2026年度 ポスター賞受賞の皆様
2026年度LS-BT合同研究発表会のポスター賞受賞者は、以下の4名の皆様です。 大変おめでとうございます。
受賞にあたり、研究を始めるきっかけやご苦労等をインタビューさせて頂きました。
P038 筋肉は、腱を酸化ストレスから保護する
Skeletal muscle contributes to a protective effect on cells via upregulation of antioxidant responses
産総研 セルフケア実装研究センター 生体・運動機能研究チーム/
健康医工学研究部門 運動生理学・バイオメカニクス研究グループ 土屋 吉史 主任研究員
この研究を始めたきっかけは、筋肉が単なる運動器ではなく、ホルモン様物質“マイオカイン”分泌を介して全身の臓器とコミュニケーションを図り、健康に寄与するという現象に魅力を感じたことです。 私はこれまで、損傷筋の再生機構に着目して研究を進めてきましたが、現在は、“マイオカイン”がもつ未踏の機能を解明することが研究のモチベーションとなっています。 特に、高齢者や疾患を有する方では高負荷運動が困難であるため、低負荷の新規介入法にてマイオカインを増加させ、運動器疾患の予防・改善に貢献していきたいと考えています。
私は筋肉と腱の多臓器間コミュニケーションに関心があり、最初に筋肉細胞と腱細胞を一緒に培養することで、腱細胞の存在により筋肉細胞の成熟が促進されることを確認しました。 さらに、ヒト腱細胞からオルガノイド(小さく作った人工的な腱)を作製し、運動模倣刺激を加えることで、腱からの分泌物が筋肉細胞の成熟を促すことを見出してきました。現在はその逆の研究として、マイオカインが治癒の遅い腱の組織再生に貢献するか否かの研究に没頭しております。 具体的には、受容体候補や細胞内シグナルの発現を細胞培養、三次元培養、伸展刺激、タンパク質解析等の多面的なアプローチにより、筋肉と腱の双方向のコミュニケーションを明らかにしようとしています。
今後は、筋肉が腱を障害からどのように保護しているのか、そのメカニズムをさらに詳しく明らかにしたいと考えています。
将来的には、これらの知見をもとに、腱障害、筋萎縮、骨粗鬆症などに対する新しい予防・改善法へ発展させたいです。
薬剤や細胞移植だけに頼るのではなく、運動、栄養、デバイス、リハビリテーションを組み合わせた、非侵襲で低コストな介入技術につなげることを目指しています。
研究で一番大切にしていることは、「誠実であること」です。データに対しても他者に対しても誠実であることが、きっと人の命を救う研究につながると信じて研究活動を行っています。 嬉しかったことは、患者さまからエールをいただいたことです。この喜びは、良いJournalへの掲載や助成金採択、学会賞の受賞で得られる喜びでは達し難いものであり、研究を続けていて本当に良かったと思えた出来事でした。 基礎研究はすぐに社会へ届くわけではありませんが、運動器疾患により生活の自由を失っている方や、思うように運動できない方にとって、将来の選択肢を増やす一歩になると信じています。 誰も取り組んでいない実験系の立ち上げには、条件が整わず何度も失敗を重ねることがありますが、その積み重ねが新しい発見につながると信じ、誠実に研究に取り組んでいきたいと思います。
私が取り組んでいる研究の特徴は、筋肉と腱を別々の組織として捉えるのではなく、互いに支え合うネットワークとして理解しようとしている点です。 筋肉が腱を保護し、腱が筋肉や骨の健康を支えるという考え方は、運動器研究に新しい視点を与える可能性があります。将来的には、腱を刺激するウェアラブル機器や、運動が難しい人にも実施しやすい介入法の開発につなげ、健康寿命の延伸や生活の質の向上に貢献したいと考えています。 基礎研究から社会実装までを見据え、産総研の研究環境を活かしながら、異分野の研究者や企業との連携も進めていきたいです。
(2026年6月現在)