連携可能な技術の紹介 【分析】

含水サンプルを凝集・収縮抑制して乾燥処理
解説:ナノセルロース(セルロースナノファイバー/CNF)や生物サンプルなどの含水サンプルを、電子顕微鏡等で観察しようとした場合、電子顕微鏡のサンプル室は真空状態であり、サンプルの事前乾燥を必要とします。しかし、含水状態のサンプルをオーブン乾燥等すると、凝集したり、変形したりします。そのため、含水状態の形状を維持したままの乾燥処理が重要となります。
 当研究グループでは、サンプル中の水分をt-ブタノール置換して凍結乾燥する方法や超臨界二酸化炭素を用いる臨界点乾燥法(サンプル中の水は事前にエタノールに置換する必要があります)でサンプルの乾燥処理をしています。
 これらの乾燥方法では、t-ブタノールやエタノール置換を完全にすることが重要です。置換が不均一で、水分過多の部分があると、その部分は凝集してしまいます。これらの方法を用いると、微生物なども変形させずに乾燥することができ、電子顕微鏡で特徴的な形態が観察できます。
参考:「技術のポイント一覧」
・ナノセルローススラリーを凍結させると凝集する。
・ナノセルロースを凍結乾燥しても凝集している場合がある。
・高純度ナノセルロースは水中でも凝集する場合がある。
・アルコール置換によるナノセルローススラリーの凍結乾燥方法。
・ナノセルロースの凝集を高度に抑制して乾燥するためには。
難溶性物質の溶液NMRによる精密分子構造解析
解説:木粉,セルロース(ナノセルロース)などの有機物は、本質的に溶解できる溶媒が極めて限定されています。また、合成ポリマーにも、溶解できないものが多くあります。これらの有機物の分子構造を精密に調べようとした場合、適切な溶媒がないため、高分解能のスペクトルを取得できる溶液核磁気共鳴装置(NMR)を用いることでができません。そのため、分解能が低下しますが、固体NMRを用いる場合が多いです。しかし、ピークは溶液NMRよりは、はるかにブロードとなり、精密解析が困難になる場合があります。
 当研究グループでは、溶媒に溶解できない有機物であっても、粉砕・微細化・非晶質化等の活性化前処理と適切に膨潤できる溶媒選択(溶解ではありません)、さらに比較的新しいNMR測定パルスのシーケンス(HSQC-AD等)を組み合わせることで、従来法では不可能であった、精密二次元NMRスペクトルを取得できる「改良型Gel-State NMR法」を開発しています。この方法を活用すると、溶媒に溶けないセルロース誘導体の置換位置まで帰属させた解析もできます。また、溶解度が低く、炭素原子(カーボン)スペクトルが取得できない場合でも、二次元スペクトルの水素原子(プロトン)との交差位置から炭素原子のケミカルシフトを調べることもできます。
参考:「研究紹介」
・溶媒不溶のセルロース系サンプルの高分解能二次元NMR解析(HSQC法)
・ナノセルロースとキナクリドン(赤色顔料)のCH-π(パイ)相互作用
・HSQC法による木材プラスチック複合材料における相容化剤の反応解析・エステル結合の実証
水溶液中の物質の吸脱着をリアルタイム評価
解説:物質Aは物質Bに吸着するのか、しないのかなどが課題になることは多くあります。吸着が起こるメカニズムは多様ですが、吸着力がどの程度強いのかを定量的に調べることができれば、材料設計に役立ちます。また、吸着した物質が、そこで反応を起こし、分解なども起きるかもしれません。反応が終了すると、物質は脱離していくこともあるかもしれん。これら吸着やそこでの反応、脱着では、必ず重量の変化が起こっています。
 当研究グループでは、水晶振動子マイクロバランス(QCM)法を活用した、物質の相互作用を解析する技術を構築しています。この技術開発の切っ掛けは、バイオエタノールの効率的生産のため、セルラーゼ等の酵素によるセルロースの糖化(加水分解)メカニズムを詳細に解析する必要性が出たことからです。
 QCM法では、水晶振動子センサーの表面に、調べたい物質をコートする必要があります。当研究グループでは、木質組織をナノセルロースにして、酵素と接する表面積を増大させて、酵素糖化率を向上させる技術を開発しています。セルロースを特殊溶剤で溶解して、水晶振動子センサーの表面にコートすることはできますが、溶解プロセスで、セルロースの分子配列は変化してしまい、天然とは異なる構造になります(セロハンはセルロースを溶解後に再生したフィルムですが、紙などのシートとは結晶構造が異なっています)。そこで、ナノセルロースのサイズを調整し、水晶振動子センサーの表面に均一コートする技術を開発しました。そのセンサーをフローセルに設置し、酵素液を流すと、基質特異性に応じて、ナノセルロースに酵素が吸着し、さらに糖化が進行することによるセンサーの重量変化の過程をリアルタイムで解析することができました。
