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研究トピックス

ナトリウムイオン電池負極活物質・NTOを開発

蓄電池

リチウムイオン電池(Li-ion電池)は、今後電動車両への利用が急速に拡大するとともに飛行体や定置用のエネルギー貯蔵でも利用される等、さらに広範な用途で使われ大量に生産・利用されることが予想されています。しかしその一方で、将来のリチウムの資源供給に対する懸念からリチウム資源の獲得競争もはじまっており、価格が高騰する懸念もあります。 Li-ion電池のリチウムをナトリウムで代替するナトリウムイオン電池(Na-ion電池)はナトリウムの豊富な資源量や原料コストが安く輸入に頼らずにすむため期待されており、研究開発が進められています。
Na-ion電池を実用化するには化学的、構造的に安定で信頼性の高い負極材料の開発が必要です。 Li-ion電池では、スピネル型リチウムチタン酸化物 (Li4Ti5O12, LTO) がそのような負極材料として知られており、これを利用した(株)東芝のLi-ion電池「SCiBTM」は、長寿命、高い安全性、急速充電を特長として商品化されています。 特にLTOを用いると負極の電位が高いため、急速充電しても金属リチウムが析出しないので安全です。このLTOと同様の構造を有するスピネル型ナトリウムチタン酸化物 (NTO) が存在すれば、Na-ion電池の優れた負極になり得ると考えられます。特に金属ナトリウムの析出を防げることはNa-ion電池を安全に利用するために必須で、実用化へのキーマテリアルです。産総研・電池技術研究部門では、LTO負極のNa-ion電池サイクルの過程で,LTO活物質粒子中にNTO相が部分的に生成し得ることを発見しました(下記論文1)。
さらにその後の研究でLTOを出発原料として単相NTOを合成することに成功し、安定した充放電サイクル特性を実証しています(下記論文2)。また、100gスケールでの合成も可能にしています(第60回電池討論会講演要旨集 2E21(2019))。

説明図

図1 合成したナトリウムイオン電池負極活物質・NTO(50g)

■スピネル型ナトリウムチタン酸化物のナトリウムイオン電池負極材料としての可能性

"Spinel-type sodium titanium oxide: a promising sodium-insertion material of sodium-ion batteries"
Mitsunori Kitta, Riki Kataoka, Shingo Tanaka, Nobuhiko Takeichi and Masanori Kohyama
ACS APPLIED ENERGY MATERIALS, 2, 6, 4345-4353 (2019)

Li-ion電池では化学的・構造的に安定な負極材料としてスピネル型リチウムチタン酸化物 (Li4Ti5O12, LTO) が広く知られており、すでに高性能負極材料として実用化されています。スピネル型ナトリウムチタン酸化物 (Na3LiTi5O12, NTO) が実在すれば、Li-ion電池と同様に、化学的・構造的安定性に優れたNa-ion電池の負極材料になると期待できます。しかし、このような物質はこれまでに発見されていませんでした。産総研ではLTOに対するある特殊な電気化学的Na吸蔵-脱離の過程で、部分的にNTOが生成しうる事を発見しました。本論文では生成したNTOの結晶構造や電気化学特性について議論し、その電池材料としての可能性を見出しました。

説明図

図2 (右) NTOの結晶構造モデル。左に示したLTOの結晶格子内のLi(青球)をNa(黄球)で置換した物質を発見し、そのNa-ion電池材料としての可能性を見出した。

■スピネル型ナトリウムチタン酸化物の単相化の実現 〜安全で耐久性の高いNa-ion電池の構築に向けて〜

"Realizing the single-phase spinel-type sodium titanium oxide with Li4Ti5O12-like structure for building stable sodium-ion batteries"
Mitsunori Kitta, Toshikatsu Kojima, Riki Kataoka, Koji Yazawa, Kohei Tada
ACS APPLIED MATERIALS & INTERFACES, 12, 9322–9331 (2020)

これまでにLTO電極のNa-ion電池サイクルの過程で、LTO相内に部分的にNTO相が生成しうることが見出されていましたが、その単相化は達成されていませんでした。本論文では電池試験ではなく化学的なイオン交換処理により、LTO相をほぼ完全にNTO相へ転換できることを見出し、その単相化を実現しました。さらに単相化されたNTO材料はNa-ion半電池で優れたサイクル安定性を示し、LTO相のLi-ion電池反応と類似した反応機構で充放電が進行していることも確認できました。現在では本材料を負極としたNa-ion全電池を試作し、高電圧、高安定性の実用的なセル開発に向けた性能の実証試験を進めています。

説明図

図3 得られた NTO 試料粉末の構造解析と特性評価。(上) 放射光XRDプロファイル。単相に帰属可能な結晶性のピークが得られている。これらのピークはいずれもスピネル型構造(a = 8.746 Å)で帰属された。(下) 得られた単相材料のNa-ion半電池サイクル特性。1〜200 cycle目までの充放電カーブはほぼ重なっており、良好な充放電の再現性が確認できた。サイクルプロットは5 cycleずつ示している。

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