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第33回 GSJシンポジウム 地圏資源環境研究部門 研究成果報告会【質問への回答

先日開催した「第33回GSJシンポジウム 地圏資源環境研究部門 研究成果報告会」において、当日回答できなかった質問に対して下記の通り回答致します。
質問回答
今回紹介した海洋環境問題でどの元素が問題になっているでしょうか。コバルトリッチクラスト国際鉱区の環境ベースライン調査においては、特に生物活動に関わる元素が重要と考えます。たとえば植物プランクトン増殖に関わる元素、たとえば窒素、リン、ケイ素の化合物である栄養塩(硝酸、亜硝酸、アンモニア、リン酸、ケイ酸)の水中鉛直分布を、ベースラインとして調査しています。また、環境調和型産業技術研究ラボ(E-code)において、生命現象における微量金属元素の機能と役割を明らかにする海洋メタロミクス研究について重点研究課題として取り組みます。
茨城沖の油田開発の可能性については、どのようにお考えでしょうか。北茨城沖海底には、宮城県・福島県沖から続く常磐沖堆積盆地があり、福島県の常磐炭田の沖では磐城沖ガス田として2007年まで石炭起源と考えられている天然ガスが生産されていました。北茨城沖海底下には、天然ガスのある地層よりさらに下に、白亜紀に海底で堆積した有機物を含む泥岩があり、一部は石油を生み出す能力があるらしいことが最近わかってきました。昨年報道されたように、約1650万年前には、この泥岩から生成したと考えられる天然ガスが海底に吹き出していたらしい証拠が、北茨城の五浦海岸から見つかり、当時はおそらく石油も出ていただろうと考えられています。しかし、茨城沖の石油資源に関するデータはまだ少なく、まだ「あるかも知れないことがわかった」段階ですので、今後の物理探査及び試掘調査により、実際にこの石油が現在も海底下にある程度の量残っているかどうか調査する必要があります。成果報告会では、北陸沖や三陸沖の探鉱支援の例についてご紹介しましたが、試掘で実際に石油や天然ガスが確認された場合でも、深い海底では商業的な開発につながる例は多くありません。深い海底では、開発に莫大なコストがかかるためです。しかし、エネルギー資源の大部分を輸入に頼る日本では、国内の有望な地域を探す努力は続ける必要があると考えます。なぜならシェールガス・シェールオイルの例のように、技術革新により現在は開発不可能な油田・ガス田が将来開発可能となる可能性があるからです。今後の調査の結果が待たれるところです。
土木建築物におけるNMR探査において、従来法から片側開放型に更新した実績はどのくらいありますでしょうか。NMR物理探査が打音・レーダーなどの従来法に取って代わったという国内実例は存じません。一因として、探査可能な深さが壁面から約1cmまでと非常に限定的であることが上げられます。 装置開発状況につきましては、以下の文献をご参照ください。
1)中島善人 (2020),核磁気共鳴スキャナーによる高分子製品の計測システムの開発 -原位置・非破壊での品質評価にむけて-,土木学会全国大会 第75回年次学術講演会.
2)中島善人 (2019),片側開放型核磁気共鳴スキャナーの開発:コンクリート中の水分の原位置非破壊検査にむけて,日本非破壊検査協会2019年秋季講演大会.
都市部での深さ40mを超えるような大深度トンネルの空洞調査などに適用可能な、物理探査技術は、存在するのでしょうか。成果報告会でご報告いたしました、高周波交流電気探査技術が一つの候補として挙げられます。現状では、深度20mまで探査可能であることは実証済みです。理論的に考えてましても、今までの経験上からも、深度40mにも十分適用可能だと考えられます。本手法の特徴として、舗装道路の上からでも調査が可能な点があげられ、道路があるところであれば調査可能です。トンネル周囲の空洞調査への適用に関しましても、今後検討の予定です。その他にも、表面波探査や高分解能反射法調査など適用可能な技術は複数存在します。可能であれば、複数の探査手法を組み合わせることをお勧めいたします。
産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門
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中央第7