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研究トピックス

電極内部の導電パスの評価

蓄電池

全固体電池(ASSB)とはすべての部材が固体で構成された次世代型の蓄電池です。ASSBは、高安全性、高レート特性、高エネルギー密度という特徴を有するため、次世代EV用バッテリーとして期待されています。ASSBの特性は固/固界面を介した電子・イオン移動に大きく影響されます。そのため、電池性能を最大限に高めるためには、個々の活物質粒子が電子・イオン伝導ネットワークとどのように接続しているかを知ることが重要です。

電池技術研究部門では、これを微視的レベルから明らかにするために、走査型広がり抵抗顕微鏡(SSRM)による解析を行っています(図1)。SSRMは導電性探針を用いて試料の局所的な電気抵抗(広がり抵抗)を測定する手法で、近年SSRMを用いたLiイオン電池の解析が注目されています。さらに、生成AIによる3次元構造モデル作成技術を導入し、独自のSSRMシミュレーション手法と組み合わせることで、電極内部の導電パスの解析を試みています(図2)。

説明図

図1 SSRMの模式図

説明図

図2 (左)生成AIによって作成した3次元構造モデル、(右)SSRMシミュレーションにより求めた、電極内部の電流密度分布

■走査型広がり抵抗顕微鏡による全固体二次電池用正極合材の微視的伝導機構の解明

Elucidating Mechanism of Microscopic Conduction in Cathode Composites for All-Solid-State Batteries through Scanning Spreading Resistance Microscopy
蒲生浩忠、前田 泰、清林 哲、城間 純、佐野 光
J. Mater. Chem. A, 12, 14380 (2024)

本論文では、電子伝導の微視的解析技術を用いて、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM)正極合材電極の解析を行いました。電極の放電容量はNCMの体積分率に依存性し、SSRMの測定結果との相関を明らかにしました(図3)。シミュレーションにより詳細な解析を行うと、電極内部での活物質粒子の電気的接触状態が影響していることが示唆されました。

説明図

図3 充放電曲線(左)とSSRM抵抗ヒストグラム(右)との比較

これらの結果は、合材電極の設計指針を示す、導電パスの解析手法として高く評価され、権威ある学術誌(Journal of Material Chemistry A, Q1ジャーナル)に掲載され、またその表紙に採用されました。

Front cover (Journal of Materials Chemistry A, 28 June 2024, Issue 24, Page 14169 to 14830)

本論文の成果は、NEDO委託事業「次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発(SOLiD-Next, JPNP23005)」により得られたものです。

エネルギー材料研究グループ
ナノ材料科学研究グループ