< 2007年(平成19年)新潟県中越沖地震情報

草加地震計アレイ観測点による2007年新潟県中越沖地震の観測記録

-関東平野の長周期地震動-

文責:活断層研究センター 吉田邦一・関口春子

 

産業技術総合研究所では,都市地質プロジェクト「関東平野の地震動特性と広域地下水流動系の解明に関する地質学的総合研究」の一環として,2004年から埼玉県南部の草加市周辺において地震計アレイ(以下草加地震計アレイ)による地震観測を行っている.
今回の地震によって,草加地震計アレイのいくつかの観測点において記録が得られた.記録の得られた観測点の位置を図1に示す.この地域は関東平野の中央部に位置し,未固結の堆積層が2~3kmの厚みで堆積していることが知られている.

 

図1 記録の得られた地震観測点の位置図.

図1 記録の得られた地震観測点の位置図

 

観測された加速度記録のうち,東西成分について積分を行い,速度波形としたものを図2に示す.いずれの観測点においても,地震発生から約60秒後にS波が到達し,その後長周期の大きな振幅の揺れが見られる.また,わずか数kmの範囲内に分布する観測における記録であるが,それぞれ少しずつ波形が異なっている様子がわかる.

 

図2 観測された東西成分の速度波形.

 

図2 観測された東西成分の速度波形.振幅は全て同じスケール

 

地震計アレイによって観測された速度応答スペクトルを図3に示す.比較のため防災科学技術研究所K-NETGNM009(群馬県内の観測点,関東平野から少し外れ,堆積層の影響をほとんど受けないと考えられる)の記録による速度応答スペクトルも示す.ここで重要なことは,草加地震計アレイはGNM009観測点よりも震源から遠いにも関わらず,周期1秒以上では草加地震計アレイの振幅がGNM009観測点の振幅よりも大きいことである.

草加地震計アレイでは,いずれの観測点においても周期約7秒が卓越する.以前より,関東平野では長周期地震動が発生することが知られているが,GNM009観測点と草加地震計アレイの記録を比較すると,その様子が明らかである.

また,草加地震計アレイのそれぞれの観測点ごとでも,特に短周期側でそのスペクトルは少しずつ異なり,地震動の挙動は狭い範囲内でもかなり異なっている.

草加地震計アレイは,沖積層(堆積層の中でも最も表層にある層)が厚い,中川低地帯と呼ばれる地域に位置している.草加地震計アレイの展開されている地域内において,この沖積層は5~50mの間で変動することが知られている.短周期の地震動はこの沖積層の影響を強く受けることから,短周期側のスペクトルの違いは沖積層の影響が示唆される.

 

図3 草加地震計アレイによる観測記録から求めた速度応答スペクトル(h=5%).

図3 草加地震計アレイによる観測記録から求めた速度応答スペクトル(h=5%). 比較のため,GNM009についても示した.

 

震源から草加地震計アレイまでの間で地震波が伝わる様子を見るため,観測点SKSWの記録を,防災科学技術研究所K-NETで観測された震源付近(新潟県長岡市)-群馬-埼玉の記録と並べて比較した.震源から放射された地震動は,距離とともに減衰し,群馬県内の観測点では比較的振幅が小さい.しかし,関東平野(ここで示したのはSIT008とSKSW)に入ると振幅が再び大きくなる.特に,S波以降に周期の長い表面波(長周期地震動)が顕著に現れ,1cm/s以上の振幅で2分以上ゆれ続けている.

 

図4 地震波の伝わる様子.観測点の位置を右側に示す.地震動波形は地動速度東西成分を示す.振幅はすべて同じスケール.

図4 地震波の伝わる様子.観測点の位置を右側に示す.地震動波形は地動速度東西成分を示す.振幅はすべて同じスケール.

 

今後,関東平野の地震動特性の解明のため,得られたデータをもとに更に解析を進めてゆく予定である.