LS-BT合同研究発表会

2024年度 ポスター賞

2024年度 ポスター賞受賞の皆様


2024年度LS-BT合同研究発表会のポスター賞受賞者は、以下の3名の皆様です。 大変おめでとうございます。 受賞にあたり、研究を始めるきっかけやご苦労等をインタビューさせて頂きました。

P033 メカニカルストレス介入による、運動の高血圧改善効果の再現とそれに基づく新規高血圧治療法の開発

Developing novel therapeutic strategies for hypertension by recapitulating the positive effects of exercise on blood pressure with mechanical intervention

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産総研健康医工学研究部門
運動生理学・バイオメカニクス研究グループ
﨑谷 直義 研究員

その研究を始めたきっかけと遂行のモチベーション

私のキャリアバックグランドのひとつに、理学療法というものがあります。 リハビリテーション専門職のひとつである理学療法は、運動や物理的刺激を用いて、患者さんの身体機能の回復を図る治療法です。 リハビリテーションの大きな柱のひとつである運動療法は多くの疾患の改善に有効であることが示されていますが、その一方で障害のある人などは運動したくても運動できないといったジレンマも存在します。 そこで、私は運動による健康増進効果の背景にある分子メカニズムを解明し、運動したくても運動できない人にも適応可能な運動効果模倣機器を開発したいと思い、研究に取り組んでいます。

その研究をどのように進めたか

歩行や走行時の足の着地により生じる地面からの反力は全身に伝播し、身体各所には力学的刺激が生じます。 この力学的刺激を介した恒常性維持は、骨格筋や骨・関節といった運動器では以前から示されていましたが、運動時には運動器以外の組織・臓器にも力学的刺激が生じるにも拘らず、その生理学的意義はほとんど検討されていませんでした。 そこで、運動時に頭部に生じる力学的刺激が、運動効果の背景で重要な役割を果たすという仮説をたて、運動時に頭部に生じる衝撃を再現する介入を独自に確立し、血圧測定という比較的単純な方法で評価可能であるものの、 死亡リスクファクター世界第1位という極めて重要な疾患である高血圧症にて、その仮説を検証しました。

これからどのように展開していくか

今回の研究では、実験動物だけでなくヒトでも頭部への力学的刺激介入が高血圧の改善に有効であることを明らかにできました。 今後は、頭部力学的刺激を利用した高血圧治療法の開発に取り組んでいきたいと思っています。 最終的には、運動したくても運動できない人にも適応可能な、力学的刺激を利用した運動効果模倣機器を開発し、全人類が運動効果の恩恵を受けられる社会の実現を目指していきたいと考えています。

一番大切にしていることや、研究をしていてうれしかったことやつらかったこと

大学院時代の指導教官から教えられ、座右の名としている「涓滴岩を穿う」の言葉のように、地道にコツコツと、実験動物に対して物理的な衝撃を加えていきたいと思います。 最終的には、社会に別の意味でのインパクト(衝撃)を与えられるような研究成果に結びつくことを願っています。  研究をしていて生データをみる瞬間はうれしい瞬間ですが、それ以外のほとんどが苦しいと感じます(あまり研究者には向いていないのかもれません…)。 今回の研究も、major revisionの知らせからacceptance in principleに至るまでに丸2年の時間を要し、なんとかアクセプトにこぎつけたものですが、アクセプトの知らせがあった際は、喜びよりも安堵の思いが圧倒的に強かったことを今でもはっきりと覚えています。

その他

今回の研究成果を一言で説明すると、「運動時に頭部に生じる衝撃が高血圧を改善する」といったものです。 この研究は、一見(一聞?)すると“ほんまかいな?”と思われる内容でありますが、様々な場所で、今回の研究成果をお話させて頂く機会がありますが、比較的に内容を受け入れていただけ(賞を頂けたということで、今回も受け入れて頂けたものと勝手に解釈しています)、2年間に及ぶリバイス実験に取り組んだ日々が決して無駄ではなかったなと、少し報われた気持ちになっています。

(2024年6月現在)