<平成19年(2007年)能登半島地震情報

2007年3月の能登半島地震の破壊過程(第一報)

文責:堀川晴央(地震災害予測研究チーム)

改訂履歴

タイポなどの語句の微修正と公開サイトの移設(2007年3月29日)

初版発行(2007年3月26日)

 

はじめに

2007年3月25日午前9時42分頃に発生した能登半島地震の破壊過程を,予察的に推定した結果を報告する.なお,震源データは(独)防災科学技術研究所のHi-Netによるものを,強震記録は同研究所のK-NET及びKiK-Netによるものを使用しました.記して感謝いたします.

 

データ

(独)防災科学技術研究所のK-NET及びKiK-Netで収録された強震記録を使用した.観測点分布を図1に示す.地下構造に関する情報が豊富とは言えない地域であるため,速度構造の影響を小さくするため,震央距離が小さい観測点のみを使用することとした.

加速度の原記録に0.1-1Hzのバンドパスフィルターを通した後,数値積分を2度行い,変位波形としたものをデータとして使用した.

 

観測点の位置(▼)と震央(★),仮定した断層の位置.

仮定した断層の上縁のみ実線で表記した.

 

方法

理論波形は,水平成層構造を仮定し,reflectivity法(Takeo, 1985)により合成した.波形解析には,Yoshida and Koketsu (1990)で提唱された手法と同様に,断層をいくつかの小断層に分割し,各小断層ごとのすべり量と破壊開始時刻を同時に求める非線形波形インバージョン法を使用した. Yoshida and Koketsu(1990)では,あるすべり角を中心として±45度の間の値をとれるようにしているが,本解析ではすべり角は固定している.

 

仮定した断層モデルと速度構造

(独)防災科学技術研究所の自動震源決定で得られた震源パラメータを,破壊開始点として仮定した.深さは約10 kmである.余震分布を参考に,断層の長さを25 km,幅を20 kmとした.発震機構は,USGSのモーメントテンソル解をベースに,余震分布と傾斜方向が調和的な節面を採用した.走向,傾斜角,すべり角の値はそれぞれ58度,60度,117度である.小断層の大きさは1 km x 1 kmとした.

理論波形を合成する際に仮定した速度構造は,京都大学防災研究所地震予知研究センターの北陸地震観測所において,微小地震の震源決定に使用しているP波速度構造を元にしている.S波速度は,P波速度とS波速度との比が1.73であるとして仮定した.

 

図2:(左)すべり量分布.コンター間隔は0.25mで,1mごとに線が太い.(右)破壊開始時刻の分布.

図2:(左)すべり量分布.コンター間隔は0.25mで,1mごとに線が太い.(右)破壊開始時刻の分布.

 

解析結果

得られたすべり量分布及び破壊開始時刻の分布を図2に示す.図に星印で示した破壊開始点の近傍に,大きなすべりは集中しており,北東側では浅い方に伸び,南西側では深い方へ広がっていることがわかる.

本解析で得られた結果によると,最大すべり量は4m近くに達し,地震モーメントは1.4x10**19 Nm (Mw6.7)であった.得られた地震モーメントの値は,USGSの9.1x10**18 Nm (Mw6.6)よりは大きいが,Global CMTで得られたものとは一致している.

地震モーメントや最大すべり量が大きく得られているのは,今回仮定した速度構造が最上層でもS波速度が3km/sを超える,岩盤が露出したような構造になっている影響も考えられる.実際,能登地域は地表に新第三系が広範囲にわたって分布し,かつ,掘削長100m程度のKiK-Netのボーリングでは,先新第三系の基盤にあたっている観測点はなく,少なくとも数百mの厚さで新第三系が分布していると考えられる.今後は,同地域の地質構造を考慮しつつ,余震記録を使って速度構造をまず検討し,その後再度震源モデルを検討したい.