小高 陽樹/ODAKA Haruki
細胞分子工学研究部門
Cellular and Molecular Biotechnology Research Institute
多細胞システム制御研究グループ 主任研究員
- 産業利用に資するグリア含有ヒト脳オルガノイドの開発
- 1細胞糖鎖・RNAオミクス解析による細胞品質管理技術の開発
- 血液由来エクソソームの性状解析とバイオマーカー探索
ミクログリア等のグリア細胞を含有する脳オルガノイドおよびそれを使った疾患モデル、薬剤・食品機能評価系の開発を行っている。また、1細胞糖鎖・RNAオミクス解析による細胞の品質管理マーカー開発や血液由来エクソソームを使った疾患バイオマーカーの探索を行っている。
食品・医薬品・化成品が脳機能へ与える影響を評価 -ヒト脳オルガノイドによる神経機能・毒性評価-
動物実験削減とヒトへの外挿性の向上の観点から、ヒト細胞を用いた生体模倣モデルの開発が求められています。ヒト多能性幹細胞から作製できる脳オルガノイドは、ヒト脳の発達過程を再現し脳組織構造を模倣できることから、脳機能評価への適応が期待されています。一方で、通常の脳オルガノイドには脳内免疫細胞であるミクログリアが存在せず、脳内免疫系を再現することはできませんでした。 私たちは、ミクログリアを含有する脳オルガノイドの作製法を開発しました。これにより、アルツハイマー病など脳内炎症を呈する神経疾患を標的とした薬剤の評価や、神経毒性の疑われる化成品、農薬などの毒性評価、機序解明への利用が期待されます。また、機能性食品成分の抗炎症作用や神経機能の向上、抗老化作用など神経系および免疫系への効能の有無を評価する系として利用することが可能です。
- PCT/JP2024/005239(2024/02/15):ミクログリア含有大脳オルガノイドの作製方法
1細胞糖鎖-RNA解析による細胞品質管理マーカ―の開発
再生医療では、iPS細胞などから目的細胞を大量製造する過程で、未分化細胞や目的外細胞が混在すると、治療効果の低下や腫瘍化などの安全性リスクにつながるため、製造工程における高精度な品質管理が極めて重要です。混入細胞を含む細胞集団の性状評価には一細胞解析がよく用いられますが、従来の単一細胞RNA解析は得られる情報が遺伝子発現情報に限定され、細胞表面に現れる表現型の違いを十分に捉えられないという課題がありました。私たちが開発した1細胞糖鎖-RNA解析(scGR-seq)は、単一細胞ごとに糖鎖と遺伝子発現を同時に解析することで、目的細胞とリスク細胞を高精度に識別可能とします。得られた糖鎖マーカーはレクチン(糖結合タンパク質)により容易に検出可能であり、フローサイトメトリーによる細胞分取や蛍光染色に利用可能です。本技術により、神経分化細胞集団から目的外細胞を特異的に検出できる糖鎖マーカー候補を同定しています。当グループでは、scGR-seqによる細胞の糖鎖マーカー開発の共同研究を実施しております。
- 特許7445966(2020/03/24):糖鎖を解析する方法
- PCT/JP2025/003513(2025/02/04):神経細胞集団に残存する未分化細胞を検出または除去する方法
- Minoshima F, Ozaki H, Odaka H (Equally contributed FA) et al., iScience, 2021, [doi/10.1016/j.isci.2021.102882.]
- Odaka H et al., Stem Cell Reports., 2025, [doi/10.1016/j.stemcr.2025.]
エクソソーム(細胞外小胞)による疾患バイオマーカーの開発
エクソソーム(細胞外小胞)は、細胞が分泌する直径30$301C150 nm程度の脂質二重膜小胞で、由来細胞のタンパク質や遺伝子情報を内包し血液や体液中に安定に存在するため、疾患状態を反映する非侵襲的なバイオマーカー源として注目されています。 特に一部の腫瘍や神経変性疾患では、バイオマーカーによる早期発見が困難とされる中、エクソソームは分泌細胞の性状変化を反映する特徴から潜在的な診断・予後マーカーとしての可能性があります。 当グループでは、患者血清由来エクソソームに発現する糖鎖やキャリアタンパク質の解析によるバイオマーカーの探索手法を確立しています。これまでにCD61/CD63陽性エクソソームが、特定の疾患患者(神経疾患(アルツハイマー型認知症)、精神疾患(うつ病、統合失調症))において劇的に増加することを見出しました。これらのバイオマーカーは健常者では極めて低値であることから、疾患状態を高感度に検出可能です。また、一般的なマーカーで検出困難な初期膵癌においても増加を示します。腫瘍の外科的切除により減少することから、有望なマーカーのない疾患のサロゲートマーカーとして有望です。
- 特許7495106(2020/06/09):がん及び神経変性疾患の検出方法
- Odaka H et al., FEBS Open Bio, 2021, [doi/10.1002/2211-5463.13068.]
- Odaka H et al., BMC Gastroenterology, 2022, [doi/10.1186/s12876-022-02228-7.]