茨城・千葉県内の津波遡上高と堆積物の調査
藤原・澤井・宍倉・行谷・木村・楮原(産総研 活断層・地震研究センター)
目的
津波の遡上高・遡上範囲および堆積物の特徴を調査する
調査地域
津波の遡上高(既報)に加えて,九十九里浜中部の蓮沼海岸では津波堆積物が海岸から内陸へとどのような特徴を持つのかも調査した.こうした情報は,古津波の痕跡を地層中から探す際にも貴重な資料となる.
津波の概要
この付近の海岸には最大で標高4-5m前後・幅200mにもなる砂丘や砂堤が発達しており防砂林も整備されているおかげで,津波の遡上はかなり弱められたようである.津波は主に砂丘や砂堤の切れ目から市街へ溢れ出し,地図中地点4で標高2.1m(地面からの高さは0.7m)まで津波は上昇し,約1km内陸(標高約1.8m,地図中地点5)まで達した.
津波堆積物の概要
位置図の地点番号は写真と対応
海岸の砂浜や砂丘の前面は浸食され,津波堆積物の主な供給源となった(写真1).津波堆積物は砂丘の裏側から内陸へ向かって分布し,次第に薄く,細粒なる(写真2~5).海岸に直交する「柴山はにわ道」沿いでは,津波堆積物は海岸から約600mまでは大半が粒径のよく揃った細粒砂であるが(写真2,3),それより内陸では砂粒子の代わりに泥分が多くなり(写真4),遡上限界近くでは植物片などの集積帯となる(写真5).
観察した範囲では津波堆積物の層厚は一般に数cm程度と薄く,砂丘近くの最も厚い部分でも15cm程度であった.津波堆積物を特徴づける堆積構造は,瓦を伏せたような形をした「リップル」であり,一定方向に水が流れることで形成されたものである.リップルが示す流向は海岸から内陸へ約500mまでは遡上流であること多いが(写真1~3),それより内陸では引き潮が卓越していた(写真4).
津波から3週間後に防砂林内で再度津波堆積物を観察したが,表面の構造はかなり不明瞭になりつつあった(写真6).風雨の影響が少ない環境でも津波堆積物の持つ情報が急速に失われるので,津波直後の調査が重要であることが改めて認識された.
1/2.5万地形図「木戸」を使用.
写真1 津波による浸食状況.
海岸から近いところでは大きな浸食が起こった.人の後ろには地面が浸食されて出来た池があり,
ゴミや泡が浮いて濁っている.
防砂林や杭,電柱は津波によって陸側へ傾き,道路の舗装もめくれている.
人の足元の砂層には瓦を伏せたような形をしたリップルがあり,陸側へ向かう流れを示す.
写真2 中下海水浴場の津波堆積物.
防砂林は陸側へ倒れており,遡上した津波の強さを示す.電柱や舗装道路の瓦礫が散乱する.
砂層は層厚10cmらずと意外に薄く,
所々にハマグリやホッキガイの貝殻が密集している.
砂などの細粒物は流れが強いときには洗い流され,流れが弱まってから堆積したものであろう.
写真3 遡上した津波による堆積物.
交差点の広場では,海側の道路から流入した津波によってリップルを持つ砂層が堆積していた.
リップルの波長は長いもので10cm.
津波堆積物は淘汰の良い細粒砂層で,層厚は最大で約10cm.
写真4 戻り流れによる堆積物.
海岸から約500mより内陸では戻り流れを示すリップル(波長数cm)が多く見られた.
津波堆積物は泥質の細粒砂層からなり,表面を薄く粘土層が覆っている.
層厚は数cm.このあたりでの浸深は約70cm.
写真5 津波堆積物の先端部.
泥質の細粒砂層で,層厚1-2cm未満.津波で浮遊してきた植物片が集積しているほか,打ち上げられた魚(ボラ?)も見える.
写真6 防砂林内の津波堆積物.
淘汰のよい細粒砂層で,リップルが発達する.内部には葉理が見られ,層厚は水平方向に1cm程度から10cm程度まで大きく変化する.
風や雨のために表面のリップルはかなり不鮮明になってきている.4月3日撮影.