TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス

「見えない」を「見える」に!赤外線カラー暗視ソリューション~近赤外線マルチスペクトル技術が広げる可能性

「赤外線カラー暗視撮影」という非常にユニークな技術を持つ株式会社ナノルクス。2015年に祖父江基史現社長を迎え入れ、再出発を果たしてから積極的なビジネス展開で一気に注目ベンチャー企業に。人が見えない近赤外線を駆使して、監視やヘルスケアの分野への技術展開、さらにセンサー開発など、領域を飛び越えた事業展開に世界が注目しています。

祖父江基史/Motoshi Sobue

祖父江基史/Motoshi Sobue

株式会社ナノルクス 代表取締役社長。早稲田大学理工学修士。米国デューク大学経済学修士。 1989年より日本銀行に勤務。1997年からインテル、デル、BATでFinance, Sales & Marketing, Strategy などの役員を歴任。ベンチャーサポート機関のTX Entrepreneur Partnersの副代表理事も務めた。 2015年10月、株式会社ナノルクスの代表取締役社長就任。

見えない、人に害が少ない、赤外線の領域でビジネスを展開

見えない、人に害が少ない、赤外線の領域でビジネスを展開

─ 2015年に社長に就任された経緯を教えてください。

祖父江基史さん(以下、祖父江):

株式会社ナノルクスに出会ったのは、私がベンチャーサポート機関のTX Entrepreneur Partnersの副代表理事を務めていた頃でした。当時は大学や研究所との付き合いがあり、産総研の技術者の方から相談を受けることもありました。そのひとつが「赤外線カラー暗視撮影」の技術です。

技術の生みの親でもある永宗(永宗靖さん、現技術担当取締役)の本気に触れ、「この技術を世の中に送り出したい」という気概を感じたことがきっかけとなって、2010年に創業した当社の社長を引き受け、そこから再スタートを切りました。

― 再スタートを決断された背景にはどのような狙いがあったのですか?

祖父江:

「赤外線カラー暗視撮影」の技術は非常にシンプルでわかりやすいことが魅力的に感じました。特殊なことをやる必要はなく、今あるものを使いこなせば実現できて、メリットやアプリケーションとして応用先も見える。どうしたらそこにたどり着けるかも概ねイメージできました。新しいものがいらないのに新しいものが生み出せる、それが強みであると言えます。

私たちが狙う赤外線ビジネスはつまり、暗闇を撮影した映像をカラー化することで付加価値をつけること。なぜ赤外線なのかというと、たとえばスマートフォンのカメラが高画素を実現するなど、人の目に見える可視光線の領域では技術進歩が成熟してきており、目新しいものは望めません。一方、その可視光線より波長が長い赤外線は、有用な情報が潜んでいるのにまだ十分に活用されていません。赤外線は、光自体が見えないため、人にとって害が少なくなります。反対に波長が短い紫外線は日焼けなど害が出ます。この無害な赤外線側で、現在の可視光線の技術を延長して検知できるのが近赤外線。これが私たちのビジネスのテリトリーになります。近赤外線を検知する半導体にはシリコンが最も用いられ、近年はウェハーの性能も高まっている時流があり、その追い風も受けて事業展開を図っていこうと考えています。

― 近赤外線を軸とする御社の強みは何でしょうか?

祖父江:

会社を立ち上げたときに社員の皆でブレインストーミングし、近赤外線の可能性についてアイディアを出し合いました。波長が長いので透過率が高く、気づかれないといった特性があるなど、さまざまな使い方が考えられます。その中で私たちは2つの領域に注力しています。1つ目は、現在最も力を入れている「人の総合センサー」という領域で、眼底カメラで目の裏から健康情報を読み取ることと、人の顔の映像から心臓の動きである脈波を計測することです。近赤外線は人の情報を取ることに長けているのです。2つ目は、主に監視用途において認識力を向上することです。

広がる近赤外線の可能性

カラー暗視カメラ

それぞれの領域へアプローチするための技術が当社にはあります。産総研で開発された「カラー暗視技術」、それを眼底カメラなどに応用する「ソリューション技術」、そして独自に開発を行う「センサー技術」、それが当社の強みとなっています。

可視光線と近赤外線との間で見つけた、ゆるやかな相関関係

可視光線と近赤外線との間で見つけた、ゆるやかな相関関係

― 「赤外線カラー暗視撮影」技術について教えてください。

祖父江:

カラー暗視の原理は、可視光線(R,G,B)と近赤外線(IR1,IR2,IR3)の相関関係を利用して色を再現するというものです。赤の波長帯約650nmに対してIR1が約800nm、同様に緑の約500nmとIR3の約900nm、青の約450nmとIR2の約850nmという、ゆるやかな相関関係が産総研で発見されました。この関係性を踏まえてセンサーで感知し推計すると、目に見えない近赤外線から目に見える可視光線を表現できるのです。

真っ暗闇で撮影した赤外線カラー映像

RGBの波長を捉えて色再現する独自のイメージセンサーにより、従来の白黒暗視カメラをカラー化することができます。コストも現在のカメラとほぼ同等の価格。また、色は近似値ですが認識力を大幅に向上させることができます。

