自然放射線は、大地からの放射線、宇宙からの放射線、大気からの放射線、食物からの放射線に分類されます。このうち大地からの放射線は他のものよりも地域による差が大きいことが知られています[1]。大地からの放射線は、土壌に含まれるウラン、トリウム、カリウムに由来しているため、これらの元素の濃度によって推定することができます。この元素濃度データは産総研地質調査総合センターが公開している地質図Naviの地球化学図から得ることができます。本研究では最新の推奨データを用いて自然放射線マップを更新しました。さらに実測データとの比較により元素濃度データから推定される放射線の線量率の不確かさを推定しました。
地質図Naviで示している自然放射線量は大地からの放射線による地上1mの空気カーマ率(単位Gy/h)を示しています。空気カーマ率とはある地点の放射線の強さを表す量で、空気との相互作用の大きさに基づいて決定されます。大地からの放射線について、空気カーマ率の時間積分量である空気カーマと、シーベルト(Sv)の単位で表される周辺1cm線量当量との間には1 Gy=1.23 Svという関係があることが知られています[2]。
ウラン、トリウム、カリウムの濃度と空気カーマ率 の関係は、Beck[3]が初めて導出し、その後、湊[4]、三上ら[5]が再評価しました。改めてICRU Report 53[6]で報告されている値を用いてパラメータを評価すると以下の式が得られます。
Kair = 13.2 Ck + 5.71 CU + 2.45 CTh
ここでCk は%で表したカリウムの濃度、 CU と CThはppmで表したウラン、トリウムの濃度です。この手法で求めた空気カーマ率の不確かさは、実測値との比較によって推定したところ、相対拡張不確かさ(包含係数k=2)は50%程度であると考えられます。
参考文献
[1] Omori et al (2020) J. Radiol. Prot. 40 R99
[2] International Commission on Radiological Protection (ICRP) 2010 ICRP publication 116 Annals of the ICRP 40(2–5) (Amsterdam: Elsevier)
[3] Beck, H. L. (1972) : The physics of environmental gamma radiation fields. In, Adams, J. A. S., Lowder, W. M. and Gesell, T. F. eds. : The natural radiation environment II. U. S. Energy Research and Development Administration Report CONF-720805-p 2, 101-134.
[4] 湊 進(2006) 日本における地表γ線の線量率分布,地学雑誌,115, 87-95
[5]三上ら(2021) 可搬型ゲルマニウム半導体検出器を用いたin situ測定による福島第一原子力発電所から80 km圏内の土壌中天然放射性核種の空気カーマ率評価, 日本原子力学会和文論文誌, 20 159-178
[6] ICRU, Gamma-Ray Spectrometry in the environment, ICRU Report 53, Bethesda, USA(1994)