2026年度 ポスター賞受賞の皆様
2026年度LS-BT合同研究発表会のポスター賞受賞者は、以下の4名の皆様です。 大変おめでとうございます。
受賞にあたり、研究を始めるきっかけやご苦労等をインタビューさせて頂きました。
P001 ストレスによる血圧調節異常:実験動物からヒトへのマルチスケール検証
Stress-induced blood pressure dysregulation in rats and humans
産総研 セルフケア実装研究センター 生体・運動機能研究チーム/健康医工学研究部門 運動生理学・バイオメカニクス研究グループ 堀 天 研究員
現代は「ストレス社会」と言われることがあります。 実際に、本邦では強いストレスを感じている人の割合が過去20年間で約3倍に増加したとの調査結果もあります。 厄介なことに、ストレスは心血管疾患の発症リスクを高めることが報告されています。心血管疾患は本邦における主要な死因の一つであり、健康寿命の延伸を目指すうえで重要な課題です。 私はこれまで“循環調節”に関する研究に取り組んできたことから、ストレスによる心血管疾患発症リスク増大の機序に関心を持ち、本研究を開始しました。 私自身ストレスを感じやすい性格なので、他人事ではないという思いが大きなモチベーションとなっています。
運動時や身体活動(階段の昇り降りや荷物の運搬など)時には、血圧が上昇します。これは、運動・身体活動を維持するための不可欠な生理応答です。 しかし、運動時の血圧上昇が過剰になってしまうと、心血管疾患の発症リスクとなります。私は、ストレスによって運動時の血圧上昇が過剰になってしまうことが、ストレスによる心血管疾患発症リスク増大の一因となっているのではないかと考えました。 まず、ヒトを対象に、ストレス要因が多い環境に曝露される前後に運動時の血圧応答を測定したところ、運動時の血圧応答が増大することが示されました。 次に、実験動物を対象にストレスに対する運動時の血圧応答の増大の機序を検討したところ、活動筋の伸び縮みといった機械的な刺激によって血圧が増大する神経性の血圧調節機序が関与することが示されました。
今後は、ストレスによる運動時血圧応答増大の詳細な分子機序を解明するとともに、ストレスの種類の違いがその応答に及ぼす影響についても明らかにしたいと考えています。 また、ヒトを対象とした大規模研究を展開することで、ストレスによる運動時血圧応答の増大と心血管疾患発症との関連性を明確にし、その予測や早期発見につながる指標の確立を目指します。 さらに、誰もが安全に運動を実施できるような新たな評価法や介入法の開発も目標の一つです。
一番大切にしていることは、得られたデータを素直に受け止めることです。 自分の仮説や予想とは異なる結果も、失敗やエラー値と決めつけるのではなく、新たな現象や仕組みが存在している可能性を考察することの大切さを恩師から学びました。 そのためにも、自分の結果に自信を持てるように実験の質を高めることが重要だと痛感しています。研究をしていてうれしかったことは、自分が考えていた仮説を支持する結果が得られたときです。 一方で、丸一日かけてようやく一つのデータを取得する実験において、最後にトラブルが発生し、何の成果も得られなかった日の夜には、涙ぐむこともありました。 今ではそうした経験にも慣れつつあり、ストレス研究を続けるうちにストレス耐性が身についたのかもしれません。
私は今年度、産総研に入所しました。 新しい環境で不安もありましたが、グループの先輩方の人柄とサポートのおかげでストレスなく研究に取り組むことができており、恵まれた環境に感謝しています。 今後も、基礎研究と応用研究をつなぐ「橋渡し研究」を重視し、健康増進に貢献できる研究を進めていきたいと考えています(目指せ、全国民健康寿命100年時代)。 また、多様な分野の研究者との連携を通じて新しい視点を取り入れながら、研究をさらに発展させていきたいので、積極的な他分野研究者との共同研究を展開したいです。 最後に、「循環調節といえば堀天」と覚えていただけるよう、研究に励んでいきます。
(2026年6月現在)