現代産業の持続的発展に役立てるために、地下・地圏環境の保全に係る様々な研究課題を環境工学的・理学的・社会・経済学的及び社会心理学的等複数の視点から俯瞰し、効率的かつ効果的な研究開発を鋭意進める。日本国内のみならず国際社会、特に開発途上国で深刻さが増加している種々の環境問題の解決に高い気概、使命感、責任感及び倫理観を持って挑んでいく。具体的には、研究部門の重点課題の一つとして位置付けられている「土壌汚染に関する情報整備と評価技術の開発」に係る調査・評価技術、汚染浄化・対策技術並びにリスク評価・管理技術の先導的研究開発と知的基盤整備を戦略的かつ効率的に実施する。また、関連開発技術と研究成果を社会へ広く普及・実装するために、土壌・地下水汚染分野のみならず、原発事故やCO2地中貯留、各種廃棄物の埋立て、または地層処分、休廃止鉱山跡地管理と利活用及びスモールスケールマイニング、或いは人力小規模採掘等幅広い分野に適用し、橋渡し機能を重視した社会貢献を強化する。研究成果の発信、普及及び社会実装に関しては、学術論文や報告のみならず、Webサイトでの公表や開発したソフトの配布、整備した基盤情報の公表と出版、土壌・地下水汚染対策、産業リスク管理及び産業ビジネスモデル等に関する技術相談、技術指導、民間共同研究、行政サポート及び関連学協会委員会への参加等も積極的に推進する。研究グループ全体として、年間原著論文15報(内国際誌論文5)、国際発表および招待講演の合計を8件以上目標とする。
多様化・複雑化する地圏環境リスク問題について多角的な視点から目的基礎研究を進めるとともに多様な環境リスクを適切に管理できるアプローチの開発を検討する。重金属類や有機化合物及び放射性物質等の汚染物質の存在形態や移行特性、ヒト・農作物及び生態環境等への影響評価とリスク低減に係る技術開発を行うとともに、土壌・地下水汚染問題のほか、資源開発やCO2地中貯留及び各種廃棄物の処理・処分等へ広く適用し、地球と環境に調和した産業活動の有り方やリスクコミュニケーション及びリスクガバナンスの提唱と普及に努める。
標準化を視野に入れ、水中低濃度放射性Csのモニタリング技術の高度化及び普及を推進する。自然由来汚染判別に関する基礎研究を行い、判別技術の高度化と体系化を図る。1,4-ジオキサンやPCB、多環芳香族炭化水素及びダイオキシン等の有機系汚染物質に関する分析手法を確立・検証し、日本における対策法の策定や国際試験規格への反映に努める。また、難透水性材料の測定技術をASTM基準の改正に反映させるとともに、実環境に即した汚染物質の溶出及び移行特性評価に関する試験技術の開発を進め、ISO規格の改定に反映させることを目指す。
自然鉱物による有機系汚染物質の分解メカニズムの解明や鉱物と無機母材を利用したヒ素汚染水の浄化技術開発と環境安定性評価等を行う。汚染物質の科学的自然減衰に係る調査や環境微生物を利活用した揮発性有機化合物の浄化、特に複合汚染の浄化並びに動電学的手法を用いた建設泥水等の処理技術の開発を実施する。また、Sustainable Remediationコンソーシアムの運営を介して、環境・社会・経済面を統合的に考慮した合理的土壌汚染対策方策の検討と普及を図る。さらに、民間との共同研究等を介して、関連技術の実用化と橋渡しを促進する。
地圏環境リスク評価システムGERASの高度化及び機能の多様化を行い、産業界や社会への普及と実装を促進するとともに事業所等におけるリスク管理への貢献を図る。土壌汚染調査、特に溶出試験法の課題整理や改正を念頭においた精度の向上のための基礎的実験研究を実施し、関連省庁及び学会への提言を行う。また、除染・帰還を見据えた地域別の放射線セシウム流出特性評価とリスク管理戦略を構築し、復興支援に寄与する。加えて、リスク管理に基づく休廃止鉱山跡地の管理方策を構築し、関係省庁への提言と技術的サポートを実施する。
「高知県地域表層土壌評価基本図」の出版に向けて、当該地域の表層土壌試料の組成分析や特定有害物質の含有量と溶出量試験ならびにリスク評価等を実施し、出版に必要とされる各種データを着実に整備し、表層土壌評価基本図シリーズの第5弾として出版する。また、表層土壌評価基本図シリーズ第6弾の整備に向けて、近畿または北陸地域の地質及び土壌に関する基本情報を収集・検討するとともに、一部の予備調査を実施する。さらに、多種にわたる土壌及び汚染物質の溶出や吸着特性等の基礎データを取得し、基盤情報として蓄積していく。
研究効率の向上及び研究交流を深めるために、領域内では、部門内外関連グループとの連携と協力を行う。産総研内では、エネルギー・環境領域や材料・化学領域とも連携・協力する。また、所外においては、複数の大学、研究機関及び民間企業との連携、または共同研究を推進し、学術交流を促進するとともに、研究成果の社会への還元を図る。さらに、国内外関連学会の委員会活動に参画することによって、社会貢献活動にも努める。