TECH Meets BUSINESS
産業技術総合研究所が創出・支援するベンチャービジネス
産総研の熱電変換グループの成果を基盤として製品開発に取り組む株式会社モッタイナイ・エナジー。捨てられている熱を電気に変える熱電発電の分野において、材料開発やモジュール化のほか、オリジナル装置を用いた測定・評価、そして革新的な応用製品を提供。熱電業界において培った幅広い知見を駆使し、熱電発電のさらなる発展と普及のための提案を行っています。
株式会社モッタイナイ・エナジー 代表取締役CEO。2003年9月 北陸先端科学技術大学院大学修士課程修了。2003年10月–2010年3月 株式会社フェローテック、2010年4月–2011年3月 日本産業技術振興協会(派遣先:産業技術総合研究所)を経て、2011年4月より産業技術総合研究所にて現在も在籍中。2013年4月–2014年3月に物質・材料研究機構にも在籍し、2016年6月に株式会社モッタイナイ・エナジー設立、代表取締役に就任。2018年6月より、早稲田大学・アンビエントロニクス研究所にてコーディネーター業務も行っている。
運命的な巡り合わせからはじまった「熱電発電」の研究と起業
― 熱電発電の分野に進まれたのは何かきっかけがあったのでしょうか?
私が熱電発電の分野に触れたのは大学院の頃です。ただ当時は知らなかったのですが、大学時代に所属していた研究室のルーツが、日本で最初に熱電変換技術を研究していたグループだったと後からわかりました。さらに、実は年の離れた兄が熱電発電の分野にいたことも後から聞いて、その兄と共同研究をしていた西田先生という方が在籍していたのが、半導体関連製品の株式会社フェローテックなんです。私が入社する数ヶ月前までいらっしゃいました。そういう運命的な巡り合わせもあり、熱電モジュールも手がける会社に進んで、この業界で飛躍したいと考えました。
― そこから株式会社モッタイナイ・エナジーを設立されるまでの経緯を教えてください。
民間企業にいた20代のうちに、技術開発だけではなく特許戦略や他社情報など経営企画に関するような業務も横断的に経験できました。一方で、これ以上は自分が成長できないという行きづまり感に気づき、30歳のときに産総研に転職。基礎研究に取り組みますが、その頃にちょうど東日本大震災が起こりました。上司と私の2人は「我々はまたしても何もできなかった」と、基礎研究だけでは社会の役に立つ研究につながらないと思い知らされたんです。応用製品にも力を入れないと、この分野は発展しないと考えました。
応用製品を開発した後、産総研には技術移転ベンチャーの制度があることを知ります。だったら自分で販売してこの分野を広げたいと会社を設立したのです。これまで出会った人たちとの巡り合わせをきっかけに、私自身が培ってきた幅広い経験とノウハウを活かせる最も効果的な方法を思案したのが経緯ですね。
ニーズに合わせた測定装置の提供と、発電量やコストパフォーマンスに優れた応用製品の開発
― 熱電変換技術をバックグラウンドとした御社の強みについて教えてください。
まず熱電変換技術とは、電流を流して熱の流れ(温度差)を生じさせるペルチェ効果と、逆原理である、温度差(熱の流れ)を与えると電圧が生じるゼーベック効果、この両方を含む技術です。特に後者は負荷を接続することで電気を得ることができるので熱電発電といいます。この熱電変換技術を基盤として、材料、モジュール、装置、応用製品の4つの事業を展開しています。
熱電モジュールの上に手のひらを置くと熱電発電によりLEDが光る
熱電発電は200年近い歴史がありますが、室温領域でパフォーマンスが得られる材料は70年近く性能が大きく変わっていなかったり、測定や評価する技術が成熟していなかったり、市場規模が小さいこともあって不十分な要素が多いんです。当社では、私が産総研で携わった材料研究や民間企業でのモジュール化の経験、測定や評価に関する業務などのシナジーを活かして、熱電業界に関わるすべての業務ができます。
たとえば応用製品だけに特化するのではなく、材料があるお客様には性能を調べる装置を提供したり、材料のモジュール化にあたって助言したり。この業界に向けた基礎研究と開発を進めながら、さらに業界の外に向けた応用製品にも取り組んでいます。その「両輪」によって分野の発展に寄与し、応用製品が花開くための市場の準備もするというのが当社のスタイルであり、幅広い経験を積み重ねてきたからこそフォローできる強みです。
― 4つの事業のうち製品化されている「装置」と「応用製品」について教えてください。
