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写真測量を用いた地震断層面の三次元表現の試み

斎藤英二(地質調査情報センター)・丸山 正(活断層評価研究チーム)・吉見雅行・林田拓己(地震災害予測研究チーム)

 

地震に伴って地表に出現した新鮮な断層面の傾斜,湾曲度合いや断層面上に形成された条線の方向などは,断層沿いのすべり特性に関連している可能性が指摘されており,地震・構造地質学の重要な研究対象になっている(例えば,大槻ほか,1997; Spudich et al., 1998など).新鮮な地震断層面は,その後の復旧工事や降雨などにより,早急に観察・計測が困難になる.また,地震断層の物質科学研究や古地震研究のために断層面沿いの試料が採取されると,二度とその地点の断層面を観察することができない.こうしたことから,可能な限り早急かつ(直接接触することにより)破壊することなく断層面の形態の詳細を記録しておくことが求められる.こうした制限の中で断層形状を計測する技術として,三脚や車両に設置したスキャナから照射した膨大なレーザデータから物体の三次元形状データを取得する地上型レーザ計測が注目されている.ただし,地上型レーザ計測は,膨大な計測データを扱うため,多数の地点を解析,図化する場合には処理に時間を要する,装置の小型化が進んでいるものの山地内などへの計測機材搬入に労を要する,などの難点がある.

そこで,今回は断層面の形状を記録する試みとして,デジタル三次元写真計測を実施した.デジタル三次元写真計測は,断層面に直接接触することなく計測が行えることに加えて,現地ではデジタルカメラとスケールのみを使用するなど,地上型レーザ計測より手軽に作業が行えることが大きな特徴である.今回の計測には,クラボウ社製三次元写真計測・図化システムKuraves G2を用いた.このソフトウェアは,対象物を異なる角度から撮影した2枚以上のデジタルカメラのデータをもとに,対象物の三次元位置座標を計測・図化するもので,1)レンズ歪み補正ツールが装備されているため市販のデジタルカメラが使用できること,2)撮影画像に距離既知のスケールを含めるだけで三次元計測が可能なこと,3)解析図化機のような特殊な装置や技術なしにPCのみで三次元データを生成することができること,などが特長である.

 調査対象地点は,2011年4月11日の福島県浜通りの地震で井戸沢断層沿いに出現した地震断層のうち,赤仁田地区西方のアスファルト道路を切断するもの(丸山ほか,2011の第7図:赤仁田地区西方にあたる)で,ここでは基盤岩とそれを覆う路床材を切断する高角度で西に傾斜するシャープな断層面が露出し,断層面上には,一部湾曲や切断関係を示す条線群が発達している(第1図).また,道路南縁に敷設されたコンクリート製側溝は,西側下がり(落下)と若干の右ずれ成分を伴う断層変位により折れ曲がっている様子が認められる.

 

第1図 アスファルト道路とその南縁のコンクリート側溝を切断し,地表に露出した断層面(東に向かって撮影).

第1図 アスファルト道路とその南縁のコンクリート側溝を切断し,地表に露出した断層面(東に向かって撮影).

 

撮影は2011年4月22日に行った.デジカメは10万円以下の一般的なもの3機種を用いたが,解析はそのうちの1台の写真を用いた.画素数は4,032×3,024ピクセル,焦点距離は14 mmである.標定のスケールは3 mのアルミスタッフを利用したが,今回の調査では,トータルステーション(以下TS)による3次元座標計測による地形測量も行っていたため,標定後に写真解析の計測点と同じ位置のTSによる座標を利用して,3軸の回転とシフトを調整することでTSと同じ座標系に概略フィットさせた.

計測は,単写真上で測定したい場所をクリックするだけという非常に簡単なものである.他方の写真上の同じ位置と思われる点の探索は自動で行われ,3次元座標が計算されるが,自動で行われた探索結果の確認と修正は手動で行う必要がある.第2図は,このようにして取得した約800点の計測点を示したもので,第3図はそのステレオ画像である.作成した計測点およびそれを結んだ計測線(一続きの条線など)や面情報をCADファイルに出力した.計測線の情報をもとに作成した断層沿いの三次元形状を示す動画(ほぼ鉛直方向に軸回転させたもの)を第4図に示す.断層面の形状の詳細が把握でき,特に断層の走向に一致するところ(動画の約2秒と約17秒)では,断層面の平滑状況が明瞭に表現されている.

このように非接触計測手段である写真解析によって様々な表現や計測が可能性であることが示された.断層面の幾何形状に関する理解が深まることが期待される.

 

第2図 写真解析ソフトを用いて作成した断層面周辺の計測地点(緑色の+点).

第2図.写真解析ソフトを用いて作成した断層面周辺の計測地点(緑色の+点).

 

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第3図 写真解析ソフトを用いて作成した断層面上の計測地点(緑色の点)と条線(赤線)の実体視画像.実体視しやすいように時計回りに90度回転させてある.画面右側が鉛直線の上側.

第3図 写真解析ソフトを用いて作成した断層面上の計測地点(緑色の点)と条線(赤線)の実体視画像.

実体視しやすいように時計回りに90度回転させてある.画面右側が鉛直線の上側.

 

第4図 地震断層沿いの三次元形状を示す動画.

 

文 献

丸山 正・斎藤英二・吾妻 崇・谷口 薫・吉見雅行・林田拓己,2011,2011年4月11日福島県浜通りの地震に伴い井戸沢断層に沿って出現した地震断層の緊急現地調査報告.

大槻憲四郎・皆川 潤・青野正夫・大竹政和,1997,兵庫県南部地震時に刻まれた野島断層の湾曲した断層条線について,地震第2輯,49,451-460.

Spudich, P., Guatteri, M., Otsuki, K., Minagawa, J., 1998, Use of fault striations and dislocation models to infer tectonic shear stress during the 1995 Hyogo-Ken Nanbu (Kobe) earthquake, Bulletin of the Seismological Society of America, 88, 413-427.