2011年3月11日に東日本地方を襲った巨大地震は、地震による直接的な被害のみならず、液状化や地盤沈降、さらには沿岸域における広域の大津波による甚大な被害をもたらしました。特に、東日本沿岸における膨大な津波堆積物と震災瓦礫を含む土壌は、被災地の復興を妨げる大きな要因となっています。津波堆積物には通常の土壌と比べて、海成堆積物に特有な重金属類が含まれる可能性があり、その汚染リスクが懸念され、適切に評価することが極めて重要となります。
大津波により陸域に堆積した「津波堆積物」図1)について、青森県から千葉県の沿岸域より試料を採取しました(図2)。採取した津波堆積物に含まれる重金属の量(含有量)や水に溶け出す重金属の量(溶出量)を定量的に調査・評価しました。その結果、津波堆積物中の重金属量は、ほとんどの地域では環境基準値を下回っていましたが、宮城県や岩手県など極一部の地点でわずかに超過している場所がありました(表1)。そこで、津波堆積物上に人が居住すると仮定(図3)して、そこに住む人への健康リスクを定量的に評価しました。その結果、全ての地点において人の重金属類の摂取量は、WHO等で定められている許容摂取量をはるかに下回っており、リスクは小さいものと推定されました(図4)。
関連成果は土木学会誌に代表される学術誌や国際会議などにおいて速やかに公表・発信しました。これら成果は津波堆積物の対策策定や有効利用のための基盤情報として利活用することができ、震災復興への貢献も期待されることなどから、平成25年度土木学会論文賞を受賞しました。
参考文献
川辺 能成,原 淳子,保高 徹生,坂本 靖英,張 銘,駒井 武:東日本大震災における津波堆積物中の重金属類とそのリスク,土木学会論文集G,Vol.68,No.3,pp.195-202,2012