日本国内においてがんの治療のために導入している医療用小型リニアックの台数は700台を超えています(図1)。また、放射線治療を受けるがん患者は、毎年15万人に著しく増加しています。この理由として、放射線治療の技術が向上し、その成績もよくなっていることがあげられます。
治療用放射線の線量評価は、水吸収線量に基づいて行われます。水吸収線量は、放射線によって単位質量あたりの水に付与される平均エネルギー(J/kg = Gy)として定義されています。この水吸収線量は放射線治療計画を立てる上での基本となります。また、不確かさについては、喉頭がんの放射線治療の有効性のデータから、±5%以内にするように様々なガイドラインが提唱されています。
現在、水吸収線量率標準は、60Coのγ線を線源とした産総研の一次標準場から供給されています。一次標準場と治療現場における線質に違いがあるため、産総研から供給された水吸収線量校正定数を、線質変換係数により補正する必要があり、不確かさ要因となっています。そこで、新たに医療用の小型電子線加速器を導入し、実際の医療現場の線質に基づいた水吸収線量標準の確立を目指しています。
- LinacからのX線、電子線の線質評価
LinacからのX線及び電子線の線質の評価は、X線では水中の深さ20cmと10cmでの線量比、電子線では水中での線量分布を基に行われます。本加速器を線源に水吸収線量標準を開発する際、線質の評価は必要不可欠です。そこで、水ファントムを導入し、X線と電子線について、それぞれの線質評価を行いました。(図2, 3)
- 熱量制御システムのコンパクト化
グラファイトカロリーメータの制御用に複数の(交流)ブリッジ回路から成る温度の制御・計測システムが必要となります。Co-60のγ線の水吸収線量率標準用の制御系よりもコンパクトなシステムを開発しました。(図4)
- 熱量制御システムの性能評価
カロリーメータの測定法には、等温モードと準断熱モードの2種類があります。等温モードでは、コアの温度が常に(放射線の有無に関わらず)一定になるように、外部ヒーターの電力を調整し、電力の変化量から放射線のパワーを求めます(≒零位法)。準断熱モードは、コアが疑似的な断熱状態になるように、ジャケットとシールドの温度を制御し、放射線による温度上昇から放射線の線量を求めます。Co-60のγ線用のカロリーメータを用い、両モードで、60Coのγ線のパワーを測定し、良好な一致を確認しました。
2010年度NMIJ成果発表会より抜粋(2011年1月28日発表)