装置事業では、熱電発電関連の受託測定と、測定装置の販売の両方を行っています。販売においては、材料の電気抵抗の大小が均一かどうかを緻密に調べる産総研発の高機能な抵抗分布測定装置などを扱っています。さらに、お客様のご要望に基づいてオリジナル装置も作り上げます。たとえば熱電材料として薄い紙のような薄膜を開発している方は、既存の装置では測定できません。ニーズに合わせた装置が必要なのに、提供できるメーカーがない。それでは新しいプレイヤーは増えませんよね。材料開発やモジュール化を支え、市場を温めるための装置事業でもあります。
応用製品であるスタック型の熱電発電ユニットは、お湯と水の熱交換の際に発電する技術を用いています。お湯と水が互い違いに流れるように水路が形成されていて、熱電モジュールを表裏で組み込んでいます。10スタック品の場合、発電量は温度差85℃のとき10W、発電密度は驚異の12kW/㎥を実現。重ねたり並べたりできるので限られた設置面積でもよく、温度差さえあれば常時発電できます。たとえば変換効率20%超の太陽光発電パネルは屋根など広大な面積が必要で、昼間など天候に左右され稼働率は15%ほど。対して熱電発電ユニットは、変換効率は2~3%にとどまりますが、稼働率90%も達成可能のため、発電量Whで見るといい勝負ができます。
スタック型熱電発電ユニット 10スタック品
コンパクトなボディはエンジニアプラスチック製
また、ボディがプラスチック製ということもポイントです。熱を通して発電する関係上、金属の方が適していると思いがちで、実際に他社類似製品ではステンレスなどの金属を使っています。しかしそこを発想の転換で、この製品では熱伝導率が低いエンジニアプラスチックでも発電能力が落ちない新規熱交換構造を用いています。そして同時にプラスチックであれば低コスト化が可能になりますが、これは熱電発電の長い歴史の中で誰も想像しなかったコア技術です。
熱電発電の市場が広がらない原因に「コストパフォーマンス」が挙げられます。分母の導入費用と、分子の発電量または提供できる価値が乖離しているわけです。主に高コストが問題となっていることを踏まえ、当社の応用製品の開発では性能向上はもちろん、最も念頭に置いた低コスト化が強み。事業としては温泉地の自治体や工場といった展開先を主としています。
熱電発電の市場を切り拓く新しいアイデアの創出がキー
― 今後の事業展開における展望を教えてください。
先ほども言いましたが、業界に向けた材料、モジュール、装置の事業と、業界の先に届ける応用製品の事業、その「両輪」を回していくのが今後の展望となります。昨今は再生可能エネルギーへの関心などから世の中の機運があり、会社としても発電のニーズを感じていますが、トレンドが去ったときに仕事が続けられないのでは困ります。熱電発電の認知には応用製品が必須なんです。
たとえば太陽光発電を搭載した電卓は、製品化の好例の一つだと思っています。明るければ電池の代わりになるということが、原理を知らない子どもにもインプットされる。それと同じように、原理を知らなくても熱電発電だとわかる、認知度を高めるための応用製品を展開しないといけません。熱電発電を使える技術として、コストパフォーマンスが成立する応用製品として世に出すために、オリジナル商品提案の事業が大事だと考えています。
― 既成概念にとらわれない考え方が大事になりそうですね。
子どもの体温と外気の温度差を使って、おもしろい動きや音を出す機能をおもちゃに付けるなど、そもそものアイデアを出す人を増やさないといけませんね。そういった仕掛けや刺激を業界に与えていきつつ、パートナー企業様と連携して応用製品を生み出していく作業が今後非常に重要になってきます。そのときコストパフォーマンスをどう捉えるかが、熱電発電の発展の鍵。ベースとなる技術の改善はもちろん重要視しながら、時代に即したアイデアやサービスを生み出す事業を構想しています。
材料やモジュールだけでは単なる研究者や開発者で終わってしまいます。兄や先生、また多くの経験機会に恵まれた巡り合わせを振り返ると、そこで終わるのは業界に対して申し訳ない気持ちがあります。ですから、運命的というより「使命」や「宿命」として私はこの仕事を完遂しようと思っています。今はまだ市場規模が小さい熱電発電を、将来に向けてもっともっと広げていきたいですね。
※本記事内容は平成31年3月31日現在のものです。
株式会社モッタイナイ・エナジー
〒305-0047 茨城県つくば市千現2-1-6 つくば研究支援センターC棟
Mottainai Energy Co., Ltd.
2-1-6 Sengen, Tsukuba City, Ibaraki Prefecture, Japan 305-0047
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