地下温暖化が地下水質に及ぼす影響を評価しました。地下温度の上昇が水質や温室効果ガスに影響を与えることが確認され、研究成果は学術誌等で発表されています。

研究紹介

地中熱利用における
地圏環境評価

熱環境攪乱が地圏環境(土壌・地下水)に及ぼす影響の評価

地球温暖化がクローズアップされて長い時間が経ちましたが、その影響や都市化などによる地表面温度の上昇によって、地下の温度が上昇する“地下温暖化”が世界各地で観測されています。東京や大阪周辺を始めとした世界各地のメガシティでは、地下鉄や地下街、下水道などの地下インフラ構造物が高密度に発展しており、それらによる直接的な排熱が、更なる地下の熱環境攪乱を引き起こす可能性が懸念されます。特に、地下の温度上昇は、地下の物理・化学・生物的なプロセスに影響を与える可能性があります。しかし、世界的にも、その影響は十分に明らかにされていません。

埼玉県荒川低地中部に実証試験サイトを設け、長期間、原位置で地下に強制的な熱負荷、その後の自然放冷を繰り返し与え、その際の地下水質への影響を観測してきました。最大で7℃程度の温度上昇により、ホウ素、ケイ素、リチウム、溶存有機炭素、ナトリウム、カリウムに濃度上昇傾向、マグネシウムでは濃度減少傾向が認められました(図1)。

図1

温度変化幅(ΔT)と濃度変化量(ΔC)の関係性:(a)ホウ素、(b)マグネシウム、(c)ケイ素、(d)ナトリウム、(e)リチウム、(f)カリウム、(g)溶存有機炭素(Saito et al. (2016)を一部改変)

加えて、試験サイトの土壌・堆積物などを対象に、これらの化学成分における溶出特性、吸着脱離特性などの温度依存性評価も進めています。これらは地下水質への影響を検討した例ですが、その他、地表面からの温室効果ガス(CO2とCH4)の放出量を含む、主として不飽和帯の温室効果ガスの動態と、地下温度との関係性なども観測を進めてきました(図2)。

図2

異なる2地点(W1とW2)における地表面CO2フラックス(F)と深度10 cmにおける温度(Ts)の関係性(斎藤ほか、2021)

関連する成果は、国内外の学術誌などにおいて公表・発信に取り組んでいます。関連する受賞歴は、平成30年度土木学会論文奨励賞(受賞論文:https://doi.org/10.2208/jscejer.74.8)、令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞(業績名:地下温暖化が地下水環境に及ぼす影響評価に関する研究)になります。

参考文献

  • Saito, T., Hamamoto, S., Ueki, T., Ohkubo, S., Moldrup, P., Kawamoto, K., and Komatsu, T (2016): temperature change affected groundwater quality in a confined marine aquifer during long-term heating and cooling. Water Research, 94, 120-127. https://doi.org/10.1016/j.watres.2016.01.043
  • 斎藤健志・川本健・小松登志子(2021):荒川低地における不飽和帯の温度変化と二酸化炭素の生成と消失.土木学会論文集G(環境)、77(3)、72~82. https://doi.org/10.2208/jscejer.77.3_72