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沈降した海岸はどうなる?

マグニチュード9クラスの大地震が発生すると,広域的に大きな地殻変動が発生します.断層が破壊した震源域の直上で隆起し,その陸側で沈降するのが一般的です.今回の地震では,震源域である海域で広範囲に隆起し,それが津波の原因となりました.一方,震源域の陸側に当たる沿岸付近で広域的な沈降が発生しました.しかしながら,地震時に沈降した場所は今後隆起する可能性があります.
同じような地殻変動は1960年のチリ地震でも発生しました.震源域の陸側に当たる海岸付近では、地震時に広範囲にわたって1~2m沈降しましたが,その後ゆっくりと隆起しました(例えば,活断層・古地震研究報告,No.4, 265-280).地震後どのくらいの期間で隆起したかは,場所によって異なり,はっきりしていません.このような隆起は余効変動と呼ばれる現象で,地震によって破壊したプレート境界の深部延長部で,地震後にゆっくりとした滑りが発生することが原因であると考えられています.
また,東北地方の沿岸域の地質を調べても,過去十数万年間で大きく沈降した証拠は見つかりません.平安時代の西暦869年に発生した貞観地震が同じタイプの地震だと考えられますが,同様の地震はおおよそ500年程度の間隔で繰り返しています.にもかかわらず,この地域に長期的な沈降が認められないことは,地震によって生じた沈降を帳消しにするような隆起運動が今後生じることを強く示唆しています.産業技術総合研究所が仙台平野で実施した調査でも,室町時代に平野が隆起した可能性を示すデータが得られています.
東北日本の太平洋側でもチリと同じように隆起するかどうかは,今すぐには断言できませんが,今後の地殻変動に注意する必要があります.