2025年度 ポスター賞受賞の皆様
2025年度LS-BT合同研究発表会のポスター賞受賞者は、以下の4名の皆様です。 大変おめでとうございます。
受賞にあたり、研究を始めるきっかけやご苦労等をインタビューさせて頂きました。
P55 微生物資材が個々の土壌微生物に及ぼす作用を超並列的に評価するWater-in-oilドロップレット法の確立
Establishment of a method for massively parallel evaluation of the effect of a microbial inoculant on each soil microbe using water-in-oil droplet technology

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 小林 純怜 (学生)
学部生の頃に農業アルバイトをしていて、その経験の中でトマトのうどん粉病を納豆菌で処置しているのを目の当たりにしたことがきっかけとなり、農業をはじめとして産業を支える微生物の力に興味を抱くと共に微生物の研究に携わりたいと考えるようになりました。
特に、同じ微生物資材でも土壌ごとに効果や定着の度合いが異なるという話を農家の方から伺い、微生物資材と土壌微生物との関係性に興味を抱きました。
微生物資材と土壌微生物の関係性を調べたいという当初からの思いと、バイオアナリティカル研究グループで注力しているwater-in-oil (w/o)ドロップレット技術を掛け合わせ、ドロップレット技術を用いて微生物資材による影響を多様な土壌微生物に対して超並列的に解析する手法を確立することにしました。
自分の興味を研究に落とし込むのは楽しく、農業アルバイト時に目撃した現象の裏で実は起きていたかもしれない微生物間の相互作用を調べられるということで、モチベーションにつながっています。
微生物間相互作用を解析する手法の一つに微生物の共培養実験がありますが、微生物集団中の複数微生物種をまとめて一つの容器で培養するバルク培養では培養可能な微生物種が限定され、微生物多様性が失われることが課題です。 この課題を解決するには、土壌微生物集団の微生物多様性を維持したまま、複数の土壌微生物種と微生物資材を共培養する必要がありました。そこで、その実現のためにw/oドロップレット技術を活用しました。 w/oドロップレットとは油層中に分散する微小液滴で、微生物集団から数細胞ずつを各ドロップレット内に封入することで、微生物間の直接的な接触による増殖競合等を抑制でき、微生物多様性を維持したまま培養することが可能です。 ドロップレットに微生物資材と土壌微生物を封入して共培養することで、多様な土壌微生物種に対して網羅的に微生物資材による作用を評価することにしました。
ドロップレットによる微生物資材と土壌微生物の共培養では、バルク培養法では見出せなかった新たな土壌微生物種を評価対象にすることができました。
今後は新たに評価可能にした土壌微生物種に着目して、微生物資材との関係性をさらに深掘りしていく予定です。
また、ある微生物と微生物集団との関係性は、微生物資材と土壌微生物に限らず、プロバイオティクスと腸内微生物のように身の回りに溢れています。
今後は本手法を嫌気条件下でも実施し、ある微生物と微生物集団との関係性を幅広く解析可能な汎用性の高い手法にすることを目指します。
やりたいこと、調べてみたいことは何かということを意識的に振り返り、気になることはとりあえずやってみるようにしています。
まずは自分だったらどう調べるか自由に考えてみて、その上で、いざ実行に移すために必要な知識や技量の引き出しが自分には足りていないので、やりたいことと現状との差を埋めるために、研究グループの方々や先輩方に訊ねたり論文を調べたりするようにしています。
自分の持っている引き出しが少ないことを実感する日々ですが、時間を経た後に以前よくわからなかった結果についてあれはこういうことだったのかと解釈できるようになったときや、いただいたアドバイスの意味が理解できるようになったときに、少しは自分の引き出しを増やせているのかもしれないなと嬉しく感じます。
日頃からご指導をいただいている産総研職員の方々、研究グループの皆様、当日議論してくださった方々に深くお礼申し上げます。
引き続き色々な方とお話ししながら研究を深められたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
(2025年6月現在)