LS-BT2026 Symposium Session2 (6月18日)
「動き出す、次世代バイオものづくり
― 合成生物学が導く新展開 ―」
合成生物学の急速な発展に伴い、バイオものづくり技術は持続可能な産業構造を支える基盤技術として大きな期待が寄せられています。本セッションでは、社会実装に向けた政策動向や課題についての議論に加え、この分野を牽引する外部専門家による講演や、生命工学領域が有する多様な先端技術をバイオものづくりの新展開に結びつける取組みを紹介し、今後の発展の可能性を幅広く展望します。
Session2 動き出す、次世代バイオものづくり ― 合成生物学が導く新展開 ―
座長:産総研 生命工学領域 副領域長 戸井 基道

13:00-13:05
産総研 生命工学領域 副領域長 戸井 基道
13:05-13:25 (オンライン予定)
バイオものづくりによる持続可能な産業構造への転換
(社会実装に向けた課題と政策の方向性)
(社会実装に向けた課題と政策の方向性)
Transitioning to a Sustainable Industrial Structure through Bio-Manufacturing: Challenges and Policy Directions for Social Implementation
経済産業省 生物化学産業課 課長補佐 中山 真

バイオものづくりを我が国の次世代成長産業として社会に適合させていくため、その必要性、課題および政策対応の方向性について概況します。バイオものづくりは、微生物や細胞の機能、遺伝子・ゲノム技術を活用し、化石資源に依存せずに素材、燃料等を生産する技術であり、脱炭素、資源自律、経済安全保障と経済成長を両立し得る点に大きな意義があります。近年、AI・IT技術、ゲノム編集、DNA合成の進展により「スマートセル」の設計・活用が可能となり、国際的にも巨大な市場拡大が見込まれています。一方で、生産コストの高さ、原料の安定供給、需要創出、サプライチェーン構築、人材・設備不足、規制対応といった課題も顕在化しています。
政府はGI基金やバイオものづくり革命推進事業を通じ、高付加価値分野から汎用分野へと段階的な社会実装を支援するとともに、標準化、LCA整備、国際連携を進めており、官民一体でバイオエコノミーの確立を目指しています。
13:25-13:55
超並列タンパク質プロトタイピングデバイス技術に関する展望
Prospects for Ultra-Parallel Protein Prototyping Devices
東京大学 教授 野地 博行

タンパク質は酵素、抗体、情報変換、エネルギー変換など多様な機能を担う重要な生体分子であり、バイオ産業や医薬分野において中心的役割を果たしています。一方で、タンパク質配列空間は極めて広大であり、目的機能を持つ配列を効率的に探索することは容易ではありません。近年、in silico設計技術が急速に発展していますが、触媒機能や複雑な構造変化を伴うタンパク質の完全設計は依然として困難であり、多数の候補配列を実際に試作・評価する「タンパク質プロトタイピング」が重要となっています。
本講演では、筆者らが開発を進めている超並列タンパク質プロトタイピング技術について紹介します。特に、多種類のオリゴDNAを液滴中で並列連結するDNAアセンブリ技術と、フェムトリットルスケールの微小リアクタを用いたデジタル遺伝子発現・デジタルバイオ分析技術を統合した「たんぱくプリンタ」構想について議論します。本技術では、極小リアクタ内にDNAを一分子レベルで封入し、無細胞遺伝子発現系を用いてタンパク質を合成・評価することで、従来困難であった超並列かつ高精度な機能解析を可能にします。さらに、将来的には質量分析や遺伝子回路型センサーとの統合により、多様なタンパク質機能の高速スクリーニング基盤へ発展することが期待されます。
本技術が実現すれば、膨大なタンパク質機能データを効率的に取得可能となり、in silico設計技術との融合によって、タンパク質設計学を新たな段階へ押し上げることが期待されます。
本講演では、筆者らが開発を進めている超並列タンパク質プロトタイピング技術について紹介します。特に、多種類のオリゴDNAを液滴中で並列連結するDNAアセンブリ技術と、フェムトリットルスケールの微小リアクタを用いたデジタル遺伝子発現・デジタルバイオ分析技術を統合した「たんぱくプリンタ」構想について議論します。本技術では、極小リアクタ内にDNAを一分子レベルで封入し、無細胞遺伝子発現系を用いてタンパク質を合成・評価することで、従来困難であった超並列かつ高精度な機能解析を可能にします。さらに、将来的には質量分析や遺伝子回路型センサーとの統合により、多様なタンパク質機能の高速スクリーニング基盤へ発展することが期待されます。
本技術が実現すれば、膨大なタンパク質機能データを効率的に取得可能となり、in silico設計技術との融合によって、タンパク質設計学を新たな段階へ押し上げることが期待されます。
休憩
14:05-14:35
細胞が生きるための制約から自由になるセルフリーテクノロジー
Cell-Free Technology: Freedom from the Constraints of Cellular Life
早稲田大学 教授 木賀 大介

