< 2007年(平成19年)新潟県中越沖地震情報

2007年7月中越沖地震の断層モデル(第一報)

文責:活断層研究センター 堀川晴央

 

データ

データは,国土地理院のGEONETで観測された水平変動,活断層研究センターによる現地調査で確認された上下変動,国土地理院の柏崎の験潮記録で確認された上下変動である.
水平変動は,国土地理院のサイト(http://www.gsi.go.jp/WNEW/PRESS-RELEASE/2007/0719b.htm)で公開されている図より読み取りデータとした.
現地調査で得られた結果によると,出雲崎付近で上下変動は最大で,その両側へ向かって変動が減っていくことがわかった.また,験潮記録から,柏崎は沈降していると考えられる.

 

方法

平面断層上で一様のすべりを仮定し,Okada(1992, BSSA)の解析解から地殻変動を計算し,試行錯誤的に,データを説明できるモデルを探索した.上下変動に関しては,上記の定性的な傾向を再現することを目的とした.水平変動はできるだけ定量的に再現することを目指した.

出雲崎と柏崎2の観測点では,観測点自体が局地的な変形を被っていることが示唆され,その影響を取り除いたものが発表されている.しかし,上記の資料によると,出雲崎の記録では,その影響が十分に取り除けていない可能性があることに言及されており,ここでは参考程度にとどめた

また,柏崎2でも,補正後の変動であっても,直近の観測点P柏崎の水平変動とは異なっており,十分に取り除けていない可能性があると考え,参考程度にとどめることとした.

 

結果

推定された断層モデルは2枚の断層面からなる.主たる断層面はUSGSのモーメントテンソル解で得られた南東傾斜の断層面で,余震分布の並びとも概ね調和的である.南西側では,この断層から,分岐する断層が陸側浅部に向かって延びているとした.その分岐断層の上端の深さは0.2 kmとした.パラメータの詳細は以下のとおり.

断層パラメータ

 

主断層 分岐断層
走向(度) 41 221
傾斜角(度) 49 75
すべり角(度) 86 95
すべり量 (m) 1.5 0.7
長さ (km) 23 10
幅 (km) 11 10
断層上縁の深さ (km) 5 0.2

剛性率を33 GPaとすると,この断層モデルの地震モーメントは1.3 x 1019Nmであり,地震波で求めた地震モーメントよりやや大きめだが,その差は小さい.

 

本モデルから予測される水平変動(左)と上下変動(右).

 

本モデルから予測される水平変動(左)と上下変動(右).水平変動の黒い矢印は国地地理院より公開されているGTEONETの観測量を示す.上下変動のコンターは5 cm間隔で,隆起を実線で示す.△は現地調査により,隆起・沈降を測定した箇所.赤の矩形が断層で,上縁を実線で示す.左右の図で,地図のスケールが異なることに注意.

 

議論

北東側で観測された量は,概ね主断層のみで説明できるが,柏崎付近の水平変動や沈降は主断層だけでは説明できない.そのため,余震分布を参考に,分岐断層を導入した.

この分岐断層の存在範囲は,観測量で拘束できている.現在の位置よりも北東側へ伸ばすと,沈降域が拡大し,海岸沿いで観測された結果と合わなくなる.南西側へ延長すると,柏崎2あるいはP柏崎の水平変動が柏崎1よりも大きくなってしまい,観測と矛盾する.

データを説明するためには,分岐断層の上端の深度が浅いことが必要であり,深いモデルでは,沈降域,柏崎付近の変動を説明するのは困難である.伏在断層が高角なのは,柏崎付近の沈降を説明するために必要であるが,高角でありながら逆断層成分が卓越している点で,物理的に存在しにくいものとなっており,今後の検討課題である.