計量標準とは

私たちは、日常生活のありとあらゆる場面において、長さや重さ、温度や湿度、時間などあらゆる量を測定しています。 どの国の、どのメーカーの計測器を使用しても、1 mは同じ1 mであり、あらゆる量に関してその計測器の性能に応じて一致する結果を得ることができます。

これは当たり前のことではなく、世界的な協力関係と、計量に携わる人々の尽力により実現されています。 このような仕組みを実現する上で重要となるのが、基準となる「計量標準」です。 NMIJでは国家計量標準の開発・維持を行っており、校正サービスや標準物質供給などを通して計量標準の供給を行っています。

メートル条約に加盟する国の国家計量標準機関は、国際単位系(SI)に基づく国家計量標準を開発します。 そして、CIPM相互承認取決め(CIPM-MRA)に基づいて国際比較を行うことで、お互いの計量標準の同等性を確認し、その計量標準をそれぞれの国内で維持・供給します。 この仕組みにより、あらゆる国で同じ計測結果が得られることとなり、障壁の無い自由な取引や、科学技術の発展につながっています。
メートル条約に関してはこちらのページを、CIPM相互承認取決めや国際比較に関してはこちらのページをご覧ください。

計量標準は、ノーベル賞と密接な関りがあります。 時間標準に用いられるレーザ冷却の技術(Steven Chu, 1997)、 電圧標準に用いられるジョセフソン効果(Brian D. Josephson, 1973)、 抵抗標準に用いられる量子ホール効果(Klaus von Klitzing, 1985)、 長さ標準に用いられる光コム(John L. Hall, Theodor W. Hänsch, 2005) など、ノーベル賞に関わる多くの最先端の技術が、国家計量標準の実現に用いられています。

一方で、水道メーターやガスメーター、ガソリンメーター、電力量計やはかり、体温計や血圧計などの計量器は私たちの生活に密接に関係しています。 それら計量器の信頼性を確保し、私たちの安心・安全な生活を実現する上でも計量標準は必要不可欠です。 このように計量標準は、学術分野から日常生活に至る幅広い側面を有していると言えます。

このため、科学的・学術的な性格をもつメートル条約に加えて、実用的で行政管理に関わる法定計量分野を網羅する目的でOIML(International Organization of Legal Metrology)条約が1955年に締結されました。 日本は、1961年に28番目の加入国となりました。 OIML条約に関しては、こちらのページをご覧ください。

計量標準に関連する用語

計量標準に関わる幾つかのキーワードを紹介します。

知的基盤整備計画

経済産業省は、国の公共財として、国民生活や経済社会活動を支えるソフトインフラである計量標準などの「知的基盤」について、審議会における議論を重ね「知的基盤整備計画」として取りまとめています。 知的基盤整備計画では、産業界や皆様からお寄せいただいたニーズや国際的な動向を考慮しつつ、社会課題解決・産業競争力強化に向け、取り組むべき計量標準の整備について計画を進めています。 知的基盤整備計画の詳細はこちらのページをご覧ください。

トレーサビリティ

測定器は標準器によって校正され、その標準器もより正確な(不確かさがより小さい)標準器によって校正される、というようにより上位の標準器をたどっていくと、国家計量標準に辿り着きます。 このように、測定器が校正の連鎖によって、国家標準を基準として校正されたことが確認できる場合、この測定器により得られた結果は国家標準にトレーサブルであるといいます。

トレーサブル(traceable)の名詞がトレーサビリィティ(traceability)です。 近年では食品や製造の分野でもトレーサビリティは重要になっているため、計量標準の分野のトレーサビリティであることを明確にするため、計量トレーサビリティと呼ばれることもあります。 認定された校正機関を利用することによって、途中の校正の連鎖を意識することなく、計量トレーサビリティが確保されることになります。

「センターが発行する基準器検査成績書と計量トレーサビリティの関係について」

JCSS(Japan Calibration Service System:計量法トレーサビリティ制度)

JCSSは、「計量標準供給制度」と「校正事業者登録制度」の2本柱から成り、計量標準供給制度は国家計量標準につながる校正を維持するための仕組みであり、校正事業者登録制度は計量法関係法規およびISO/IEC 17025(JIS Q 17025、試験所及び校正を行う試験所の能力に関する一般要求事項)の要求事項に適合している校正事業者を登録する制度です。

標準器の校正あるいは標準物質の生産には特定の技術が必要であり、備える設備および技術と設備を管理する品質システムを備えている必要があり、 認定機関である独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)認定センター(IAJapan)が校正事業者登録制度の運営を担当し、校正機関が要件を満足しているか審査を行い認定を与えています。 詳しくは、JCSSホームページを参照して下さい。

NMIJでは、計量器等の校正・試験業務に関してISO/IEC 17025に、また標準物質生産業務に関してISO 17034にそれぞれ適合する品質システムを備え、運営しています。

不確かさ

「不確かさ」とは、1990年代に入ってから利用されるようになった、計測データの信頼性を表すための新しい尺度です。 従来から、「誤差」や「精度」といった概念が計測の信頼性を表すために用いられてきました。 しかし、技術分野や国によってこれらの使われ方がばらばらであったため、国際度量衡委員会のイニシアティブにより、計測データの信頼性を評価・表現する方法の統一に向けた取り組みが行われました。 その成果として、1993年に、計測に関わる主要な7国際機関からの共同出版の形で "Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement (計測における不確かさの表現ガイド)" が世に出ました。 このガイドは、英文タイトルの頭文字をとってしばしば GUM (ガム) と呼ばれています。

GUMでは、不確かさを、計測によって得られる私たちの知識の曖昧さの程度をあらわすものとし、その定量的評価のための手順を詳しく説明しています。その基本的な考え方は、様々な不確かさ成分を、

  • 標準偏差の計算という通常の統計解析によるAタイプ評価
  • データ以外の様々な情報から、標準偏差に相当する大きさを推定するBタイプ評価

のどちらかの方法で求め、これらを合成することにより、全体としての不確かさを求めようというものです。
不確かさは、計測データの信頼性が重要な意味をもつ様々な技術的、学術的文書の中で利用されるようになっており、また、ISO 9000(品質システム)、ISO 17025(校正・試験機関の能力に対する一般的要求事項)などの規格のなかではその評価が必須のものとして要求されています。


(参考)