黒田 恭平/KURODA Kyohei
バイオものづくり研究センター
Biomanufacturing Process Research Center
微生物生態工学研究チーム 主任研究員
- 持続可能な社会形成に向けた新規バイオテクノロジーの開発
- 嫌気性微生物の寄生・共生機構の解明
- 嫌気性環境下に広がる新しい生物資源・遺伝子資源の探索とその機能解明
現在の生産プロセスでは、製造過程で発生する廃水や廃棄物を有効利用できていません。私は水処理システム、農作物栽培などの土壌水圏環境における微生物生態解明を基盤とし、革新的な循環型生産プロセスを構築することで、世界的な環境問題や地域課題を解決する持続可能な新規バイオテクノロジーの開発を行っています。
PET原料製造廃水の効率的処理技術の開発に成功
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、合成繊維やペットボトルなどの製造に広く使用されるプラスチック原料であり、近年の年平均成長率も11%に達しています。PETは極めて需要の高い材料であるため、その市場規模は世界的に拡大しています。その結果、処理を必要とするテレフタル酸を含む製造廃水の排出量もさらに増大することが予想されています。このような背景から、テレフタル酸製造廃水に対して、PETの需要増に対応可能な効率的かつ安定した処理技術が求められます。本研究では、テレフタル酸製造廃水処理の効率化・安定化を目指し、これまでに得られた微生物学的知見を活かした緑色凝灰岩および栄養基質の添加によるバイオスティミュレーション技術を廃水処理反応器に応用することで、新しいテレフタル酸製造廃水の処理装置および処理技術を提案しました。本研究により既報の2倍の廃水処理速度を達成しました。本研究で開発した技術を活用することで、テレフタル酸製造廃水のような阻害物質を含有する廃水へ応用することで本技術の適用範囲の拡大が期待されます。
- K. Kuroda et al., Water Rsearch, 2024, [doi/10.1016/j.watres.2024.121762]
- K. Kuroda et al., Water Rsearch, 2022, [doi/10.1016/j.watres.2022.118581]
- K. Kuroda et al., Environmental Technology & Innovation, 2021, [doi/10.1016/j.eti.2021.101835]
廃水処理に利用される活性汚泥プロセスに共通する微生物群を特定
国内の産業廃水ならびに都市下水処理施設で運転されている7つの活性汚泥プロセスから、3年間にわたり繰り返し採取したのべ600個の複合微生物試料について、その微生物叢データを解析しました。その結果を基に、全プロセスに共通して存在する微生物群を特定し、それらのゲノム情報から捕食あるいは寄生作用を有する微生物群が多数含まれることを見出しました。廃水処理プロセスでは、細菌よりも進化している原生動物が、細菌などを捕食する作用は広く知られていますが、細菌間で起こっている捕食や、細菌による細菌への寄生といった現象についてはよく知られていませんでした。この研究では、さまざまなタイプの廃水を処理する活性汚泥プロセスから取得した微生物叢を解析し、その多様性や代謝機能を知るためのデータを得ました。解析の結果、捕食・寄生性の細菌が廃水処理の安定化に寄与していることを発見しました。これらのゲノム情報などを活用することで活性汚泥を用いた廃水処理プロセスの高度化が期待できます。
- K. Kuroda et al., Water Research X, 2023, [doi/10.1016/j.wroa.2023.100196]
- H. Kurashita et al., Microbes and Environments, 2024, [doi/10.1264/jsme2.me24068]
- S. Kagemasa et al., Environmental Microbiology Reports, 2025, [doi/10.1111/1758-2229.70231]
メタン生成アーキアに寄生するバクテリア-未知バクテリアの巨大系統群「CPR」に属する超微小バクテリアの培養に成功-
我々は廃水処理システムの研究において中心的な役割を担う微生物(メタン生成アーキア)に寄生してその生理活性を低下させるバクテリアを、世界に先駆けて発見しており、今回その培養に成功しました。本研究は、約40億年前に進化的に分かれ、細胞膜脂質や遺伝子情報などが生物学的に大きく異なっているアーキアに寄生するバクテリアを培養した世界初の例です。「ミニシンコッカス アーカエイフィルス(Minisyncoccus archaeiphilus)」と命名したこのバクテリアは、寄生できる宿主の範囲が非常に狭く、宿主アーキア特有の部位にのみ感染することが観察されました。さらに、「ミニシンコッカス アーカエイフィルス」が属する未知バクテリア巨大系統群である「Candidate phyla radiation (CPR)」を新門「ミニシンコッコータ(Minisyncoccota)」と命名しました。本研究において系統学的に整理し、分離株を公的菌株保存機関へ寄託することにより、CPRに関する研究が進み、これまで謎に包まれていたCPRに属するバクテリアの生理や生態学的役割の理解が進むことが期待されます。
- M. Nakajima et al., International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, 2025, [doi/10.1099/ijsem.0.006668]
- K. Kuroda et al., mBio, 2024, [doi/10.1128/mbio.03102-23]
- K. Kuroda et al., mBio, 2022, [doi/10.1128/mbio.01711-22]