< 阿蘇火山の噴火に関する情報(GSJ HP)
2016年10月 阿蘇山噴火緊急対応について
2016年10月8日1時16分に阿蘇山中岳第一火口で爆発的な噴火が発生しました.噴煙は高さ11,000 mに達し,阿蘇市の市街地にまで火山礫が降下するとともに,噴火による降灰は四国にまで到達しました.当部門では,この噴火の発生の情報を受け,8日午前10時に関係者を緊急招集し対策を検討しました.阿蘇山は2014年11月から噴火を繰り返していましたが,今回の噴火は噴煙高度も高く比較的規模が大きいことから,早急に噴火の特徴を把握することが必要と判断し,現地で噴出物の分布調査を行うために,研究者を派遣することにしました.同時に,現地での安全確保なとの状況を把握するために,つくばと現地の連絡やマスコミ対応の担当を決め体制を整えました.また,噴火の原因などを検討するために必要な噴出物分析を早急に行うために,すでに現地で調査を行っている大学や気象庁などに資料や情報提供のお願いを行うとともに,つくばでの分析体制を整えました.
今回の噴火による火山灰は阿蘇山から北東方向の大分県にかけて広く分布するため,広範囲の調査が必要となります.しかし,時間が経つと火山灰は風や雨で移動してしまうため,早急に調査を行うことが望ましいです.そのため現地で2班に分かれて効率的に調査を行うために,伊藤順一,星住英夫,田中明子,川辺禎久の4名が昼過ぎにはつくばを出発しました.しかし,あいにく連休の初日であり,羽田空港から大分空港までの日中の飛行機が満席であったため,調査隊が大分空港でレンタカーを借りて,宿泊地の竹田市に到着したのは,夜も遅くなってからでした.
写真1 降灰調査の様子 (カルデラ内で熊本大学の研究者と共同して調査を実施).
現地調査
降灰調査にあたっては,既に現地調査を開始されている熊本大学の宮縁育夫さんと情報交換を行うとともに,火山地質図などの研究の際にお世話になった大分県庁の方から各地の降灰状況を入手しながら,現地に向かいました.我々が調査を開始した10月9日には,防災科学技術研究所や立正大学の研究者も現地で調査を開始し,彼らとも調査情報を交換し,迅速且つ十分な降灰分布の把握を目指して,産総研は特に阿蘇カルデラ内から外周部及び大分市・由布市に及ぶ地域に飛散した火山灰の把握を目指した調査を行いました.
現地では,噴火後10月8日夕方から9日朝まで激しい降雨があり,堆積した火山灰の多くは洗い流されてしまいました.そのため,定面積内の降灰量計測は一部を除いて断念し,噴出物の最大粒径など,降雨の影響がなるべく少ないデータを得ることを主眼とした調査を行いました.
野外観察における噴出物のおおよその粒度,周辺観察での降灰残留の程度からは,九重山南部から大分市南部に向けての方向に比較的粒度の荒い火山灰が多く残されており,この地域に降灰の分布中心が存在するように思えましたが,今後詳細な検討が必要です.今回の噴火について調査を行った大学や研究機関等と降灰調査データを共有し,噴出量の推定に向けた検討につなげたいと思っています.
噴出物解析
10日には,防災科学技術研究所の研究員が現地から持ち帰った噴出物試料と,気象庁から送られてきた試料がつくばに届きました.これらの試料を防災科学研究所の研究者とともに,産業技術総合研究所にて,試料の外形や内部組織の観察を実体顕微鏡や走査電子顕微鏡などを用いて実施しました.その結果,爆発的噴火で放出された火山礫(2 mm~数cmの大きさの噴出岩片)は,過去の噴火の噴出物が吹き飛ばされたものであるが,火山灰粒子(2 mm以下の粒子)には少量の新鮮な発泡ガラスが含まれていました.火山礫は様々な程度に変質した石質~スコリア質岩片および火山灰が固化した「凝灰岩」であり(写真2),噴出物の大部分は火口底を埋めていた熱水変質の進んだ堆積物が破砕・放出されたと解釈されました.しかし,火山灰に少量含まれるガラス粒子は新鮮で熱水変質の証拠は見られません(写真3).そのため,地下深部から新鮮なマグマが噴出していることがわかりました.
現地調査の結果や噴出物解析の結果は適宜,気象庁・火山噴火予知連絡会に報告をし,今後の火山活動の評価にも活用されています.また,産総研のHPにも随時情報を公開しますので,HPもご覧下さい(https://www.gsj.jp/hazards/volcano/aso/index.html).
写真2 2016年10月8日に阿蘇中岳から放出された火山礫の断面.
写真3 2016年10月8日に阿蘇中岳から放出された火山灰に含まれる淡褐色発泡ガラス粒子.