LS-BT合同研究発表会

2025年度 ポスター賞

2025年度 ポスター賞受賞の皆様


2025年度LS-BT合同研究発表会のポスター賞受賞者は、以下の4名の皆様です。 大変おめでとうございます。
受賞にあたり、研究を始めるきっかけやご苦労等をインタビューさせて頂きました。

P95 伝統的製法から学ぶ品質の低下が穏やかになる清酒製造技術の開発

Development of sake brewing technology that reduces the deterioration of quality by learning from traditional methods

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茨城県産業技術イノベーションセンター 技術支援部  飛田 啓輔 主任研究員

その研究を始めたきっかけと遂行のモチベーション

私は、県内食品産業、その中でも清酒の業界支援に力を入れています。茨城県は35の酒蔵があり、関東屈指の酒どころとして知られています。 多くの方に、茨城県の清酒の美味しさを知ってもらうため、さらなる品質向上に向けて酒蔵と共に製造技術の研鑽に取り組んでいます。
一方、近年では海外での和食ブームを背景に清酒の輸出額は増加傾向にあります。 しかし、海外でインポーターとして活躍している知人から、海外で流通している清酒は酸化によって品質が低下していることを耳にしました。
そこで、海外でいつ飲んでも美味しく、茨城県産の清酒を楽しんでもらうため、令和元年度から清酒の酸化劣化を抑える製造技術の開発に乗り出しました。

その研究をどのように進めたか

まず、清酒には賞味期限というものが無いため、保存中に発生し“漬物臭”を示すジメチルトリスルフィド (DMTS) を酸化劣化の指標としました。 また、DMTSの生成を抑制するためには高い抗酸化能を有する清酒を製造する必要があるため、市販の清酒を買い集めて抗酸化能が高い清酒の特性を調べました。 その結果、乳酸菌による乳酸発酵を製造工程に取り入れる伝統的製法である“きもと造り”による清酒が抗酸化能に優れていることが分かりました。
しかし、“きもと造り”は蔵に住み着く野生の乳酸菌を利用する製法のため、酒造りの期間が長期化する傾向にあり、品質の安定化も困難でした。 そこで、“きもと”から抗酸化能に優れ、清酒製造に適した乳酸菌を選抜することにしました。
その結果、Leuconostoc mesenteroides 19-2を発見するに至ったのです。この乳酸菌株で仕込んだ清酒は、抗酸化能が高く、保存中のDMTSの生成が抑制されることが明らかになりました。

これからどのように展開していくか

発見した乳酸菌は、茨城県発祥で酒造りに特化した菌株であることから“ひたち酒乳酸菌TM”と命名しました。 さらに、令和6年度からは希望があった県内酒蔵に対して、契約締結の上で有償にて培養液の頒布を開始しました。 まだまだ採用例は少ないですが、既に、県内酒蔵において“ひたち酒乳酸菌TM”が酒造りに使われ始めており、採用された一部の清酒はアメリカなど海外へ輸出されるようになりました。
今後は、輸出に向けて積極的に取り組んでいる酒蔵を中心に、“ひたち酒乳酸菌TM”を多くの酒蔵に使ってもらえるように、酒造りの支援を通して啓蒙活動を行っていきたいです。

一番大切にしていることや、研究をしていてうれしかったことやつらかったこと

自分の仕事が世の中から必要とされる製品やサービスの創出に繋がることを心がけています。 日々、業務に追われながら研究に費やせるお金や時間を工面することは困難を極めますが、自分が開発に携わった技術やサービスが企業に採用され、企業の売上に貢献できた時はやりがいを感じています。
今春、“ひたち酒乳酸菌TM”を採用した清酒が、アメリカで即売したり、フランスで開催されたコンクールにおいて味が評価され、金賞を受賞したときは自分のことのように嬉しかったです。

その他

この度はLS-BT合同研究発表会において優秀ポスター発表賞という名誉ある賞に選出いただき、投票いただいた皆様に感謝申し上げます。
今回の受賞は、私自身のモチベーションの向上や今後の研究活動の励みにもなりました。
最後に、このような機会を頂き、主催者である産総研生命工学領域ならび産技連の皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。

(2025年6月現在)