技術ポイント Q&A

ナノセルローススラリーを凍結させると凝集する
ナノセルロースの製造では水が必須であるため,得られたナノセルロースは大量の水分散状態で得られます。そのため,冷蔵庫などで保存する場合もよくあります。しかし,ナノセルローススラリーを凍結させてしまうと,解凍後にはナノセルロースは凝集してしまいます。冷蔵庫も内部の棚の位置によっては温度が0℃以下に下がっている場合もあるので注意が必要です。以上のことから,冷凍庫等での凍結保存も注意が必要です。
ナノセルロースを凍結乾燥しても凝集している場合がある
大量の水に分散したナノセルロースを乾燥しようとした場合,オーブン乾燥等を行うとナノセルロースが強度に凝集するため,凍結乾燥はよく行われる方法です。しかし,凍結乾燥も凝集抑制の点では十分ではありません。我々のグループの実験では,同一のナノセルロース試料を用いて,ナノセルローススラリーをそのまま凍結させて凍結乾燥した場合と,水をアルコール(t-ブタノール)に置換して凍結乾燥した場合とでは,凝集の程度に大きな違いが観察されました。凝集の程度はガス吸着による比表面積測定(BET法)によ評価しました。高分解能走査型電子顕微鏡(FE-SEM)で観察しても,凝集度合いの違いは確認できました。
比表面積
・水から凍結乾燥して得られた乾燥物:16m2/g
・t-ブタノールに置換して凍結乾燥して得られた乾燥物:174 m2/g
高純度ナノセルロースは水中でも凝集する場合がある
ナノセルロースは種々の植物系原料から製造することができますが,セルロース純度の高いパルプやコットン(リンター)等から製造したナノセルロースは,固形分が数%と周囲に大量に水があっても凝集する場合があります。セルロースは,元々,とても凝集しやすい物質です。一方,木粉や粗製パルプから製造したナノセルロース(リグノセルロースナノファイバー)は,ヘミセルロースやリグニンを含んでおり,これらが持っている官能基の静電的反発等により,凝集が抑制されています。しかし,ナノセルロースは凝集しやすいので,使う前に,超音波ホモジナイザー等で軽く処理することも,場合により効果があります。
再現性よくナノセルロースを作る。
ナノセルロースは,原料のパルプや木粉を水と混合して,機械的な処理により製造します。しかし,原料と水を混ぜてから,十分に時間をおかないとナノセルロースが得られなかったり,再現性が低下したりします。ナノセルロースの製造では,組織内部への水の浸透がとても重要です。古い原料(特に木粉等)は,空気中の水分の吸湿と乾燥が繰り返されており,これらが繰り返すことで組織は引き締まってきます。そうすると水が浸透しにくくなり,結果としてナノセルロースが効率的に得られなくなります。
 我々のグループでは,再現性よくナノセルロースを作るために,原料と水を混合して2~3日静置しています。原料によっては1週間以上静置した場合もあります。ただし,水とバイオマス試料(糖質成分が多い稲わらやバガス等)を混合して,長時間放置すると,その間に菌が繁殖するなどで腐敗する場合もあるので注意が必要です。
ナノセルロースとココア
本格的なココアの飲み物を作る場合,大量のお湯にココアの粉を投入してスプーン等で攪拌しても,ダマができて,きれいに分散できません。しかし,少量のお湯にココアの粉を入れてよく練ってから,お湯で薄めると,とてもいい具合にココアの飲み物ができます。
 ナノセルロースを何かに混ぜる場合も,ココアと同様に考えると上手くいく場合もあります。ナノセルロースを高濃度で何かと混ぜてから,別のモノで薄めるときれいにナノセルロースを分散できる場合があります。高濃度で混ぜたモノはマスターバッチと言われ,樹脂複合材等の分野ではよく行われる手法です。