生体分子工学研究グループ
研究内容

1-1 末端修飾用リンカー

 (1) 目 的
  遺伝子解析や核酸医薬には、核酸の固相表面上への固定化、機能性分子との結合などが必要になる。この化学修飾には、化学的に安定で汎用性が高いアミノリンカーが頻繁に用いられる。しかしながら従来のアミノリンカーは、逆相カラムによる簡便な精製が困難なばかりではなく、水溶液中での反応性も不十分であり、アミノ化オリゴの純度とコスト面で改善が必要であった。

図2

(2) 開 発
 我々は、アミノ基の近傍にカルバメート基を導入することによって、アミノ基のpKaや化学的性質が変化し、保護基であるMMT基が緩和な条件下で素早く脱保護されること、さらにアミノ基への化学修飾の効率が向上することを見出した。特にアミノ基とカルバメート基の間の距離が2炭素原子離れた構造(ssR-linker)で最も良好な結果が得られることを明らかにした。また最近では、オリゴヌクレオチドの3'末端の修飾に必要なリンカーも開発し、3'末端への化学修飾の効率を上げることに成功した。

図3

  1. Kojima, N., Sugino, M., Mikami, A., Nonaka, K., Fujinawa, Y., Muto, I., Matsubara, K., Ohtsuka, E. and Komatsu, Y. Enhanced reactivity of amino-modified oligonucleotides by insertion of aromatic residue. Bioorg. Med. Chem. Lett., 16, 5118-5121(2006).
  2. Komatsu, Y., Kojima, N., Sugino, M., Mikami, A., Nonaka, K., Fujinawa, Y., Sugimoto, T., Sato, K., Matsubara, K. and Ohtsuka, E. Novel amino linkers enabling efficient labeling and convenient purification of amino-modified oligonucleotides. Bioorg. Med. Chem., 16, 941-949 (2008).
  3. Kojima, N., Takebayashi, T., Mikami, A., Ohtsuka, E. and Komatsu, Y. Efficient synthesis of oligonucleotide conjugates on solid-support using an (aminoethoxycarbonyl)aminohexyl group for 5'-terminal modification. Bioorg. Med. Chem. Lett., 19, 2144-2147 (2009).
  4. 特許第4336820号(2007年)
  5. US Patent NO.7491857号(2008年)
  6. DE Patent No. 1908829 (2014年)

  7. (3) 実用化
    [ssH-linker]
    ssR-linker中で最も単純な構造である ssH-linker (R=H、水素原子)は、アミダイト試薬として国外の企業にライセンスされた。ssH-linkerを用いることによって、オリゴヌクレオチドのハイスループット精製と結合性能が向上する。そのため、同リンカーを用いたオリゴヌクレオチドは、マイクロアレイなどの遺伝子解析用プローブ、核酸医薬品における化学修飾など、幾つかの事業において利用されている。
    [3'-Amino-CA-linker]
    ssH-linkerとは異なる構造であるが、カルバメート構造を有するリンカーであり、オリゴヌクレオチドの3'末端の効率的な化学修飾に有効である。国内企業にライセンスされ、3'-amino-CA-linkerとしてオリゴヌクレオチドの受託合成に利用されている。

     
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    1-2 アルデヒド基反応性試薬(脱塩基部位の検出と2本鎖架橋化用リンカー)

    紫外線や放射線等の種々の環境因子によってDNAは損傷を受ける。代表的な遺伝子損傷の一つに、核酸の塩基部が糖より脱離した脱塩基部位(AP site)があり、その構造中にはアルデヒド基(-CHO)が含まれている。またアルデヒド基は損傷DNAのみではなく、RNAの末端や合成核酸中に発生させることも可能である。アルデヒド基は一般にアミノ基などの求核性基と反応するため、その反応は核酸の定量や化学修飾に利用されている。我々はアルデヒド基の広範な活用法に着目し、核酸中のアルデヒド基に対して高効率で反応する化学試薬の開発を行っている。

    (1) 開発
     これまでの開発から、アルデヒド基に反応するアミノオキシ基の近傍に芳香族基とグアニジノ基を導入した化合物は、塩基との疎水的相互作用と負電荷のリン酸ジエステル結合との静電的相互作用の相乗効果によって高い反応性を発揮することを明らかにした。この試薬を用いることによって、核酸中の損傷塩基の高感度検出が可能になると考えている。


    図3

     

    また、分子内に2つのアミノオキシ基を有する化合物は、2本鎖を効率的に架橋する活性を有することも確認した。この架橋化2本鎖構造では、塩基対の代わりに化合物がへリックス内部に挿入された構造を有し、2本鎖を高度に安定化することが可能である。そこで、架橋化された2本鎖構造を、電極上における酵素反応の足場や、核酸の検出用プローブとしての利用を目指した研究を現在進めている。


     



    1. Kojima, N., Takebayashi, T., Mikami, A., Ohtsuka, E. and Komatsu, Y. Construction of highly reactive probes for abasic site detection by introduction of an aromatic and a guanidine residue into an aminooxy group. J. Am. Chem. Soc., 131,13208-13209(2009).
    2. Kojima, N. and Komatsu, Y. Hydroxylamine, Oxime and Hydroxamic Acid Derivatives of Nucleic Acids. The Chemistry of Hydroxylamines, Oximes and Hydroxamic Acids, .,Vol 2, 807-851, WILEY (2010).
    3. Mie, Y., Kojima, N., Kowata, K. and Komatsu, Y. End-tether Structure of DNA Alters Electron-transfer Pathway of Redox-labeled Oligo-DNA Duplex at Electrode Surface. Chem. Letters, 41, 62-64 (2012).
    4. Ichikawa, K., Kojima, N., Hirano, Y., Takebayashi, T., Kowata, K. and Komatsu, Y. Interstrand cross-link of DNA by covalently linking a pair of abasic sites. Chem. Commun., 48, 2143-2145 (2012).
    5. Mie, Y., Kowata, K., Kojima, N. and Komatsu, Y. Electrochemical properties of interstrand cross-linked DNA duplexes labeled with Nile blue. Langmuir, 28, 17211-17216 (2012)

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