TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス
バイオ技術による新薬開発やジェネリック医薬品生産の世界は今、岐路にあるという。
医薬品をとおして病気とは何かということを考えていくなかで、これからの人と病気の付き合い方、
そして人々のクオリティ・オブ・ライフに対する答えを模索している。
株式会社ジーンテクノサイエンス取締役会長(2017年4月当時)。2003年の社長就任以来、産総研や北海道大学の支援を受けながら新薬と後続品(ジェネリック)開発を2本の柱とした経営を推進。2012年に東証マザーズ市場にIPOを果たした。2017年4月に取締役会長に就任。
社長就任以降を、第二創業だと思っています。
― まずは、株式会社ジーンテクノサイエンスの社長に就任する以前のことをお聞かせください。
大学の工学部を卒業したあと中堅の商社に入り、化学品の部署に配属されました。その部署では、わたくし自身バイオ分野に興味があったこともあって、化学合成された医薬品の原料や中間原料などを扱っていました。
― 商社では、新しい医薬品の開発も行なっておられたのでしょうか。
河南:当時は、おもにファインケミカルの委託合成事業でした。ある化学品の合成の委託を受け、会社が持っているネットワークを駆使して、最適な研究開発機関や合成工場をコーディネートします。ファインケミカルというのは、硫酸や塩酸など工場で一度にトン単位で大量に使われるようなコモディティな化学品ではなく、もっと少量、たとえばキロ単位で扱われるような付加価値の高い化学品を指します。そして、ファインケミカルの最たるものが医薬品、というわけです。
― その後、北海道大学発のベンチャーとしてジーンテクノサイエンスが設立されます。
河南:私は商社時代、試薬レベルの化学品や医薬品に加え、核酸などのバイオ化学品も並行して扱っていましたが、もっとバイオを突き詰めたいという思いから、おもにバイオ薬品を研究開発する企業に移りました。そこで、経営企画を担当し、事業の方向性の検討や資金調達さらにIPOの準備など、会社全体のことを経験することとなりました。一方で、北海道大学と連携して2001年にジーンテクノサイエンスが設立されました。
― その後、2003年に社長にご就任とのことですが。
河南:2001年創業当時の社長は、別の研究開発企業の社長が兼任していましたが、その研究開発企業が本格的にIPOを目指すことになり、上場に向けて兼任を解消する必要が出てきました。そして、2003年に私がジーンテクノサイエンスの代表を努めることになりました。私が代表に就任したときに、第二創業という気持ちで、ビジネスモデルも少し変え、新たなジーンテクノサイエンスとして出発しました。
― 産総研との関わりについてお聞かせください。
河南:2001年ごろの創業期は、資金面でも施設面でも、まだまだ独自研究開発をすることが難しい状況でした。その頃、産総研とは、核酸関係で共同研究を始めたことにより、産総研の認定ベンチャーとしていただき、産総研北海道センターにあるバイオベンチャーのインキュベーション施設を使わせてもらえるようになりました。そしていよいよ、独自の研究ができるようになったのです。
北海道大学構内にある研究施設。ここでバイオ新薬の研究が行われている。
安全キャビネットで作業を行なう研究員。衛生面には厳重に気が配られている。
もともと体内にあるけれど、不足しているものを補充し治療に繋げたことがバイオ医薬品の始まりです。
― 続いて、バイオ医薬品について詳しくお聞きします。バイオ医薬品とその他の製法による医薬品は、どのような違いがあるのでしょうか。
河南:まず、医薬品全体として、低分子医薬品と高分子医薬品に分類することができますが、この内、低分子医薬品はおもに化学合成によって作られています。そして、タンパク質などの高分子医薬品が遺伝子組み換え技術によって作られているのです。バイオ医薬品は、もともと体の中にあるものが病気などによって不足していたり、または、より効果を高めるために、それを補充してあげる、という発想からスタートしています。
― 体内から化学物質を抽出するのですか。
河南:バイオ医薬品の分野にも、いくつか世代があります。最初は血液や内臓また尿をなどから抽出した活性物質を使って薬を作っていましたが、遺伝子組み換え技術の発達によって、そういった物質を、遺伝子組み換えされた細胞や微生物を培養して作らせることができるようになりました。その代表例がインシュリンですし、現代では、インターフェロンなども遺伝子組み換え技術を使って作られています。
― 微生物や動物細胞が、私達の体に足りない物質を作ってくれるのですね。
