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索引

·         不確かさとは

·         不確かさ評価の基礎となる関数モデル

·         合成標準不確かさ(不確かさの伝播則)



不確かさとは

 日常生活において「ものを測り、その結果を正しく表現する」ことがいかに大切であるかは言うまでもありませんが、グローバル化が急速に進み始めた現代においてはますます重要な概念となりつつあります。しかしながら、これまでは計測結果の信頼性の表現に関して、専門分野や国ごとに信頼性表現のための用語がばらばらであることが問題視されていました。

 そこで、計測分野を代表する国際機関である国際度量衡委員会(CIPM)およびその事務局である国際度量局(BIPM : The Bureau International des Poids et Mesuresが提言し、国際標準化機構(ISO : International Organization for Standardizationが中心となって、計測結果の表現のルールを示す国際文書(GUM : Guide to the Expression of Uncertainty in Measurementが出版されました。

 このガイドに基づき、計測の信頼性を明確にするために、国際規格ISO/IEC 17025199912月出版)およびJIS規格JIS Q 1702520006月制定)が制定され、、校正あるいは試験分野において「測定の不確かさ」(Uncertainty of Measurement)の推定と表示を行うことを勧告しています。すなわち、計測値には、次のような「拡張不確かさ」(U) を付けなければならないとされています。

 また、VIM(国際計量基本用語)によれば、「測定の不確かさ」とは「測定結果に付随した、合理的に測定量に結びつけられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ」であり、このパラメータは、例えば標準偏差(図1参照)であっても、または信頼の水準(level of confidence)を明示した区間(信頼区間(confidence interval)、図2参照)であってもよいと定義しています。

 

拡張不確かさ U = k * u

k : 包含係数(通常 k = 2とする)

u : 標準不確かさ( u = σ)

σ : 標準偏差

 

標準不確かさを拡張不確かさに変える包含係数は、標準不確かさが正規分布母集団の母標準偏差から求められたものである場合()には信頼の水準と下表

 

信頼の水準 p%

包含係数 k

拡張不確かさU 

68.27

1

σ

90

1.645

 

95

1.96

 

95.45

2

2σ

99

2.576

 

99.73

3

3σ

 

のような関係にありますが、標準不確かさが大きさの標本の不偏分散

 

 

から推定した母標準偏差の推定値で、測定量(物理量)の推定値として大きさの標本の平均値を用いる場合()には、包含係数はスチューデントの分布の逆関数値に等しくなります。ここでは標本のサンプル数から求められる自由度であり、は危険率あるいは有意水準と呼ばれる値で信頼の水準とはの関係にあります。

 

ちなみに、危険率すなわち信頼の水準における自由度のスチューデントの値はであり、自由度ではではとなります。したがって、標本のサンプル数がある程度大きくなると、信頼の水準に相当するスチューデントの値は近傍の値となることから、包含係数をと考えても大差がないと言えるでしょう。

 

このように純粋に統計的な見地から算出される不確かさのことを「Aタイプの不確かさ」と呼び、包含係数の値も純粋に数学的な計算から求められます。これに対して理論や経験などから得られる不確かさは「Bタイプの不確かさ」と呼びますが、この場合の包含係数は一般には計算で求めることができないので、通常はあるいは場合によってはまでの適当な値を包含係数とします。いずれにしても、測定量(物理量)の推定値を拡張不確かさと共に表示する場合には必ず使用した信頼の水準あるいはそれに相当する包含係数の値を付記する必要があります。

 



図1

 「真値」(true value)とは神のみが知り得る値であり、われわれが知り得る値は個々の「観測値」(observed value)です。個々の観測値を集めたものを標本(sample)と呼ぶが、それらの観測値を平均したものが標本平均(sample mean)です。また、観測値を仮想的に無限に集めた集団を統計学では母集団(population)と呼び、母集団の平均値を母平均()と呼びます。

 図1に見られるように、個々の観測値()は母平均から偶然誤差(random error、ここではと記すことにする)だけ離れており、また母平均は真値()から系統誤差(systematic error、ここではと記すことにします)分だけ離れるのが普通です。真値が神のみが知り得る値である以上、われわれにとって系統誤差は知ることができない値です。

 しかし、母平均は、測定誤差が人為的ではない偶然誤差いわゆるデータ測定におけるランダムなバラツキであれば、純粋に統計学的に推定することができる値であり、観測値は図1のような正規分布(normal distribution)と呼ばれる確率密度関数(probability density function)曲線(いわゆるGauss分布曲線)のどこかに落ちることが知られています。この曲線の変曲点は母平均からだけ離れており標準偏差(standard deviation)と呼ばれ、は母分散と呼ばれます。

