研究紹介【材料開発】

プロセスインフォマティクス(PI)
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DX・AI活用技術
ナノセルロースは高強度・軽量・環境適合性に優れた次世代のバイオマス素材として、持続可能な社会を支える重要な役割を期待されています。しかし、天然由来であるため特性にばらつきがあり、評価や品質管理に時間とコストがかかることが、研究開発や産業応用の大きな課題となっていました。私たちのグループは、こうした課題に対応するために、AI(人工知能)や機械学習を活用したナノセルロースの新評価技術を開発しました。本技術は、従来の評価方法に比べて「短時間」「低コスト」「高精度」での評価を可能にし、企業との共同研究や産業実装を大きく加速させることを目指しています。
【物性予測AI技術
赤外線測定や比表面積測定などで得られる物性データをAIに学習させることで、未知のナノセルロースの特性を予測する技術を確立しました。これにより、従来のように膨大な実測に依存する必要がなくなり、研究開発のスピードが大幅に向上します。実証実験では約50種のナノセルロースに適用し、高い予測精度を確認しています。企業にとっては、材料スクリーニングの効率化、開発コスト削減、開発期間短縮といった利点が期待できます(図1)。
【形態情報予測AI技術】
ナノセルロースの品質を左右する繊維長や比表面積などの形態情報を、沈降挙動の解析から予測する技術を開発しました。分散液の沈降の様子をAIが画像解析することで、従来10日以上かかっていた比表面積評価を1日以内に短縮可能となります。さらに、産総研の研究成果を取り入れたCNNモデルにより、比表面積の予測精度はR²=0.94と非常に高い値を示しました。品質管理の迅速化、量産時の安定性向上に直結する技術です(図2、プレスリリースより)。
【今後の展開】
今回のAI・機械学習を活用した新評価技術は、ナノセルロースの研究開発を効率化するだけでなく、共同研究や企業導入においても大きな価値をもたらします。今後は、耐久性や長期安定性など実用化に不可欠な特性の予測へと応用を広げるとともに、「なのセルロース工房」などのプラットフォームを通じて、産総研との産学連携をさらに推進していきます。
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TEM TEMによるCNF強化PPの構造-物性相関の解明
樹脂複合材料は、用途に応じた物性(高強度・高弾性・耐衝撃性など)を持たせることが重要です。しかし、前処理を含めた成形加工プロセスのパラメータが非常に多く、その物性を制御することは容易ではありません。物性に繋がる要因の一つとして、微細構造が考えられます。特に、高アスペクト比をもつナノセルロースは、樹脂複合材料中での分散性や配向性などが物性と強く相関すると考えられてきました。本研究では、相容化剤の有無や混合方法が異なるセルロースナノファイバー強化ポリプロピレンに着目し、微細構造と物性の相関を解明しました。
図1
【結果】
図1に示すように、MAPPの添加、さらにはMAPP添加時の固相せん断処理により、大幅に引張特性が向上しました。これら3種類のサンプルをTEMで観察した結果、MAPPを添加していないサンプルでは、マイクロスケールのCNF凝集体が多数存在することが分かりました。次に、物理混合によりMAPPを添加したサンプルでは、過剰量のMAPPがCNFの周囲に存在している様子が観察されました。最後に、固相せん断によりMAPPを混合したサンプルでは、CNFがフィブリル単位で分散していました。したがって、引張特性の向上は、
①MAPP添加によるCNFの相容性の向上
②MAPP添加時の固相せん断処理によるMAPPの有効活用とCNFの微細化・高分散化に起因することが明らかになりました。
【まとめ】
以上のように、樹脂複合材料の微細構造を詳細かつ正確に理解することで、その物性の発現要因や成形加工条件の決定指針を得ることが可能となります。このアプローチは、経験に基づく成形加工から脱却し、高性能な樹脂複合材料の効率的な作製へと繋がります。
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【参考文献】
N. Kamiuchi, Y. Hikima, M. Koshino, K. Sakakibara, Compos. A Appl. Sci. Manuf., 200 (2026), 109317.
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ゲルNMR
溶液NMRは化学構造解析のために広く使われているツールであり、特に高分子化学では、分子の性質に影響する置換基分布や末端構造を同定するために欠かせません。この手法では、通常、対象化合物をNMR溶媒(重水素化溶媒)に溶解させて測定を行います。この時、試料がNMR溶媒に十分に溶解していれば、高分解能のスペクトルが得られますが、試料が溶けていない場合、感度・分解能ともに著しく減少します。一方、難溶解性試料をNMRで分析する手法として固体NMRがありますが、固体NMRのスペクトルは溶液スペクトルよりブロードであることが多く、難溶解性の試料の高分解能なNMRスペクトルを手法が求められていました。
当研究グループでは、難溶解性試料の一種である木粉の精密構造解析を達成したゲル状態NMR法に着目しました。この手法では、結晶性のサンプルを粉砕によって微細化し、親和性の高い溶媒中で膨潤させることで、「溶けていないけれども高分散・高分子運動性」な状態を作り出し、汎用の溶液NMRプローブによるシグナル検出を実現した物です。しかしながら、当初は木粉中のリグニンやヘミセルロースの分析に最適化した前処理条件しか明らかになっていませんでした。そこで我々は、試料の可塑性に合わせた前処理方法と、試料の親・疎水性に合わせたNMR溶媒を選択することで、この手法をセルロースや表面改質セルロース、合成高分子に展開しています。

【今後の展開】
これまで溶液NMRで測定することのできなかった試料で、溶液NMRに特有の多次元測定(HSQC-NMRなど)やNOESY-NMR測定が可能になります。化学構造や分子間相互作用に関する情報を取得することで、構造-機能相関の解明に繋がることが期待されます。例えば、顔料と多糖の相互作用を調べることで、顔料吸着能が高いナノファイバーを調べ、ナノファイバーの顔料分散剤としての応用を検証するといった材料開発を行っています。
参考文献
  • Yasuko Saito, Ken Okada, Takashi Endo, Keita Sakakibara, “Highly surface-selective nitration of cellulose nanofibers under mildly acidic reaction conditions”, Cellulose, 30 (16), 10083 (2023) DOI: 10.1007/s10570-023-05488-y
  • Yasuko Saito, Keita Sakakibara, Yuki Tanaka, Naoya Hontama, Takashi Endo, “Influence of hemicellulose and lignin on intermolecular interaction between quinacridone and lignocellulosic fibers revealed by gel-state NMR and color measurements” Journal of Wood Science, 69, 20 (2023) DOI: 10.1186/s10086-023-02094-1
CNF/CFの評価法
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