TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス
1990年東北大学薬学部学士課程修了。1990年~2004年中外製薬株式会社(新薬の研究開発推進部門、薬制部門他)、イギリス3年間の駐在を含め、組み換えタンパクや抗体医薬など複数のグローバル開発品でプロジェクトマネジメントや薬事戦略、薬制業務などを実践。2004年~2010年株式会社エムズサイエンス取締役、2010年~2013年株式会社ボナック取締役兼経営企画室長、2012年~2021年株式会社アクアセラピューティクス代表取締役社長と、複数のバイオベンチャーで新薬の研究開発に携わりつつ、会社創業から資金調達、株式上場業務を含めた会社経営、管理業務、IPO対応などを実践。Veneno Technologies株式会社代表取締役社長(President & CEO)。
1989年東北大学理学部生物学科卒業。1991年上智大学大学院修士課程修了。1991年~1994年三菱化成工業株式会社にて一般薬理学研究に従事。1998年筑波大学大学院博士課程修了。1998年に工業技術院生命工学工業技術研究所入所(現 産業技術総合研究所)、現在に至る。各種イオンチャネルの電気生理学的研究およびタランチュラ毒DRPの研究を行い、その後のDRP SpaceTM (イオンチャネル焦点化ペプチドライブラリー) やPERISSTM法(大腸菌を用いた進化的分子工学に基づく新しい高速スクリーニング法)等を開発、一気通貫型の技術であるVeneno SuiteTMとしてまとめ上げた。Veneno Technologies株式会社の創業者であり取締役(CSO・CTO)。2022年4月より専任予定。
DRPをもとに薬をつくるのは非常に理に適っている
─ Veneno Technologies株式会社が設立された経緯を教えてください。
博士課程修了後、工業技術院生命工学工業技術研究所に新しく立ち上がっていたラボに入りました。脳神経系の機能を調節する生理活性ペプチドを探索するラボで、私はタランチュラ毒液の研究を開始しました。2004年にNEDOから予算をいただき研究を加速しました。その研究過程で、製薬企業に勤めていた経験から薬にするには他の方法が必要だろうと感じていました。そこでペプチドを探すのではなく生み出すという考えにシフトし、弊社の基盤となる技術の開発をはじめました。
その後、会社をつくるため2012年に所内スタートアップ開発戦略タスクフォースを実施しましたが、起業には至りませんでした。2015年からJST START事業を実施しましたが、また、起業には至りませんでした。それでも諦めず、東京都Blockbuster TOKYOに参加、ボードメンバーが加わりました。2019年につくば市が連携協定を結んでいるBeyond Next Ventures社のCo-founderという経営者と研究者をマッチングするプラットフォームに私の研究情報を登録したところ、吉川から連絡があり先のボードメンバーと共に経営チームができ上がりました。
吉川寿徳さん(以下、吉川):私は製薬企業で15年ほど新薬の開発や臨床試験の申請などに携わっていました。そしてベンチャーの世界に入り、いくつかの会社を経た後、Co-founderに経営者候補で参加し木村の話を聞きました。事業化を見据えた研究であったことと、お互い東北大出身で同時期に青葉山キャンパスに通っていたことにめぐりあわせを感じ、会社設立につながりました。
― 基盤としているジスルフィドリッチペプチド(DRP)とは何でしょうか?
DRPはバクテリアからヒトの中にまで存在する天然の生理活性ペプチドで、毒液の中によく見られます。分子内に3つ以上のSS結合を持ち、結び目状に架橋されるなど独特の固い立体構造をしています。動物たちが進化の過程でペプチドを変えてきた経緯があり、非常に高い活性を持っています。選択性も高く、熱や酵素などに対する強い安定性や、免疫原性が低いことも特長です。
医薬品に必要な要素を備えており、医薬品にしない手はありません。もっと言えば、生体で作用する物質は、さじ加減で毒にも薬にもなります。DRPをもとに薬をつくるのは非常に理に適っているわけです。私は薬学出身でもあり毒というのは面白いと思っていました。
木村:私は国家資格である技術士(生物工学)の資格を持っており、毒液の分子生物学的研究の中に工学(エンジニアリング)の視点を入れていくことが必要だと考えました。DRPは、いわゆる中分子の中でも高分子側、私が高中分子と定義している分子でタランチュラやヘビの毒液DRPは分子量2,500~15,000程度です。日本で主に認識されている分子量500~2,500程度の環状ペプチドなどを含む私が低中分子と定義している分子とは、性質が異なります。毒液DRPは高中分子という未開拓の領域にフィットする分子なのです。この未開拓の領域の高中分子に対し、何とかして医薬品にしたい、医薬品するにはどうしたら良いのか、というエンジニアリングの考え方を導入すると、特殊だと言われる毒の研究はきちんとした創薬の研究であることに気づけます。
吉川:市場の注目は今、低分子医薬でも高額な抗体医薬でもなく中分子医薬に集まっています。ある程度大きな標的分子を狙おうとすると、大きな面で作用して構造や機能を制御する必要があります。また、こうした標的分子に対する選択性を高めるためには、ある程度の分子の大きさ・分子量が求められます。環状ペプチドよりは大きい高中分子であるDRPは、大きな分子を標的とするのに最も優れた次世代の創薬基盤分子と言えます。
─ 高中分子を領域として事業展開された背景を教えてください。
我々がターゲットにしているのは膜タンパク質です。細胞内外の濃度勾配でイオンを通すイオンチャネルのほか、トランスポーターやGPCRなどがあります。もともと生物の毒も膜タンパク質を標的にしていることが多く、たとえば筋肉のナトリウムチャネルを遮断して動物を麻痺させるというような働きをします。
