非連続的な技術革新となる量子コンピューティングに関する基盤技術の開発、大幅な超低消費電力化、高速化を実現する集積デバイス技術等に関する技術開発を進めています。また、それらの新デバイスの設計、性能予測のためのシミュレーション技術の開発も進めています。本チームは未踏デバイス試作共用ライン(COLOMODE)の運営をしており、上記の革新的なデバイスはCOLOMODEを利用して作製しています。
量子コンピュータは、交通・物流の最適化、材料特性の予測などの問題を高速に解ける次世代コンピュータとして注目されています。当チームでは、実用的な量子コンピュータハードウェアの有力候補の一つである半導体量子コンピュータの研究を進めています。シリコンベースの量子コンピュータは10億個以上の素子集積を実現している成熟した半導体製造技術が利用可能であるという利点があります。COLOMODEを利用し、量子ビット素子の製造や素子加工に必要なプロセス技術の開発を進めています。さらに、素子設計のために必要となる量子デバイスシミュレータの開発と、それを活用した集積構造提案・設計も行っています。
希釈冷凍機内で動作する量子コンピュータの大規模集積化を実現するためには、量子ビット素子の制御・読み出しに特化した半導体集積回路を冷凍機内に格納させる必要があります。このような極低温動作に対応した半導体回路製造に関する技術は、「クライオCMOS技術」と呼ばれています。当チームでは、極低温下で動作する電流計測回路の実証や各種デバイス物理の解明を通して、回路・デバイス技術の両面からクライオCMOS技術の研究開発を進めています。
近年、微細化によるMOSFETの高性能化と低消費電力化が限界を迎えつつあります。そのため、従来と異なる動作原理を利用し、MOSFETよりも小さな入力電圧でオフからオンへスイッチングすることができる「急峻スイッチング素子」の開発が注目を集めています。当チームでは、急峻スイッチング素子の代表候補であるトンネル電界効果トランジスタ(TFET)の研究を進めています。ナノメートルオーダーの半導体素子に加工した際の材料の特徴を正しく見極め、制御しながら、実用化に繋げられるような高性能なTFETの開発に挑戦しています。
未踏デバイス試作共用ラインCOLOMODE(Communal Fabrication Line for Outstanding Modern Devices; コロモデ)は、当チームが主体となって運営しています。COLOMODEにはシリコン半導体デバイス作製に必要な成膜・エッチング・リソグラフィなどのプロセス装置が一通り揃っており、この施設内で素子作製を完結させることができます。COLOMODEの装置は全て4インチウエハに対応しており、4インチウエハ面内やウエハ間のばらつきが極めて小さく、安定したプロセスを次々と高速に実行することができます。リソグラフィについてはマスクレス露光装置と電子線描画装置を併用しているのも特徴です。マスク(パターンの原板)を作ること無く研究者の描いたレイアウトのデジタルデータを直接インプットすることができ、大きなパターン(umオーダー以上)から小さなパターン(30nm~umオーダー)まで対応可能です。
外部公開サイト:産総研COLOMODE 未踏デバイス試作共用ライン (aist.go.jp)
シリコン量子ビットやクライオCMOSの研究開発には、極低温の測定環境が必要となります。当グループでは、半導体デバイスの極低温評価に特化した国内有数の測定設備を管理・運用しています。絶対零度に近い15ミリケルビンの測定温度を作り出すことができる希釈冷凍機に加え、計5台の冷凍機を管理しています。また、測定装置として計5台の半導体デバイスパラメータアナライザとノイズ測定装置を導入しています。
また、室温および極低温で測定可能なウエハスケール評価装置も保有しています。300 mmウエハ極低温オートプローバにより、従来困難であった極低温での高速・大量測定が可能です。同装置はアジアでは産総研に初めて導入されたもので、これまでに公表されている中では米・インテル社、仏・電子情報技術研究所(Leti)に次ぐ世界で3台目の装置です。