放射光単色軟X線標準(100~1000 eV)の光源は、電子蓄積リング(TERAS)に蓄積された光速に近い電子から放出されるシンクロトロン放射光を用いています。シンクロトロン放射光は、可視域からX線までの連続した光であり、斜入射分光器を用いて単色軟X線を得ています。放射光単色軟X線標準は、照射線量ではなく、単色軟X線の絶対強度標準として毎秒あたりの光子数(s-1)を単位としています。1 keV以下の軟X線は、空気による吸収が著しく、空気中で測定することができないため、すべて真空中で取り扱われています。
単色軟X線の絶対強度は、以前は図6に示すような希薄気体充填多段型電離箱で測定していました。この電離箱の中に、0.1 Pa程度の希ガスを充填しています。外側の電極は円筒型で、その軸をはずした位置から単色軟X線を入射させます。生じたイオンは、おおよそ対称の位置に設置した棒状の電極で捕集されます。集電極は6分割されていて、内側の4つ電極からの電流iを用いて、絶対強度Iを測定します。イオン電流と単色軟X線絶対強度の関係は、基本的には
のように表すことができます。ここで、eは電気素量、nは1個の光子の吸収によって最終的に生成される電子の個数、pは気体密度、σは断面積です。nの値は、圧力に依存しますが、圧力が低い場合には、光子を吸収したときに放出する電子が他の気体をイオン化させないので、一定値となります。このときの値は、気体が光子を吸収したときに放出する電子の平均値(γ値)として、当所で測定しており、その値を用いています。
このようにして実現できる放射光単色軟X線標準の不確かさは、5%程度と良くないです。そこで、現在は極低温カロリーメータを用いて、0.1~10 keVの標準を設定しています。極低温カロリーメータを図7に示します。液体ヘリウム温度に冷却されたキャビティに単色X線を入射させると、そのパワーによってキャビティは、温度上昇します。軟X線の入射を遮断するとともに、キャビティにつけられたヒータに電力を入力し、同じ温度になる電力を測定します。その電力が、軟X線のパワーに相当します。このように非常に単純な原理によって軟X線のパワーを計測が可能です。