微生物生態工学研究グループ
研究内容

種間相互作用に基づく微生物新規機能の探索および適応進化動態の解析

 自然環境中の微生物は周囲の他の種類の微生物たちと互いに助け合ったり(協力関係)排除し合ったり(競合関係)しながら共存しています。このような異種との関係性(相互作用)は微生物の生き様を理解する上で重要なものですが、そのメカニズムについては未知の部分が多く残されています。我々は実験室内で複数の微生物を混合培養し、それぞれの種の生理や遺伝子発現プロファイル、適応進化動態などを単独存在時と比較解析することで、多種多様な種間相互作用の作用・応答機構を解明するとともに、相互作用によって誘導される新規微生物機能の探索を進めています。特に、病原菌の薬剤耐性化に関わる相互作用や被食ー捕食系における群集・進化動態を決定づける相互作用に注目して研究を進めており、耐性菌の出現・拡大の防除や生物群集の挙動の理解に向けた基盤的知見を得ることを目指しています。



未知・未利用の稀少微生物群の探索とその利活用

 環境微生物の多くは、今なお実験室内で容易に培養することができません。近年のDNA解析技術の発展により、未知・未利用微生物の“超”多様性が明らかになってきたものの、それら微生物の深遠なる機能的多様性についてはほとんど理解されていないのが現状です。私たちは伝統的な微生物培養法に代わる、あるいは併用できる革新的な微生物活用法の確立を目指します。また、未培養の微生物を豊富に含む特殊環境(砂漠・温泉や北極・南極など)に着目し、培養頻度のきわめて少ない稀少微生物群の実態と生理生態機能の解明を図り、バイオものづくりに資するシーズを構築します。そして、それら微生物の多目的利用を目指したプラットフォーム開発も視野に入れて研究を展開します。



持続可能な社会形成に向けた新規バイオテクノロジーの開発

 現在の一般的な生産プロセスでは、製造過程で発生する廃水や廃棄物を有効利用できておらず、大部分が燃焼や埋立、農作物への土壌還元が行われています。我々は複合微生物を活用した水処理システム、農作物栽培などの土壌水圏環境における微生物生態の解明を基盤とし、現在の生産プロセスを革新的な循環型生産プロセスに転換させ、世界的な環境問題や地域課題を解決するための持続可能な新規バイオテクノロジーの開発に関する研究を行っています。



土壌微生物の生態機能の発掘と深化

 我々が何の気なしに踏みしめている土壌には、地球上最も膨大な数と種類の微生物たちがひしめきあっています。目に見えないちっぽけな存在ですが、地球規模の物質循環や植物の成長促進に代表されるような自然生態系そして人間社会を支える極めて大きな役割を担っています。また、こうした土壌微生物の生態機能がコアとなって、環境保全や食糧増産をねらった産業技術が生み出されています。この一方で、そもそも土壌微生物の大部分は未解明であり、我々は土壌微生物の生態機能のほんの一部を垣間見ているに過ぎないとも考えられています。そんな最も身近だけど最も謎めく土壌微生物の生態機能について、これまでにない視点や様々な解析方法を駆使して理解を深め、そこから画期的な産業技術シーズを創出することを目指しています。近年の主な研究トピックは下記の通りです。

  • 土壌を肥やす新たな微生物基盤の解明
  • 微生物を介した土壌と動物の関係解明


研究対象たち: A, 水田. B, 土壌微生物. C, 斑点米カメムシ. D, メダカ.


微生物情報科学による生物圏エコシステムの理解による産業エコシステムの高度化

 上述したように私たちの研究グループでは、昆虫や魚類の腸管内、水田や畑地などの農地土壌、砂漠、極地環境、陸域地下圏、植物根圏、混合培養系、都市下水・産業廃水処理プロセスなど幅広い自然・人工環境を対象とした16S rRNA遺伝子情報に基づく菌叢解析やメタゲノム情報に基づく全遺伝子を網羅した代謝機能解析に関する知見とノウハウを有しており、それを活かして公的研究プロジェクトや民間企業との共同研究を推進しています。ゲノム解析や菌叢解析等の微生物情報科学により生物圏エコシステムを遺伝子レベルで理解することで、持続可能な循環型社会に適合する農水産物生産技術、廃水や廃棄物の効率的な処理や再利用技術、微生物の代謝機能や遺伝子資源をフル活用したバイオものづくり技術等の知的基盤を創出し、産業エコシステムの高度化に貢献することを目標としています。




植物・微生物の新規な相互作用や新機能に関する研究

 内閣府が策定したバイオ戦略における基盤的施策のひとつとして、「バイオ生産システム、工業・食料生産関連(生物機能を利用した生産)」が掲げられています。さらに、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)においても「持続可能な農業の促進」が掲げられており、化学農薬や化学肥料の使用量の削減に向けた研究開発が世界中で求められています。我々は、植物病害を抑制する機能を有する有用微生物、いわゆる「バイオコントロールエージェント:BCA」に着目し、従来の培養法による探索や植物体を用いた栽培実験に菌叢解析やゲノム解析といった生命情報科学アプローチを取り入れ、BCAを利活用した環境調和型の生物的防除技術を創出することでその実現を目指しています。



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