生物資源情報基盤研究グループ
研究内容

1.未知・未培養微生物ならびに未利用生物資源の探索、分類同定、ライブラリー化

 環境中に膨大かつ多様に存在する未知・未培養微生物の探索技術開発を通じて、従来法では培養の困難な多数の新規微生物の分離培養化に成功しています。また、取得した新規微生物資源を適切に管理保存し、新規微生物ライブラリーを構築するとともに、これまでに、新種48種、新属26属、新科9科、新目7目、新綱5綱、新門2門の学名提案を行い正式に認定されています(2013年5月現在)。特に、日本で初めて門レベルで(微生物の系統分類において実質的に最高階級にあたる)新規な細菌Gemmatimonas aurantiacaの純粋分離に成功し、新門Gemmatimonadetes門を提案・認定されている。また、2011年にも、新門 Armatimonadetes門を提案し、あわせてその基準菌株としてArmatimonas roseaを新属新種提案し、正式に認定されています。最近では、湖沼や河川、土壌、温泉等の高熱環境、堆肥、活性汚泥等に加えて、植物の根圏環境や深部地下圏環境を対象として、未知・未培養微生物の探索を精力的に進めています。

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2.微生物や高等生物を対象にした有用遺伝子資源の探索と機能解明、産業利用

 ライブラリー化した微生物の中から、系統学的に極めて新規性の高い菌株やユニークな機能を有する菌株について次世代シーケンサー等を利用したゲノム解析を実施し、遺伝情報の収集と有用な生物機能の発掘と解明を進めています。例えば、新門細菌Gemmatimonas aurantiaca、新綱細菌Anaerolinea thermophila、ポリリン酸蓄積細菌Microlunatus phosphovorusについてはゲノム解析を完了しており、現在、新たに新門細菌Armatimonas roseaを進めています。また、ダイオキシンやポリ塩化ビフェニル(PCB)など化学物質を分解する微生物や抗生物質に対する多剤耐性菌のゲノム解析に取り組んでいます。

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 また、微生物間の共生現象や情報伝達のメカニズムを解明する研究を進めています。生物は様々な情報伝達の手段を持っていますが、単純な生物である微生物においても 「Quorum Sensing」 と呼ばれる情報伝達機構が存在し、Quorum Sensingによる細胞間でのコミュニケーションを通じて、発光や色素・抗生物質の生産、病原性の発現、バイオフィルム形成など様々な微生物機能が制御されていることが明らかになってきました。私達は、Quorum Sensingにおいてシグナル分子として利用されるオートインデューサーの伝達を強力に阻害する新規微生物や新規酵素の発見に成功しています。また、未知のオートインデューサーを探索する研究を実施しており、微生物の挙動を制御する新たな技術の開発に取り組んでいます。

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 さらに、近年、微生物のみならず発光生物からの新規発光関連因子の探索にも挑戦を始めています。既にある程度の知見が蓄積している発光甲虫に加えて、新規発光現象を伴う未解明の海産発光生物からの発光関連因子探索にも力を入れており、実際に新規発光酵素の発見にも成功しています。これら発光関連因子はin vivo imagingなどの最先端技術への貢献が期待されています。

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 以上のように、未知・未培養微生物ならびに産業上有用な未利用生物資源の機能解明を行い、有用生物資源のライブラリー化と技術開発の提供を行っています。例えば、難培養微生物をソースとしている「新規微生物ライブラリー」や、有用遺伝子や酵素を網羅的に探索できる「メタゲノムライブラリー」、その他研究活動によって見出された「高付加価値な微生物や酵素、生理活性物質」等を活用して、民間企業や大学等と共同研究を実施し、新たなバイオ製品やバイオ技術の開発において成果を挙げています。

3.環境ゲノム解析技術(メタゲノム、メタトランスクリプトーム等)の開発と利用

 環境中に存在する 99 %以上の微生物は分離や培養が難しい微生物(難培養微生物)であることが知られています。そこで、微生物を分離・培養することなく、未知微生物集団の全核酸(全ゲノムならびに全RNA)から効率的かつ迅速に有用遺伝子情報を探索する新しい技術(メタゲノム・メタトランスクリプトーム)の開発を行っています。特に、再生可能エネルギーの利活用に役立つ酵素の探索や、健康産業への応用が期待できる遺伝子や酵素、生理活性物質の探索を行っています。これまでに、同手法を活用し、機能性の高い新規な各種産業用酵素やバイオマス糖化酵素、抗菌物質、色素を合成する有用遺伝子、微生物間の情報伝達機構に関わる伝達物質(オートインデューサー)等を発見してきています。

