第9回 インタビュー
1896年、日本で最初に動力式精米機を開発したことからスタートした株式会社サタケは、穀物の選別・加工技術の分野において、世界のトップメーカーとしての地位を確立してきました。近年では、蓄積されてきた技術を活用して分野を拡大し、自動車のバンパーリサイクルの新技術や樹脂ペレットや家電粉砕品の選別機器等も開発・販売しています。今回は、技術本部 副本部長の原正純氏に、お話を伺いました。
穀物からリサイクルへ。AIを駆使した選別機の開発(1)
---SUREコンソーシアムに加入されたきっかけを教えてください。
弊社は、1896年に、動力式精米機を開発したところから始まって、穀物の選別・加工技術を開発してきました。現在、世界の150ヵ国に製品や技術を提供しています。対応する穀物は、世界的には麦やトウモロコシが多いのですが、日本国内では米がメインです。しかし、国内の米の消費量は、私が生まれた頃は、一人当たり年間120キロの米を食べていたのに対し、今は50キロくらいと激減しています。国内に目を向けると、米で培ってきた技術を他の分野に転用する必要があることがお分かりになると思います。日本に金属資源が少ないことや近年の気候変動などに危機感を感じたこともあって、金属の資源循環に取り組みたいと考えていたところに、産総研中国センターの知人を通してSUREコンソーシアムを紹介していただく機会があり、加入いたしました。この方とは20年来のお付き合いで、今でも色々と相談に乗っていただいてます。
---「ピカ選」の開発チームリーダーだったそうですね。
はい。私は、かれこれ20年以上光学的な選別機械の開発を担当しています。カメラで物を捉えて、画像で良品か不良品かを識別し、不良品を吹き飛ばすという仕組みの機械です。それまでの光選別機は、精米工場などのプラントで使われる大きな機械だったのですが、農家の方個人に使っていただくことを目指して開発したのが「ピカ選」です。「1000万円ほどの販売価格を200万円台に下げ、性能は向上させた農家用小型光選別機の開発」という使命を果たすために、板金加工から、金型や樹脂を使って制作するように変更しました。そして、1台を数日かけて作るような少量生産の機械だったのを、1日に15台くらい作れるような量産機に仕上げたのです。コストダウンのため、海外製のとても高いカメラを買って取り付けていたのをやめ、日本製のセンサーを使い独自にカメラを開発しました。自分の部署だけでは手に負えなかったので、農家用の精米機などを開発している量産化が得意な部署や、ソフト開発の部署などからメンバーを集めて、総勢7名のチームを組んで…開発には1年半かかりましたが、幸いなことにヒットしたので良かったです。
---ターゲットが農家の方ということで、工夫した点はありますか?
初めて光選別機を使うということを考えて、極力操作ボタンを減らし、操作数も少なくしました。接粒部のカバーは全て、大きく開いたり、取り外したりして、ドライバーやスパナなしで簡単にメンテナンスできます。
---具体的にはどのくらい売れたのですか?
それまで年間100台くらいの販売台数でしたが、初年度で2000台売りました。「ピカ選」で開発したカメラは、様々な機械に導入していて、今、年間1万台くらい製造しています。
---このカメラを使った「光学式粒状物選別機の検量線自動設定システム」の発明で、特許庁長官賞を受賞されています。どのようなシステムか簡単に説明していただけますか?
米であれば、どんなものが流れてくるか分かっているので、良品と不良品の選別基準のしきい値を固定できますが、米以外のものに転用する場合は、赤いものを飛ばそうとか、ちょっと青っぽいものを飛ばそうとか、いろいろなケースがあります。このしきい値を自動で設定するというのが、この特許の中身です。フルカラーカメラの採用により、良品の色、不良品の色はRGB3次元空間にプロットされます。プロットされた良品の色の群と不良品の色の群の間に線を引けば選別できますが、3次元空間では、実際には良品と不良品の距離が離れていても、重なって見えて、最適な線が引けないことが起こります。その場合には、座標系を回転させて見れば、距離が大きく離れていることがあります。ユークリッド距離とかマハラノビス距離などというのですが…機械学習したAIが、この距離が一番離れた座標系を見つけてしきい値を決定します。
弊社には、お客様から依頼された様々なサンプルの選別・加工試験を行う「選別加工総合センター」があります。光選別機にはすべてこのシステムが導入されていて、サンプルを選別し、その結果に納得してもらって選別機を購入していただくことになっています。ペットフードやパスタ、お菓子、プラスチックのペレットなど、ありとあらゆるものが来ますよ。今までで一番小さかったのは、アラマンサス。1ミリにも満たない最も小粒な雑穀で、ちょっと苦労した記憶があります。この大きさが限界ですね。