吉川:この膜タンパク質に関して旧来の低分子では対応できず、これまで製薬会社が時間とコストをかけて、ことごとく失敗してきました。市場を見ると、上市されている医薬品の18%がイオンチャネル、33%がGPCRに関係しているとされ、膜タンパク質の重要性が示されています。イオンチャネルは400種類のうち医薬品として開発できたのが80種類にとどまり、薬にするのは非常に難しいとされます。しかし、多くの疾患に膜タンパク質が関係していることが報告されており、多くの治療薬の標的になり得るというビジネスチャンスがあると考えています。
ライブラリ・スクリーニング・大量生産の一気通貫技術でDRP創薬を加速
― DRPの実用化を可能にする3つの技術について教えてください。
1つ目はDRP Space™という遺伝子ライブラリです。従来は天然の毒液から分離させるか合成するかで作成に時間もコストもかかり、多くて数100前後のライブラリサイズでした。これを天然のDRPを鋳型として、人為的に加速進化させたり、鋳型の構造情報や完全ランダム化などの手法によりユニークなライブラリを構築することができます。また自然界には大きさや形、異なる分子機能などを有する様々なDRPがあると知られており、未知なDRPが大半でしょうが、これらを鋳型とすることも可能です。DRP Space™は非常に多様性のあるライブラリを効率よく作成できるのが最大の特長です。
木村:加速進化は天然の毒液中で起こっている現象で、DRP Space™ではこれを試験管内で再現しています。SS結合は変えず、変異するホットスポットをランダム化することで新しい機能を持った遺伝子を増やし、標的に作用する可能性がある大きな機能性ライブラリが実現します。
吉川:2つ目は大腸菌を用いたディスプレイ技術のPERISS™です。大腸菌の内膜と外膜の間のペリプラズム空間でDRPをスクリーニングする(=PERISSサイクル)のが特長です。内膜に発現させた標的分子に結合するDRPを回収し、PERISSサイクルを繰り返すことで、目的とする膜タンパク質に作用する可能性の高いペプチドを獲得するといった、進化分子工学に基づく新たなペプチドの高速スクリーニング技術です。
木村:PERISS™のサイクルはフラスコ1本で数十億個の大腸菌を培養してスクリーニングでき、低分子のプレートを使った従来の技術と比べてはるかに短期間かつ高効率なDRP取得を可能にしました。
吉川:最後の3つ目のSuper Secret™はDRP大量生産技術です。DRPの化学合成は難しく費用も高額でしたが、大腸菌からペプチドを分泌する新しい製造方法を国内化学会社と開発し、高精度のDRPを簡易に生産することが可能です。さらに連続培養により低コスト化・大量製造を検討しています。
― この独自技術をもとに、どのような事業を展開されているのでしょうか?
DRP創薬を加速させる2つの事業モデルを展開しています。1つはディスカバリーパートナリングと呼んでいるビジネスで、標的分子に対して作用するDRPをテーラーメイドで見つけてライセンスします。もう1つはパイプライン(新薬候補の開発)で、我々が社内的に研究開発を進めて付加価値を生み出し、製薬企業へのライセンスを目指すビジネスです。
イオンチャネルは植物などにも存在するため、バイオケミカル事業も領域に入ってきます。欧米ではグリーン農薬をキーワードに開発が進んでおり、サステイナブルな農業に向けて環境負荷が少ないペプチドベースの新しい農薬の創出に貢献します。
誰もやっていない高中分子の領域だからこそ我々が切り拓く
― 事業展開における課題は何でしょうか?
弊社が提供するのは新しい創薬プラットフォームであり、毒液から医薬品をつくる、という古くからあるコンセプトを刷新する新しい技術です。この新しいコンセプトを証明するためのデータを揃えることは大きな課題です。
私が会社をつくろうと思ったのは「自分がやらないと抗体医薬品の二の舞いになってしまう」と感じたからです。抗体医薬品の黎明期、日本では薬にならないと各企業は動きませんでした。しかし欧米で開発が成功し、現在日本は欧米に対して高い費用を払って抗体医薬品を開発しています。低分子医薬品の化学合成が得意な日本で、誰もやっていない高中分子の領域だからこそ今やらないといけないと考えています。
― ベンチャーとしてのこだわりと今後の展望を教えてください。
エッジの効いた会社にこだわりたいというのが私が思うところです。どこか尖ったもの、突出した力がないとベンチャーらしさを発揮することはできません。天然の毒というエッジの効いた技術を武器に、今後も事業を推進してまいります。
木村:「Veneno(ベネイノ)」はスペイン・ポルトガル語で毒液を意味します。これから会社が存続していく中で、たとえば我々創業メンバーがいなくなった時、時流に合わせて事業ドメインがぶれてしまうことなく、ジスルフィドリッチペプチドで攻める、そこだけはぶれずに守る、弊社が自然界に存在する生体が持つ分子に立脚した会社であることを忘れないようにしようという思いを社名に込めています。
事業計画としてスクリーニング作業の効率化を図るためのロボティクス導入も視野に入っています。現在すでに各分野への打診を行っており、今後ますます裾野を広げていきたいと考えています。
※本記事内容は令和4年3月31日現在のものです。
Veneno Technologies株式会社
〒305-0031 茨城県つくば市吾妻2-5-1
https://veneno.jp/ja/jphome/
Veneno Technologies Co. Ltd. https://veneno.jp/
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