 観測値の約68%の区間に落ち、約95%の区間に落ちるので、このような区間のことを統計学では信頼度(confidence)または信頼係数(confidence coefficient、あるいは信頼水準(confidence level)、「不確かさ」の分野では「信頼の水準」(level of confidence)と言います)が約68%あるいは約95%の信頼区間(confidence interval)と呼んでいます。また、その区間の限界の値(信頼区間の両端の値)を信頼限界(confidence limits)と呼びます。そして、このような区間を推定することを統計学では区間推定(interval estimation)と呼び、信頼区間の両外側の確率分布の領域を棄却域(critical region)と呼んでいます。図2に正規分布の母数(たとえば、母平均)の推定値(このように、母数の推定値は一般に母数の上にハット記号(^)を付けて表現します)が信頼の水準が95%の信頼区間()に存在する様子と両側合わせて5%の棄却域を例示してあります。なお、統計検定においては、信頼区間を棄却域との対比から採択域(acceptance region)と呼ぶこともあります。




図2

 測定データの正確さ(accuracy)と精度(precision)はそれぞれ系統誤差と偶然誤差に相当する概念です。標本の観測データ数を多くすればするほど標準偏差を小さくすることができ、結果的に標本平均は限りなく母平均に近づけることができます。しかし、真値は決して知ることのできない値であるから、正確さを決めることは不可能です。図3と図4には測定データの正確さと精度の極端な場合について図示したが、推定できるのは精度だけで正確さは永遠にわからないということです。

 一方、最近国際計量標準で採用されている「不確かさ」(uncertainty)という概念は、上述の正確さに対応する不確かさとは全く異なる概念であるから混同してはいけません。「不確かさ」には統計学的に決められる「Aタイプの不確かさ」と統計学的には決められないその他の不確かさ成分に相当する「Bタイプの不確かさ」があります。

 Aタイプの不確かさは統計学でいう標準偏差()に相当するものだから、純粋に統計学で評価できる値です。Bタイプの不確かさは理論的あるいは経験的にその量が見積もられ得る不確かさを言います。




図3




図4

不確かさ評価の基礎となる関数モデル

 多くの場合、測定量Yは直接に測定されることはなく、出力量と次のような関数関係 で関連づけられる個の入力量 から決定されます。


 すべての入力量は確率変数であると考えます。すなわち、入力量はある値のまわりにばらついており、そのために出力量である測定値がばらつくと考えます。

 一般に、入力量 の真の値は不明ですから、測定量の推定値 を求めるには、上記の関数モデルで表現される入力量の推定値から求めることになります。すなわち、


の関数関係にある入力量の推定値から測定量の推定値 を求めることになります。.

 

合成標準不確かさ(不確かさ伝播則)

入力量Xi(i=1, 2, ..., N)が互いに独立で相関がない場合

 測定量の推定値すなわち測定結果であるの標準不確かさは近似的には入力量の推定値 の標準不確かさを合成することによって求めることができます。

 推定値の合成標準不確かさを と書き表すことにすれば、合成標準不確かさは、次式で表される合成分散 の正の平方根で与えられます。


 ここで、個々の Aタイプや Bタイプの評価から算出される標準不確かさです。したがって合成標準不確かさ は、いわゆる推定標準不確かさであり、測定量を合理的に説明し得る値の分散につながる量です。

 の1次のTaylor級数展開近似に基づく上記の合成分散の式は、国際文書(GUMでは、「不確かさの伝播則」(Law of Propagation of Uncertainty)と呼んでいる重要な式です。



(注1) もし、のような線形関数モデルで表され、の係数 +1または -1の定数である場合は、上記合成標準不確かさは次のような簡単な式になります。


(注2) もし、のような指数関数モデルで表され、指数 が無視し得るほどの不確かさしか持たない場合は、上記合成標準不確かさは次のような相対合成不確かさ によって表現できます。



入力量 Xi(i=1, 2, ..., N)に強い相関がある場合

 入力量に強い相関がある場合には、合成標準不確かさ は、次式で表される合成分散 の正の平方根で与えられます。

 

 この式も相関がある場合の「不確かさの伝播則」(Law of Propagation of Uncertainty)と呼ばれる重要な式です。

 ここで、は入力量 の推定値であり、の推定共分散です。の相関の度合いは推定相関係数


から求めることができます。

 


 

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本ホームページは、2002/05/14に、独立行政法人 産業技術総合研究所 計測標準部門
計量標準システム科 主任研究員 井原俊英と先端材料科 材料評価研究室 テクニカルスタッフ 新 重光が
立ち上げ、保守管理してきましたものを、2022/10/01に有機基準物質研究グループに移管したものです。

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