。基礎から製造を含めて製品化まで一気通貫でできることは企業価値を高めることにつながります。だからこそメーカーを目指す、それが私のポリシーです。

自社開発の利点として、たとえば承認の審査にすべてのデータを提示して説明ができ、それらを自社判断で行えることが挙げられます。日本は医療機器の多くを輸入に頼っており、約8兆円の市場規模がある大消費国ですが、特に治療器具の市場では約8割を輸入品が占めており、貿易赤字は1兆円を超えてなお、増加しています。それほど海外にリードされていて、追いつけないほどの技術力の差が生まれています。当然、自社開発が減ることで開発ノウハウを失い、新製品を開発すること自体が難しくなっていく。一方、輸入品の開発においてもデータさえ海外から取り寄せなければならないなど、何をするにも物事が迅速に前に進められず、これでは衰退の一途をたどるばかりです。

私たちが開発している2つの製品の市場は、現状では海外製品がその大部分を占めています。それをすべて国産に置き換えたい。小さな一歩かも知れませんが、まずは足元からアプローチしていきたいと考えています。開発から販売までを通して勝負する中で、基礎研究と製品化の間で良好な資金サイクルができれば基礎研究も盛んになり、医療現場で求められているニーズを得る機会も増え、結果として社会とのパイプラインが増えて会社規模も大きくなっていく。今はまだ予想していないニーズも出てくるかもしれません。そのロードマップの先にある基礎から製品化までを一貫して行えるメーカーを目指して今度も事業を推進してまいります。

※本記事内容は令和3年3月31日現在のものです。

メルフロンティア株式会社
〒305-8564 茨城県つくば市並木1-2-1
国立研究開発法人産業技術総合研究所 つくば東事業所内

https://mel-frontier.jp/

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