河南:はい。遺伝子組み換えされた微生物や動物細胞などが作ってくれるのです。これらの物質の一部には、化学合成で作ることが可能なものもありますが、バイオ技術を応用することで複雑な構造で分子量の大きい物質を、より簡便に大量に作れるようになります。そして、「体に足りないものを補う」というところから始まったバイオ技術が大きく転換点を迎えるのが、抗体医薬という分野の発達です。
― 抗体医薬とは、どのようなものでしょうか。
河南:人は抗原・抗体反応という外敵に対して素晴らしい防御作用を獲得しています。現在では、バイオ技術を応用すれば、この抗体を人工的に作ることができます。それによって、ある特定のものを狙った医薬品、たとえば、がんを攻撃する医薬品やリウマチの原因物質を攻撃する医薬品などの開発が可能となりました。つまり、これまでの不足した物質をただ補う、というところからさらに進んで、抗原抗体反応を利用し人工的に作製した、より「攻撃的」な物質を医薬品にしたもの、それを抗体医薬と呼んでいます。
― バイオ医薬品は、これまでの医薬品にはなかった効果が期待できるのでしょうか。
河南:たとえば、弊社がジェネリック医薬品として販売している、「G-CSF(顆粒状コロニー刺激因子)」製剤は、抗がん剤などの治療によって減少してしまった好中球を増やす働きを持っています。抗がん剤による治療を行なう場合は、抗がん剤と同時にG-CSFも使用されますが、このように、従来の医薬品では実現できなかったことも、バイオ医薬品によって可能となります。
― 将来的に、がんは治るのでしょうか。
河南:これからもがんとの闘いは続いていくでしょう。しかし、最近では「がんとの共存」ということが言われています。がんそのものに加え、がん治療によって合併症が起こり、それが死因となるケースがあります。そこで、がんを体内で大きくしない、また、転移させないことにより過度のがん治療を抑え、がんを持ちながらも苦しまず、寿命をまっとうする。このような状況を可能にする医薬品があっても良いのではとも思っています。
細胞を培養しているシャーレ。この細胞たちが新しい薬を作ってくれる。
さまざまな培養液。赤い色は、培養液の状態を確認するために色付けされている。
クオリティ・オブ・ライフを向上させることが薬の目標です。
― 新薬開発とジェネリックの生産を経営の2本の柱とされていますが、この2つの事業それぞれにどのような違いがあるのでしょうか。
河南:バイオ医薬品をとおして、患者さんのクオリティ・オブ・ライフを向上させる、という大きな目標は、2つの事業に違いはありません。新薬事業では、いままでにない画期的なものが望まれるので、医者と連携しながら隠れたニーズを掘り起こすようにしています。たとえば、患者さんは少ないが治療が困難な病気、というような分野にアプローチしています。一方バイオ後続品事業では、おもに品質とコストダウンを考えています。同等以上の品質で、少しでも安いほうが患者さんの経済面でのクオリティ・オブ・ライフに貢献できますから。また現在、バイオ医薬品は多くを輸入に頼っていますので、品質が良く安価な国産のバイオ後続品が普及することは、国や社会への貢献にもつながると思います。
― 2012年に東証マザーズに上場を果たしました。市場からの資金調達を決めた経緯などをお聞かせください。
河南:現在の日本では、私どものようなバイオベンチャーが、ベンチャーキャピタルなどから数十億円規模の資金を調達するのは、かなり難しいのです。研究開発を進めるにあたっては、1億円、2億円という規模の資金では、すぐに息切れしてしまいます。まとまった資金を得るには、大手企業の傘下に入るのでなければ、IPOしかありません。
― 最後に、ジーンテクノサイエンス社の今後の展望をお聞かせください。
河南:医薬品産業の分野は今、岐路にあると考えています。高齢化によって医療費は増大していく傾向にあります。そして、かつての新薬の特許が続々と切れていくなかで、ジェネリック医薬品に対しての関心が高まっています。また、世界的に見ても、大手製薬会社のM&Aによる整理統合が進む一方で、実は新薬の開発ペースが衰えてきているのです。これは、医薬品の研究開発が進んだ半面、治療の難しい病気のみが残された、とも言えます。このような状況を打開するには継続的な研究開発を泥臭く積み重ねることです。しかし、新薬の開発を行なうには多額の資金が必要となります。私たちの研究開発は地味な作業の積み重ねですので話題性には欠けるかもしれませんが、日本の投資家のみなさんには、是非、ジーンテクノサイエンスに目を向けていただきたいですね。バイオベンチャーを育ててやるよというお気持ちで(笑)。
日々の地道な努力によって、新薬が開発されている。
培養液に入った細胞を振とう攪拌して実験を行なっている。
※本記事内容は、平成26年4月24日現在の情報に基づくものです。
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