衛星プロジェクト
プロジェクトの概要
本プロジェクトでは地球環境変化の定量的把握のために、衛星データの活用を行っています。
1.高品質なオープンフリー基盤衛星情報の提供
ASTER (Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer)は、経済産業省が開発した地球観測センサです。
米国国家航空宇宙局(NASA)の地球観測衛星TERRAに搭載され、1999年12月から観測が始まり、現在(2023年11月時点)も運用が続いています。
産総研GSJではNASAと共同でASTERの運用を行い、得られた衛星データの処理、高次利用、および多面的な校正検証活動による徹底した品質管理を行っています。
そして、オープンフリー基盤データ「ASTER-VA」として提供しています。
当該データは長期的な地球環境観測・資源探査等の目的で様々なユーザーが無償で活用できるほか、小型衛星ベンチャーや航測会社をはじめとする
国内企業が衛星・宇宙ビジネスを展開するうえで、相互比較可能な高品質のレファレンスデータとしても活用が期待されます。
さらに宇宙ビジネスの基盤整備および地球環境変化の継続的把握を目指して、ASTERを使った様々な付加価値データも無償公開しています:
- 全世界の活火山の時系列衛星画像を提供する火山衛星画像データベース
- 森林火災や活火山の溶岩などを監視するASTER高温領域検出システム
- 海面水位が上昇した場合の浸水域を閲覧できる海面上昇シミュレーションシステム
2.衛星画像と地質データの活用による環境・防災への貢献
衛星画像と地質・地理データの統合解析から、新しい付加価値情報を抽出し、環境・防災に貢献します。例えば、陸域における植生の変動や沿岸域における 海水温に関するデータなどを衛星から整備し、生態系に関わる現地の情報と組み合わせることで、持続可能な陸域/沿岸域資源の維持·活用に結びつけます。 また、国内の斜面災害の発生個所の抽出、衛星・地質データの統合解析による斜面災害の素因推定、災害発生時の緊急対応として衛星画像の整備や初期解析などの 研究も行っています。
これらの研究にあたっては、衛星データの解析だけでなく、分光測定器(FieldSpec)やドローン搭載ハイパースペクトルカメラを用いた現地スペクトル測定も 実施することで、衛星データの現場検証や、複数スケールの事象の結びつけを行っています(図2-1)。また、室内実験により多様な岩石・土壌等の スペクトルライブラリーを整備し、衛星データの解釈や検証に役立てています(図2−2)。このように、リモートセンシングに関わる様々な研究手法を網羅的に 組み合わせることで、衛星データのさらなる高度利用化と、それらを通じた衛星データや地質データの利活用促進を目指しています。
解析事例の紹介(防災)
図3は、2022年8月3日発生した、新潟県村上市周辺で発生した斜面崩壊地周辺の衛星画像前後比較と地質を比較したものです。 図3上段のASTER画像の黄色で囲った範囲では植生が消滅した小さなパッチが多数確認でき、これらの場所では斜面崩壊が発生したと考えられます。 また、図3下段Sentinel-1(合成開口レーダ)画像の水色で囲った範囲は後方散乱強度が大きく低下していることから、2022年8月4日時点で河川氾濫等により 湛水状態であった可能性が高く、その影響が上段ASTER観測時点(2022年8月8日)でも水色で囲った範囲で一部残っているものと考えられます。
黄色で囲った範囲は斜面崩壊、水色で囲った範囲は氾濫が生じていた可能性が高い。
ASTERはR: 近赤外バンド、G: 赤バンド、B: 緑バンド、
Sentinel- 1はR: VV偏波、G: VH偏波、
B: VV/VHでそれぞれコンポジットし、輝度強調処理して表示。
解析事例の紹介(環境)
図4-1は衛星データをもとにした沖縄県瀬底島周辺での可視画像および熱赤外画像をもとにした温度分布データです。 平均からの温度の上昇領域がどこであるかを把握しサンゴ白化現象を評価するための基礎データとなります。
これらのデータと、現地での検証データやサンゴを含む生物多様性に関わる遺伝子解析との統合解析を通じて、環境保全に貢献します(図4-2)。