<平成19年(2007年)能登半島地震情報

2007年能登半島地震の破壊過程(第二報)

文責:堀川晴央(地震災害予測研究チーム)

はじめに:前回との変更点

3月29日付でお知らせした震源モデルに対して検討を加え,第二報として報告する.解析にあたって,前回と変更した点は以下のとおりである.

  • 震源の位置を防災科学技術研究所の自動震源決定で得られたものから,気象庁の一元化震源のものに変更した.
    これにより,震源が東南東へ数キロ移動した.
  • 余震分布の震源データも気象庁の一元化震源に変更して断層の位置を再検討し,断層の位置を変えた.
  • 横ずれ成分を前回よりも多くなるすべり角を仮定した.但し,逆断層成分の方が優勢である点は変わらない.具体的には,USGSで求められたモーメントテンソル解のすべり角(117度)から,防災科学技術研究所のF-Netによるモーメントテンソル解のすべり角(132度)に変更した.

 

第一報及び今回(第二報)で仮定した震央及び断層面を地表に投影したものを図1に示す.

第一報のモデル

図1:仮定した破壊開始点と断層の位置の違い.

図1:仮定した破壊開始点と断層の位置の違い.

第一報で仮定したものを青で,今回(第二報)仮定したものを赤で示す.

 

データ

解析に使用した強震記録は,(独)防災科学技術研究所のK-NET及びKiK-netで収録されたものである.観測点分布を図2に示す.現時点では,能登半島地震の震源域の地下構造に関する情報は多くはない.そこで,速度構造が実際のものとずれていることによる影響を小さくするため,震央距離が小さい(40 km以下)観測点のみを使用した.

加速度の原記録に0.1-1 Hzのバンドパスフィルターを通した後,数値積分を2度行い,変位波形としたものを解析用のデータとした.

 

図2:破壊過程の推定に使用した観測点の位置(▼).仮定した断層の位置を矩形で示す.但し,上縁のみ実線で表記.能登半島地震の本震の震央(★)と余震の震央(灰色の○)も併せて示す.左の図は本震発生後1時間以内,右の図は24時間以内に発生した余震(M≧2.5)を表示.

図2:破壊過程の推定に使用した観測点の位置(▼).仮定した断層の位置を矩形で示す.但し,上縁のみ実線で表記.能登半島地震の本震の震央(★)と余震の震央(灰色の○)も併せて示す.左の図は本震発生後1時間以内,右の図は24時間以内に発生した余震(M≧2.5)を表示.

 

解析

理論波形は,水平成層構造を仮定し,reflectivity法(武尾, 1985)により合成した.仮定した速度構造は,京都大学防災研究所地震予知研究センターの北陸地震観測所において,微小地震の震源決定に使用しているP波速度構造を元にしている.S波速度は,P波速度とS波速度との比が1.73であるとして計算した.

波形解析には,Yoshida and Koketsu(1990)で提唱された手法と同様に,断層をいくつかの小断層に分割し,各小断層ごとのすべり量と破壊開始時刻を同時に求める非線形波形インバージョン法を使用した.

気象庁の一元化震源による震源位置を破壊開始点として仮定した.深さは約11 kmである.本震発生後1時間以内の余震分布(図2左)を参考に,断層の長さを22 km,幅を20 kmとした.発震機構は,USGSと(独)防災科学技術研究所のF-Netのモーメントテンソル解を参考に,余震分布と傾斜方向が調和的な節面を採用した.走向,傾斜角,すべり角の値はそれぞれ58度,60度,132度(逆断層成分と右横ずれが混在している)である.小断層の大きさは1 km x 1 kmとした.

 

解析結果

得られたすべり量分布及び破壊開始時刻の分布を図3に示す.図に星印で示した破壊開始点の直上に,大きなすべりがある領域(アスペリティ) があり,浅い方に広がっている.また,破壊開始点の北東かつ断層の深部に,すべり量,空間的な広がりともに小さいアスペリティが推定された.

 

図3:(左)すべり量分布.コンター間隔は0.2 mで,1 mごとに線が太い.(右)破壊開始時刻の分布.コンター間隔は1秒.いずれの図も,星印は破壊開始点を示す.

図3:(左)すべり量分布.コンター間隔は0.2 mで,1 mごとに線が太い.(右)破壊開始時刻の分布.コンター間隔は1秒.いずれの図も,星印は破壊開始点を示す.

 

この2つのアスペリティの間はすべり量が非常に小さく,セグメント境界が存在している可能性がある.また,この2つのアスペリティの間では破壊伝播速度が遅い(破壊開始時刻の分布を示すコンターがやや詰まっている)ことが見て取れ,この箇所の破壊強度が大きかったと考えられる点も興味深い.

最大すべり量は3.4 m近くで,地震モーメントは1.3x10**19 Nm(Mw6.7)であった.得られた地震モーメントの値は,USGSの9.1x10**18 Nmよりは大きいが,Global CMTで得られた値(1.4x10**19 Nm)とは調和的である.
地震モーメントや最大すべり量が大きめに得られているのは,今回仮定した速度構造が最上層でもS波速度が3 km/sを超える,岩盤が露出したような構造になっている影響も考えられる.

ここで得られたすべり分布を地図上に表示したものを図4に示す.主要なアスペリティは海に,小さい方のアスペリティは輪島市門前町の南東付近に位置する.また,陸側にあたる浅部では,大きなすべりが生じておらず,地表調査で地震断層による顕著な変状が見つかっていないことと調和的である.

 

図4:すべり分布を地図上に重ねたもの.左上はモーメント解放率の時刻歴.

図4:すべり分布を地図上に重ねたもの.左上はモーメント解放率の時刻歴.

 

同じ図のモーメント解放率の時刻歴を見ると,破壊は7秒ほどで終了していることがわかる.モーメント解放の最初で最大のピークは2秒付近に見られる.5秒付近で再度ピークが見られるのは,小さい方のアスペリティの破壊に伴うピークである.

観測された波形と合成波形との比較を図5に示す.震源断層近傍で振幅が大きく,かつ堆積層が薄いと考えられるISK006では総じて波形の合いは良い.他の観測点においては,南北成分は合っているが,東西成分では不一致が目立つ.特に,ISK003とISK007においては,観測波形に見られる高周波成分を再現できていない.これらの波形の特徴は,堆積層内での多重反射などの堆積層による影響であると考えられる.同地域の地質構造を考慮しつつ,余震記録などを使って速度構造を検討することが今後の課題の1つである.

 

図5:観測波形(実線)と合成波形(破線)との比較.数字は最大振幅(単位はcm)を表す.

図5:観測波形(実線)と合成波形(破線)との比較.数字は最大振幅(単位はcm)を表す.

 

謝辞

強震記録は(独)防災科学研究所のK-NET及びKiK-netにより収録されたものを,また,震源データは気象庁一元化データを使用した.合成波形の計算には,東京大学地震研究所 武尾教授が作成されたプログラムを使用した.GMT(Generic Mapping Tools: Wessel and Smith, 1995)により図を作成した.以上,記して感謝いたします.

 

引用文献
  • 武尾 実(1985), 非弾性減衰を考慮した震源近傍での地震波合成-堆積そうでの非弾性減衰の効果について-,気象研究所研究報告,36,245-257.
  • Wessel, P., and W. H. F. Smith (1995), New version of the Generic Mapping Tools released, Eos trans. AGU, 76(33), 329.
  • Yoshida, S., and K. Koketsu (1990), Simultaneous inversion of waveform and geodetic data for the rupture process of the 1984 Naganoken-Seibu, Japan, earthquake, Geophys. J. Int., 103, 355-362.