< 2008年岩手・宮城内陸地震速報

荒砥沢ダム北方で確認された変状について

2008年7月9日  遠田晋次・吉見雅行・丸山 正

 

第4報(08/6/19)について追加報告

荒砥沢ダム北方の尾根周辺にて岩手宮城内陸地震に伴う地表変状として最大の変位量約7mを確認した.その詳細を以下に報告する.

 

1.地表変状の確認位置および崖の概要

荒砥沢ダム北方の市道(馬場-駒ノ湯線)が走る東西走向の尾根に地表地震断層と考えられる低崖が約800 mに亘って認められる.低崖の大局的な走向は東北東-西南西で,西端は荒砥沢ダム北方の巨大地すべり地,東端は三迫川を埋める大崩壊地に達している.

市道より東側に分布する変状は,北向き斜面の北側が隆起し,断層崖が斜面上方を向くいわゆる「逆向き低崖」を示す.この地震断層沿いには山道およびガリーが明瞭に右横ずれ,斜めずれに変位を被っており,その最大右横ずれ量は約7m,北側隆起量は約2-3mである.この地震断層は,三迫川崩壊地より西約100mにて2条に分岐する.特に,北東-南西走向の断層トレースは北西側隆起の逆断層変位が卓越する.

市道より西側では,主に3条のトレースが認められる.1条目は東北東-西南西走向の北落ち右横ずれの低崖で,横ずれ断層に伴う典型的なプレッシャーリッジ,モールトラックが見られる.全体として,西側尾根の南向き斜面を左ステップしながら直線的に横切る.2条目は市道のすぐ西側より東西~北西-南東走向で斜面上方へと直線的に連続する引張性のトレースで,分岐後しばらくは北東-南西方向の開口(開口量:数十cm程度),斜面上方ではさらに北東落ち(上下変位量:1-2 m)の変位を示す.3本目は市道横断地点より約100m西付近から分岐する南北走向,西側隆起(逆向き低崖)の圧縮性の低崖である.この低崖は,分岐部では広域的な高まりであるが,次第に明瞭になる.分岐部より約70m南方で鞍部と斜交し,ここ以降は東側尾根の南西向き斜面を西側隆起の逆向き低崖として地すべりの崩壊地まで直線状に続く.樹木がめりこみ東西短縮が明らかで,上下変位は概算で約3 mないしそれ以上である.

これらは重力で滑り落ちる通常のランドスライドでは説明できず,大局的には北西側の相対的隆起と東西短縮に伴うテクトニックな変状である可能性が高い.

図1 荒砥沢ダム北方の変状のトレースと周囲での変状(東西短縮)確認位置および斜面崩壊.

図1 荒砥沢ダム北方の変状のトレースと周囲での変状(東西短縮)確認位置および斜面崩壊.

 

図2 荒砥沢ダム北方における変状説明図.

図2 荒砥沢ダム北方における変状説明図.(拡大表示 PDF2.6Mb

 

3.過去の繰り返しについて

市道から西方約200m地点,最も顕著な崖(図2の上部中央および右下の写真位置)では,断層面に平行な複数の面が確認できる(図3).また,今回の変状が現れた区間では,地形に累積を示唆する高まりが認められる.

 

図3 最も顕著な崖で確認された断層面に平行な複数の面. 図3 最も顕著な崖で確認された断層面に平行な複数の面.

図3 最も顕著な崖で確認された断層面に平行な複数の面.