 QCM法解析では、水晶振動子センサーの表面に物質が均一コートできれば、様々な物質同士の相互作用を解析できるようになります。例えは、特定の物質による汚れ防止コートをした材料が、その効果をどの程度発揮しているかを、リアルタイムで解析できます。水晶振動子センサー表面に、スピンコーター等でポリマーを均一コートし、サイズ調整したナノセルロース分散液を流すと、ナノセルロースとポリマーの相互作用解析をすることも可能となります。
参考:「研究紹介」
・水晶振動子マイクロバランス(QCM)法によるナノセルロース表面特性解析技術
サンプルを水に浸漬せずに密度測定
解説:様々な材料開発では、密度(比重)の評価が大切になる場合があります。一般的な密度の測定方法は、「アルキメデスの原理」に従って、水に浸漬した物質の排除した水の重量と、水に浸漬していない場合の重量から算出します。そのため、水に溶解してしまう物質(材料・素材)や水に触れさせたくない物質(材料・素材)では、密度測定が困難になります。
 当研究グループでは、水の代わりにヘリウムガスを用いる、密度計を備えています。この方法では、測定対象物の制限がほとんどなくなり、固体・粉体・液体・ペーストなどの密度も求めることができます。複合材料などでは、製造に用いた素材の密度と割合が分かっていれば、理論密度が算出できますが、その複合材料の密度を測定した場合、理論密度よりも軽い場合は、内部に複合化が上手くいかず、ボイド(空隙)が存在していることが推測できます。
固体NMRを用いた材料の分子構造解析
解説:核磁気共鳴(NMR)は、物質の構造を精密に調べることができる強力なツールです。NMRには、溶液NMRと固体NMRがありますが、溶解できない物質や膨潤できない物質(外部連携が可能な技術「難溶性物質の溶液NMRによる精密分子構造解析」参照)、溶媒等に触れさせることができない物質では、固体NMR測定が行われます。しかし、固体NMR装置は、溶液NMRと比較して普及率は高くありません。
 当研究グループでは、溶液と固体の切り替えですが、様々な固体NMRスペクトルが取得できるユニットを備えた、400MHzのNMR装置を設置しています。固体用の試料管は、Φ7mm、4mm、1.6mmがあり、パルスアンプも1kWの出力があります。測定できる核種も、有機物で一般的なプロトン(水素原子)、カーボン(炭素原子)以外に、無機物として、リン、アルミニウム、ケイ素など、様々な物質が測定できます。有機物と無機物の複合材料も、そのまま、それぞの核種で測定できます。NMRでは、分子構造以外に分子運動性も測定でき、複合化の状態やナノレベルでの混合状態の評価も可能です。
様々なサンプルの分光分析(赤外・ラマン)
解説:樹脂やゴム成形品などは、原料や製造条件、製造後の劣化等により表面成分の分子構造が変化する場合があります。その分子構造を評価する方法として、赤外分光法は、比較的装置が低価格でかつ感度も良い分析法です。薄いシート状のサンプルであれば、ホルダーにセットして、比較的簡単に測定できますが、立体物等では、粉末化しKBr(臭化カリウム)と均一に混合して、専用の器具で赤外分光分析用のペレットを作成する必要があり、手間がかかります。また、液体やペースト状のサンプルの測定では、媒体の影響を低減させるため、特殊な液体セルに封入するなどの操作必要です。これらサンプル調製は、適切に行わないと、意味あるデータが取得できなくなります。
 当研究グループでは、赤外分光分析装置(近赤外、中赤外)、赤外-ラマン分光分析装置(近赤外、中赤外、ラマン)を備えています。赤外分光分析では、ダイヤモンドATRユニットが付属しており、この方法では、測定部のダイヤモンドに対象サンプルを接触させるだけで、スペクトルが取得できます。サンプルは、固体、粉体、液体のいずれにも対応できます(屈折率等の問題から測定できないサンプルもあります)。また、ラマン分光法では、レーザー光線をサンプルに照射し、そこから発せられる微弱なラマン散乱光を用いることで、赤外分光分析と類似の評価ができます。ラマン分光法は、赤外分光法と比較して、水やガラスなどの影響が少ないため、含水サンプルやガラスサンプル管ごとの測定も可能です。ただし、赤外分光法に比べて、感度は低く、温度上昇や蛍光物質の影響は強く出ます。しかし、赤外分光法で調べることができない構造でもラマン分光法で調べられる構造もあります(その逆もあります)。そのため、両方のスペクトルを所得して比較・解析することで、より深い結果を得ることができます。