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4.全ゲノム操作技術の開発と利用

 近年、細菌のゲノムを丸ごと操作できる手法が開発されつつあります。本グループでは、この最先端技術を活用し、未培養微生物のゲノムを丸ごとクローニングする技術の開発と、そのゲノムを培養可能な微生物に丸ごと導入して未知生物機能を解明する研究に着手しています。これにより、従来では困難であった未培養微生物の遺伝子改変などへの展開も期待されます。

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5.クローン細胞集団における不均一性の包括的解明とその応用研究

 「同一の環境で増殖したクローン細胞集団は、均一な表現型を持った細胞の集団である」これが従来の微生物学の考え方でした。現在でも一般的な分子生物学実験ではこの理論に基づいて微生物を培養し、表現型を調べたり、核酸、酵素、タンパク質などの細胞成分を抽出して測定したりしています。しかし、この「クローン細胞集団は均一」という概念は、細胞という"生き物"を簡略的に捉え過ぎた非現実的な考え方であることが最近わかってきました。つまり、フラスコで培養した大腸菌も寒天培地上のコロニーも無数のクローン細胞集団からできていますが、そこから得られた実験データはあくまで集団の平均値を見ているにすぎず、詳細に観察すると個々の細胞レベルではその表現型に"ばらつき"が存在し、周りの細胞とはちょっと違った個性的な表現型を持った細胞が必ず存在しています。

 本グループでは、様々な細菌の表現型におけるこういった一細胞レベルの"個性"に着目し、"ばらつき"が生まれる分子メカニズムや、"ばらつき"がもたらす生理的・進化的意義を研究しています。また、産業微生物や病原菌を材料とし、表現型の"ばらつき"を利用・操作した新しい微生物育種法や創薬の開発に資する応用研究にも着手しています。

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6.環境制御・浄化や次世代エネルギー生産に資する微生物の生理学的・生態学的機能の解明と利用

 本グループが有する未知・未培養微生物の探索技術、環境ゲノム解析技術等を相互補完的に活用しながら、環境中に棲息する未利用微生物群の生態学的な解析と利用技術の開発を進めています。

 具体的には、未だ広く知られていない水生植物—根圏微生物間の共生系を新たに開拓するとともに、その共生的相互作用を活用して水生植物の機能を強化・増強し、新たな環境浄化技術(次世代植生浄化技術)や物質生産技術等のバイオプロセス開発を、所内外の研究機関(北海道大、山梨大、大阪大学等)と共同で進めています(JST-ALCA 先端的低炭素化技術開発プロジェクト等)。

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 また、大気成分の消費プロセスを担う環境微生物の新しい生態学的役割に着目した研究にも取り組んでいます。特に、水素社会の到来に伴って大気中に大量に放出される間接的温室効果ガスの水素を、森林や農地にて消費する植物共生微生物群の特定と生理生態機能の解明を進めています。将来の大気成分変動に対応する新しい環境工学技術の開発に資する科学的知見の提供を目指しています。

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 さらに、陸域地下圏における重要な物質循環プロセスに寄与する未知微生物群の開拓とその新生物機能の解明に関する研究も進めています。特に、産総研 地圏資源環境研究部門(地圏微生物研究グループ等)ならびに民間企業と有機的に連携しながら、深部油田環境において原油を分解してメタンを生成するプロセスを担う未知微生物群の特定とその新しい生理生態機能の解明を精力的に進めており、地下微生物機能を活用した新エネルギー創成技術の開発につながる基盤的知見の提供を目指しています。

 一方、微生物機能を利用した排水処理や環境浄化技術(バイオレメディエーション)の普及に向けた技術開発を進めています。例えば、従来のバイオレメディエーションをさらに効率化できる次世代型のバイオレメディエーション(バイオオーグメンテーション法)を利用した浄化技術の普及を目的とし、分解菌を環境へ導入した際の生態系へ与える影響を評価する手法の開発を進めています。また、環境中に生息する化学物質を分解する微生物の生理学的、遺伝学的および生態学的な特徴を解明する研究を精力的に進めています。これらの技術を事業者へ提供することで、バイオレメディエーションの普及と社会的受容性の向上を目指すことを目標としています。

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