生命も、生きてはいない物質も、物理化学の法則にしたがって動作している。前世紀後半に著しく発展した分子生物学、生化学、生物物理学の立場からは、この認識を基盤として生命を理解することになります。この考え方に基づけば、生命を構成する個々の物質は、細胞の中だけでなく、試験管内でも動作するはずです。また、これらの物質を複数組み合わせることで成立している細胞内反応、すなわち転写・翻訳・代謝といった細胞の部分機能も、試験管内で再現できるはずです。無細胞系、すなわちセルフリーテクノロジーの拠って立つところは、まさにこの点にあります。
一方で、細胞が生きるためには、多様な細胞機能を細胞内で協調的に働かせる必要があります。個体を構成する細胞であれば、他の生命システムとの相互作用も求められます。これに対して無細胞系では、特定の機能だけに特化した反応系を設計することができ、反応条件を設定する自由度も大きくなります。特に近年では、計算機を用いた条件探索や実験自動化が高度化し、膨大な反応条件の候補の中から、有用な条件を効率的に導くことも可能になっています。バイオものづくりにおけるセルフリー技術の適用でも、ハイブリッド系を含め、生体内では達成しにくい反応を取り込む試みが広がっています。
この高い自由度を活かした例の一つが、分子レベルの育種です。多数の個体の中から優れた変異体を選抜する従来の育種では、微生物を単位とした場合でも、一度に扱える個体数に限界がありました。これに対して、細胞膜という区切りを外すことで、1012~15規模のバリエーションから探索できる進化分子工学が発展しました。さらに、有用な情報を持つ配列どうしの組換えについても、試験管内の反応系を設計することで、より高効率なライブラリ構築が可能になりました。配列の組換えによるライブラリ構築については、試験管内反応とAIによるデザインとの相補性の活用が重要です。 生きるための制約を外した状態で試作、すなわちプロトタイピングを行えた例として、遺伝暗号の改変も挙げられます。生物が生きるためには、遺伝子配列が高い正確性でタンパク質のアミノ酸配列へと変換される必要があります。しかし、遺伝暗号を改変する過程では、完成に至る前の試作段階からそのような高い正確性を期待することはできません。試験管内のタンパク質合成系であれば、試作段階で細胞が生きる必要がないため、改変が途中段階であってもデータを取得できます。そして、そのデータをもとにさらなる改変を進めることができます。このような試作の繰り返しによって得られた有用な「部品」を生きた細胞に導入することで、生体内での遺伝暗号改変も可能になりました。
本講演では、生体高分子をボトムアップ的に組み合わせる再構成系と、細胞抽出液を用いた系のそれぞれの強みに触れます。そのうえで、細胞が生きるための制約から自由になるセルフリーテクノロジーの全体像と将来像について、皆様と議論させていただければと存じます。
一方で、細胞が生きるためには、多様な細胞機能を細胞内で協調的に働かせる必要があります。個体を構成する細胞であれば、他の生命システムとの相互作用も求められます。これに対して無細胞系では、特定の機能だけに特化した反応系を設計することができ、反応条件を設定する自由度も大きくなります。特に近年では、計算機を用いた条件探索や実験自動化が高度化し、膨大な反応条件の候補の中から、有用な条件を効率的に導くことも可能になっています。バイオものづくりにおけるセルフリー技術の適用でも、ハイブリッド系を含め、生体内では達成しにくい反応を取り込む試みが広がっています。
この高い自由度を活かした例の一つが、分子レベルの育種です。多数の個体の中から優れた変異体を選抜する従来の育種では、微生物を単位とした場合でも、一度に扱える個体数に限界がありました。これに対して、細胞膜という区切りを外すことで、1012~15規模のバリエーションから探索できる進化分子工学が発展しました。さらに、有用な情報を持つ配列どうしの組換えについても、試験管内の反応系を設計することで、より高効率なライブラリ構築が可能になりました。配列の組換えによるライブラリ構築については、試験管内反応とAIによるデザインとの相補性の活用が重要です。 生きるための制約を外した状態で試作、すなわちプロトタイピングを行えた例として、遺伝暗号の改変も挙げられます。生物が生きるためには、遺伝子配列が高い正確性でタンパク質のアミノ酸配列へと変換される必要があります。しかし、遺伝暗号を改変する過程では、完成に至る前の試作段階からそのような高い正確性を期待することはできません。試験管内のタンパク質合成系であれば、試作段階で細胞が生きる必要がないため、改変が途中段階であってもデータを取得できます。そして、そのデータをもとにさらなる改変を進めることができます。このような試作の繰り返しによって得られた有用な「部品」を生きた細胞に導入することで、生体内での遺伝暗号改変も可能になりました。
本講演では、生体高分子をボトムアップ的に組み合わせる再構成系と、細胞抽出液を用いた系のそれぞれの強みに触れます。そのうえで、細胞が生きるための制約から自由になるセルフリーテクノロジーの全体像と将来像について、皆様と議論させていただければと存じます。
14:35-15:00
多段階ものづくり反応を最適化するひとつの試み
ーオミクス研究者がものづくりに貢献できることー
ーオミクス研究者がものづくりに貢献できることー
産総研 細胞分子工学研究部門 首席研究員 久野 敦

