西暦869年貞観地震の津波堆積物
3月11日に発生した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」によって大きな被害を受けた宮城県では, 過去にも巨大津波が発生していたことが知られていました.
西暦869年の貞観地震と呼ばれる地震は,日本三代実録に記述があり,当時国府があった多賀城(仙台市の北東側)で地震の大きな揺れと巨大津波によって大きな被害があったことが書かれています.特に津波は相当規模が大きかったと考えられ,約40年間隔で発生している宮城県沖地震より更に巨大な地震であったと考えられていました.
この津波が浸水した範囲には津波堆積物(図1)が分布することが東北大学の箕浦教授によって指摘されていましたが,その津波を再現するための調査研究を,産業技術総合研究所が中心になって進めてきました.
まず,陸域の調査によって宮城県から福島県の海岸付近の平野に広く津波堆積物が分布することを,詳細な調査によって明らかにしました(図2).その結果に基づいて,津波堆積物が分布する範囲まで浸水するような断層モデル(図3)をシミュレーションで構築しました.最終的なモデルは, 幅100km,長さ200kmの断層が破壊したと推定しています.
今回の地震を起こした断層破壊域の幅,長さとも半分程度ですが,津波堆積物の分布域は実際の津波浸水域より小さいはずですので,実際の貞観地震を起こした断層面は,産総研が構築した貞観地震の断層モデル以上の規模を持っていたと考えられます.上記の調査及び津波シミュレーションの詳細については,AFERCニュース,2010年8月号に紹介しています.
図1.津波堆積物のボーリング写真. 津波によって運搬された砂層が,泥炭層中に含まれている.砂層の上下の泥炭層の放射性年代を推定することによって, 津波の発生年代を推定できる.
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図2.仙台平野で確認した津波堆積物の分布. 赤丸は貞観津波による堆積物.ただし,貞観地震が発生した時期の海岸線は,現在の海岸線より1km程度内陸側に位置して いたと考えられる.
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図3.西暦869年貞観地震の断層モデル.
幅100km,長さ200kmの断層モデルでシミュレーションを行うと,津波堆積物の分布域まで津波が浸水する. |