この技術は特許権(登録済み)を保有し、国内では産総研と共有(50%)かつ独占的実施権を確保しているもので、海外では自社で権利確保を行っています。また、カラー化するロジックの基本特許で、迂回技術をシャットアウトしています。

― ヘルスケアにつながる「ソリューション技術」について教えてください。

祖父江:

監視カメラにカラー暗視を組み合わせることで、色が付くことで検出の可能性が高まり検知能力の向上が見込めます。2017年には当社の監視カメラが高速道路での実地利用に用いられました。

また、人の顔をカメラで撮影すると、血の量が刻々と変わっていることがわかります。その変化は心臓の動きとリンクしているため、脈波情報が取得できます。これは既存技術ですが、近赤外線でできるようになれば眩しい可視光線に代わり、寝ている間や自動車の運転中などでも邪魔にならないという利点が生まれます。

さらに眩しくない眼底カメラは、唯一血管を直接観察できる目の裏から豊富な健康情報を取り出せます。自撮りして画像処理をかけて分析することで、血管の形状や成分、目の病気、高血圧や動脈硬化など循環系の病気もわかるという意見を大学病院からもらい、ビジネス化に向けて共同研究を進めています。

脈波センシング

自撮り眼底カメラ試作品

― 独自技術によって開発されている「センサー」について教えてください。

祖父江:

イメージセンサーは、ウェハーとカラーフィルターとパッケージで構成されています。通常のカラーフィルターはRGBの3原色を分けるものですが、我々にはIRの3波長を分けるものが必要です。カラーフィルターの開発のみのためベンチャーでも取り組むことができ、これさえあればカラー暗視は実現できます。

ウェハーの各画素に対して多層膜という構造を積んでいきます。全体で1.1µmと薄く、既存の技術では3倍から4倍の厚さになります。そうなるとスマートフォンのカメラには使えません。私たちの開発技術さえあれば、世の中で使われているセンサーにカラー暗視技術が活用できることになります。実際にこのイメージセンサーは、フルHDの200万画素で大きさが1/2.7型という、監視カメラとして非常に一般的で世の中にニーズがあるサイズの試作品を完成させています。また、この技術にはつくりやすいという強みもあります。半導体に置いて大切な量産体制や品質確保を見通してニーズに合致する開発を進めていきます。

イメージセンサー

スマートフォン用など小型サイズの試作品を開発

技術は世の中で使われて、はじめて価値が生まれる

技術は世の中で使われて、はじめて価値が生まれる

― 社長に就任された2015年からどのような取り組みを進められたのですか?

祖父江:

社長に就任するまでインテルやデルなど外資系で役職員を歴任してきた経験があり、国際的にビジネスを展開することに不安はなく、世界的トップメーカーから出資や共同開発の合意を得られたことにも活かされています。

それまでにベンチャーサポートの勘所も掴んでいたことから、まず当社の技術はどこにニーズがあり、どこを目指すかを決めることが大きなポイントでした。自分で考えるだけでは答えは出ないので、できるだけ多くの人に会いました。たとえば監視、自動車、スマートフォンと、あらゆる分野にどんな課題があって、この技術で解決できるかを考えました。

関心は持ってもらえるし面白いと言ってくれますが、最終的に製品まで結びつくものもあれば、技術的関心だけで終わってしまうものもありました。そこに本当のニーズがあるかを見極めなければならず、そういう意味では失敗もしましたね。それを乗り越え、私たちの技術が最も活きる分野のひとつとしてたどり着いたのがヘルスケアです。人に害がなく眩しくないという利点を活用して、世の中も求めている健康情報を取得するという方向性で近赤外線のビジネスを推進してまいります。

― 今後の事業展開における展望を教えてください。

祖父江:

2022年末までに技術・製品開発をやり遂げることが会社の大目標です。技術というのは世の中で使われてはじめて価値が生まれるものです。だからこそ実験室に留まっているのでなく、実用化のステージに上げるために効果を検証することが課題になります。原理検証は終わっており、実用段階で使えるような証明を継続的に行っていくことが求められます。もうひとつは、量産できる製品を開発すること。この2点をやり遂げる実行力が大切だと考えています。また、私たちのゴールに到達するためにパートナー企業と協力しながらやっていくことも重要です。

海外のビジネス市場で日本の技術はリスペクトされています。特に長くやってきた信頼と信用のある産総研の技術がコアになっていることは大きな強み。それに加えて決断の早い会社と仕事をすることも大切です。優位性とスピード感を念頭に置き、「技術を世の中に送り出したい」という当初の想いを胸に事業を進めていきます。

※本記事内容は令和3年3月31日現在のものです。

株式会社ナノルクス
108-0075
東京都港区港南2-16-4 品川グランドセントラルタワー 8階

Nanolux co. ltd.
Shinagawa Grand Central Tower,8F, 2-16-4 Konan, Minato-ku Tokyo, Japan 108-0075

https://www.nanolux.co.jp

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