空間オミクスは、組織・細胞内における分子の局在や状態を空間情報とともに捉えることを可能にする研究領域であり、より深く分子状態を理解するために、先進質量分析、AI、自動化技術を融合した技術プラットフォームの構築が進められている。我々はこれまで、タンパク質の翻訳後修飾状態をも可視化する空間糖鎖関連オミクスに着目し、その解析に特化したプラットフォーム技術を開発する中で、質量分析ベースのオミクス解析に必要な前処理技術として、複雑な生体試料から目的分子種を選択的に取り扱い、計測へ接続するための自動前処理技術を開発してきた。この前処理工程には、分子の捕捉、濃縮、洗浄、溶出に加え、酵素消化や化学修飾などの反応操作も含まれる。すなわち、本生体試料自動前処理技術は、分析の高効率化、再現性向上、高感度化を支える基盤技術であると同時に、反応、分離、回収、計測接続を小スケールで連続的に反応操作を行う自動反応制御技術としても活用し得る。そこで本研究では、当該技術を分析前処理にとどめず、酵素反応やセルフリー反応を制御する小型反応場として利用する可能性を検討した。基礎的なフィージビリティスタディとして、自動前処理技術を用いた系に酵素反応を導入し、その反応成立性を評価した。その結果、オミクス解析のために開発してきた自動前処理技術が、反応場設計にも応用可能であることを示唆する結果が得られた。これらの結果を踏まえ、オミクス研究で培われた自動前処理、反応制御、分離・濃縮、迅速計測の技術が、バイオものづくりにおける多段階反応の工程制御や条件探索にどのように貢献し得るかを議論する。さらに、今後の展望として、自動化された反応操作と計測データを活用した情報解析、データ駆動型の反応条件探索への展開可能性について考察する。
15:00-15:25
植物培養細胞を利用したデザイン駆動のバイオものづくり基盤
Non-GMO Plant Culture Cells for Design-Driven Biomanufacturing
産総研 モレキュラーバイオシステム研究部門 研究グループ長 加藤 義雄

生物システムを用いた物質生産は、化学合成に比べて環境調和性およびエネルギー効率に優れ、医薬品や機能性素材の分野においてその重要性が高まっている。しかし、従来の遺伝子組換え生物(GMO)に依存した生産系は、封じ込め設備に伴う高コストや環境漏洩リスク、社会的受容性に加え、宿主毒性・抗菌性分子など「宿主に負担の大きい産物」の生産が困難であるという技術的制約を抱えている。これらの課題を克服するためには、既存の宿主および規制枠組みに依存しない新たな生産プラットフォームが求められている。
我々はこの課題を一挙に解決しうる生産系として、植物培養細胞に着目している。植物培養細胞は、個体植物とは異なる代謝・増殖特性を示し、低コスト培地の利用や高容積率培養といった生産上の利点を備える一方で、産業利用の観点からは十分に活用されてこなかった。その主因の一つが、遺伝子や機能性分子の導入効率の低さであり、設計・構築・評価・学習(DBTL)サイクルが十分に回っていなかった。我々は、植物培養細胞における遺伝子導入、タンパク質導入、ならびに標的ゲノム改変を実現し、遺伝子配列設計段階からの並列評価を可能とする基盤技術を確立してきた。さらに、植物特有の代謝経路に適合した発現制御法を組み合わせることで、配列最適化および代謝設計の効率化を進めている。これらの技術により、従来の生物種・細胞系では到達が困難であった設計空間を、植物培養細胞という宿主で探索可能になりつつある。
本講演では、植物培養細胞を設計可能な宿主として位置付け、その技術的基盤と現状の課題を整理するとともに、今後の技術展開について紹介する。あわせて、セルフリー進化工学との接続可能性にも触れ、細胞系と非細胞系を横断したハイブリッド型バイオ技術の枠組みを提示する。
我々はこの課題を一挙に解決しうる生産系として、植物培養細胞に着目している。植物培養細胞は、個体植物とは異なる代謝・増殖特性を示し、低コスト培地の利用や高容積率培養といった生産上の利点を備える一方で、産業利用の観点からは十分に活用されてこなかった。その主因の一つが、遺伝子や機能性分子の導入効率の低さであり、設計・構築・評価・学習(DBTL)サイクルが十分に回っていなかった。我々は、植物培養細胞における遺伝子導入、タンパク質導入、ならびに標的ゲノム改変を実現し、遺伝子配列設計段階からの並列評価を可能とする基盤技術を確立してきた。さらに、植物特有の代謝経路に適合した発現制御法を組み合わせることで、配列最適化および代謝設計の効率化を進めている。これらの技術により、従来の生物種・細胞系では到達が困難であった設計空間を、植物培養細胞という宿主で探索可能になりつつある。
本講演では、植物培養細胞を設計可能な宿主として位置付け、その技術的基盤と現状の課題を整理するとともに、今後の技術展開について紹介する。あわせて、セルフリー進化工学との接続可能性にも触れ、細胞系と非細胞系を横断したハイブリッド型バイオ技術の枠組みを提示する。